隠れた佳作コメディ『おじさんに気をつけろ!』は"当たりギミック成功前夜"な作品です

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2015年12月21日 12:52  BOOK STAND

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 前置き抜きにご紹介する『おじさんに気をつけろ!』(1989)は、当時8歳のマコーレー・カルキンが、『ホームアローン』でスターダムを駆け上る前の"成功前夜"の作品です。また、カルキン坊やが本作で演じたキャラクタやシーンなどが『ホームアローン』の土台になったことでも知られます。

 『ホーム〜』も手掛けたジョン・ヒューズが、熊のように大きな身体と独特の眼力を持つ名優ジョン・キャンディとコンビを組んだファミリーコメディのひとつで(少し前にご紹介した『大災難P.T.A.』もそのひとつ)、2000年代以降の感覚で観ると酷評されるけど、コテコテの80年代映画好きには絶賛される系統。

 兄夫婦がのっぴきならない事情で家を空けることになり、弟のバック・ラッセル(キャンディ)は、お歳頃の長女やイタズラ好きの長男(カルキン坊や)、おませな次女の世話をすることになる、といういわゆるナニー(ベビーシッター)モノ。
 しかし、バック当人は中年になるまでフリーダムに生きてきたダメな大人代表といった人物で......と、書いてる筆者の心が何故かチクチクして来るプロフィール。

 作る料理はゴミのようだし、洗濯した衣類は電子レンジで乾かすし(おしぼりかよ!)、三人を学校に送り出したあとは惰眠を貪り、送迎に使う車は、止める度に毎回アフターファイア(マフラーから爆発音が出る現象)を起こす超ポンコツ。おまけに裏賭博で1年分の生活費を回収しようとするし、そのくせ腐れ縁の(ほうれい線が気になる)彼女から結婚を迫られて答えを濁しているクズなのである。

 でも心根は好人物なので、下の子供たちには気に入られ、彼氏と一線を越えたい長女の貞操を守るために奮闘し始め、ラッセル家のナニーとしてしっかり務め上げるという、ヒューズ作品らしいハッピーエンドに落ち着きます。
 作中のスジとしては反抗期の長女と自由人バックの交流が核となっており、長男役のカルキン坊やの出番はちと少なめなのが残念なところ。

 とはいえ、カルキン坊や絡みのシーンについては、バックとの早口での掛け合いや、ラッセル家を訪れたバックの彼女に対してドアのポスト越しに対応する場面などなど、『ホーム〜』の土台になったといわれる通り、その要素を確かに感じ取れます。

 2つの作品の流れを含め、本作はプロレス的にいうと"当たりギミックの成功前夜"でしょうか。
 プロレスのギミック(キャラクター)は、選手や関係者のアイデア段階から、客の前で反応を見てみるというプロセスが必要になります。反応次第で無駄を削ぎ落とし、受けの良い当たり要素が土台となり、さらにカリカチュアされてトレードマークになるのです。
 
 現在のWWE(下部組織NXT含む)でも、TVカメラの入らないハウスショーで試験的にギミックが試されることがあります。まあネット時代故に、客受けの悪さに戸惑うスパスタ(選手)の姿がネットで公開されてしまうこともあるみたいですが。

 ともかくとして、大笑いするようなモノでも、大泣きするような感動モノではないけれど、80年代のやさしいコメディ映画が観たいなら、本作はオススメの一本です。

(文/シングウヤスアキ)



『おじさんに気をつけろ! [Blu-ray]』出版社:ジェネオン・ユニバーサル
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