※ 前回の未来探訪はこちら 【未来探訪#004】教えて、新保先生!日本「ロボット立国」への道 http://nge.jp/2015/12/17/post-125995
モノのインターネット、いわゆるIoT(Internet of Things)。それに3Dプリンター。
これらの普及は、今ある産業のあり方を変えて「第4次産業革命」が起こるとまで言われている。
そんな昨今、まさにこれら最先端テクノロジーを駆使した、様々な新しいサービスを展開しているスタートアップ企業がKabuku(カブク)だ。
2013年に設立され、つい先日7.5億円の資金調達に成功した、イマをときめく企業のひとつだ。
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日本の伝統芸能である「歌舞伎」の語源「かぶく」から社名を取ったという同社は、いったいどのようなことをやり、また今後やっていくのか?
そして、これからの“日本のものづくり”はどう変わっていくと考えているのか?
代表の稲田雅彦氏にお話を伺った。
世界30カ国の3Dプリント工場と提携
「(Kabukuは)半分IT業で、半分が製造業です」
と、語る稲田代表。お話の前に、主な事業内容を簡単に紹介しよう。
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2013年に設立されたKabukuの主力サービスは、『rinkak(リンカク)』。3Dプリンターのデジタル製造技術を、誰にでも使えるようにするプラットフォームだ。
これは、さらに大きく分けて次の3つがある。
■1:B to Factory(rinkak MMS & PPP):デジタル工場のプラットフォーマー
世界30カ国の産業用3Dプリント工場とネットワークを繋ぎ、工場の遊休期間などでも稼働できるような最適な送客を実現。
また、3Dプリンターによる製造に必要な、見積もりやデータの解析・修正、製造管理など、全ての業務機能をワンストップで行えるソフトウェアの提供も行っている。
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■2:B to B(rinkak BUSINESS):小〜中ロット商品の受注・製造など
対企業向けの様々なソリューションを提供。
注目の事例としては、トヨタと共同で行っている『OPEN ROAD PROJECT×rinkak』がある。
これは、トヨタが発売を予定するパーソナルモビリティEV『i-ROAD』のエクステリアパーツを、ユーザーが好みに応じてカスタマイズできるサービスだ。
フロントカウルカバーやドリンクホルダーなどを、ユーザーが思い思いのデザインやカラーで、簡単に作ることができるソリューションとなっている。
■3:B to C(rinkak MARKET PLACE):3Dプリントプロダクトの製造・販売
個人がデザインしたプロダクトを3Dプリンターで製造。それをそのままコンシューマーに販売できるサービス。
開始後わずか2年で、アジア最大のマーケットに成長。
3Dデータの作成や変換、解析や修正などが、誰にでも簡単にできるソフトウェアも開発した。
人工知能を使った「マス・カスタマイゼーション」
Kabukuの事業の中で、今後我々にとって身近になりそうなのが、上記2のB to Bソリューションだ。
特に、トヨタとの共同事業は、欧米で最近流れが来ている“マス・カスタマイゼーション”の試みだという。
稲田代表、
<トヨタi-ROADのエクステリアパーツをフルオーダーできるシステムです。
お客様が選んだデザインや色などを、我々が開発したソフトウェアを使ってクラウド上で3Dデータに自動生成します。そして、そのデータを3Dプリント工場へ送り製造、お客さんに届けるといったサービスです。
こういった、自分だけの“究極の1点モノ”が簡単に作れるソリューションを、“マス・カスタマイゼーション”と呼んでいます。
“インダストリー4.0”を提唱するドイツやアメリカのスタートアップ企業などで、最近始められているものなんですが、これこそ3Dプリンターをはじめとするデジタルものづくりならでは。
従来の製造機械では金型が必要で、金型を作るには1つで数百万円することも。コストや時間的にリスクをとれなかったんです。>
<一方、3Dプリンターなどのデジタルものづくりなら、データさえ作れれば金型が不要なので、1点ものでもコストが安い。すぐに作れるので、在庫を持たなくて済みます。トヨタさんとの事例は、そういったソリューションの走りだと言えるでしょう。
また、我々には、(前述の通り)世界30カ国で提携している工場があります。
なので例えば、アメリカのユーザーさんからオーダーがあった場合はアメリカの工場で、日本のユーザーさんからのオーダーは日本の工場で作る、といったこともできます。
速く作れる上に、物流の時間やコストも抑えることができるんです。>
ちなみに、こういった3Dデータ自動生成のソフトや最適な工場を選ぶ裏側のエンジンには、人工知能を使ったビッグデータ解析の技術が取り入れられている。
稲田代表は、東京大学大学院で人工知能研究に携わったひとり。共同事業者の足立昌彦氏も人工知能の研究経験者だ。
また、Kabukuのスタッフには、機械系や電気系、ロボットやIT系など、様々な分野のスペシャリストが集まっている。
3Dプリンターの普及で産業が一変!?
このように、3Dプリンターを中心に事業を展開しているKabukuだが、今後の世界の動きや市場動向をどう捉えているのだろう?
稲田氏、
<家庭用3Dプリンターは、ご存じの通り、家電量販店で3万円代で販売されるなど、かつての数百万円台から一気に安くなりましたよね。これは、2009年にFDM(熱溶解積層法)という技術の特許が切れたことが契機です。
産業用3Dプリンターにも、同じようなことが今起きています。こちらは、2014年にSLS(粉末焼結積層造型法)という技術の特許が切れました。これにより、産業用の方も、3年前は数億円したものが、1/10の価格になるのも近いうちに起こります。
そのため、欧米では多くの企業がこの市場に参入しているし、日本でもキヤノンさんやリコーさんなどが参入しています。今後も、新規参入をする企業は増えるでしょうね。>
クルマや家、自分だけのメガネも!
3Dプリント製品は、今後様々なものが出てくるという。
稲田氏、
<3Dプリンターというと、日本ではまだ「プロトタイプの試作品を作るためのもの」というイメージがあります。
ですが、欧米ではすでに最終製品を作るために活用している企業・団体が増えてきています。>
<例えばクルマ。
アメリカのスタートアップ企業ローカルモーターズでは、クルマの大部分を3Dプリンターで作っています。しかも、世界中のエンジニアやデザイナーを巻き込んだオープンプラットフォームで。だから、圧倒的なスピードで開発が進んでいるんです。
他にも世界中で、ドローンやカメラのマウント、家具や家、義肢やインプラントといった医療関係など、様々なものが3Dプリンターで作られています。
また、NASA(米航空宇宙局)では、火星探査などに使う次世代ローバーの部品を、3Dプリンターで製作。
アメリカ軍では、ピザのような食料を作る研究も行われているなど、宇宙航空や軍事関連にまで、3Dプリンターが使われるようになってきています。>
<素材もすでに、樹脂や各種金属、石膏から木まで、様々なものが使えるようになってきていますね。この辺りも、これからさらに、対応する素材が増えていくでしょうね。>
<そして、あと2〜3年もすれば、スマホに3Dスキャナー機能が装備されると言われています。
そうなれば、自分の体のサイズをスキャンしてデータをネットで送り、3Dプリンターで製品を作ることも可能になる。
自分の体型や好みにあったメガネやウェア、シューズなどを、WEBで当たり前に買える時代が到来します。そうなれば、“マス・カスタマイゼーション”が急速に進むでしょうね。>
日本でも2020年には21.8兆円市場に
世界的に活況になりつつある3Dプリンター市場だが、日本ではどうなのだろう?
稲田氏、
<経済産業省が2014年に出した市場予想では、3Dプリントにより創出されるマーケット規模は、2020年に21.8兆円になると言われています。欧米には遅れていますが、日本もこれから急激に普及していくという予想ですね。
そういった全体のマーケットの中で、弊社のターゲットはコンシューマーや工場向けなどで、計20.8兆円ほど。今は、小ロットのモノを作る方が多いのですが、これから大量生産にも3Dプリンターを使うようになれば、可能性は十分にあります。>
第2のトヨタやソニーが生まれるかも?
3Dプリントに関連する市場は、今後増加する期待が大きいが、その真っ只中でKabukuはどのような役割を演じるのだろうか?
稲田氏、
<ものづくりを開かれた世界にしていきたいですね。いわば“ものづくりの民主化”です。
僕は、大阪にある“工場の街”東大阪の出身なんですが、元々日本人は、独自に開発や製造をするクローズドなイノベーションが得意。職人気質というか、現場が優秀だから、閉鎖的でもよかったんです。
でも、もはやそれには限界があると思います。地元にある工場を見ていても、そう感じますね。
ここ数年、ソフトウェアやインターネットの世界がすごく伸びたのは「基本的にオープンにし、みんながハッピーになる」という思想があったからだと思います。
これからの“ものづくり”にも、同じような思想が必要ではないでしょうか。
いろんなものをオープンにすることで裾野が広がれば、多様なプレーヤーが参入できる。そうなれば、適切な“切磋琢磨”が起こり、コンシューマーにとってはよりよい製品が、リーズナブルに手に入るようになる。
そして、結果的に社会は質が高いもので溢れ、“みんながハッピーになる”と思います。
そのために、Kabukuとしては、世界中にいろんなデータを流通させて、適切な工場と繋がらせてもらう。また、ワンクリックで何でも作れるようなプラットフォームを作りたいですね。
いずれにしろ、今の流れは新しい“ものづくり”にチャレンジするチャンスです。日本から、第二のトヨタやソニーのような企業が出てくる可能性だって十分にある。
Kabukuは、デジタルのプラットフォームによって、その土台作りができたらいいな、と思っています。>
設立して3年、わずか10数名のスタッフで、ずっと「短距離走を続けています」という稲田氏。
目指すのは、日本の新しい“ものづくり”を支える縁の下の力持ち。
今後の飛躍に胸が膨らむ。
【取材協力】
※ 稲田 雅彦 – Kabuku 大阪府出身。2009年東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。そのかたわら、人工知能や3Dインターフェースを用いた作品を発表し、メディアアート活動を行う。 大学院修了とともに博報堂入社。入社当初から、さまざまな業種の新規事業開発、統合コミュニケーション戦略・クリエイティブ開発に携わる。カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。 2013年株式会社カブク設立。主な著書『3Dプリンター実用ガイド』など。