
海外ではもちろん、日本でも徐々に広まりつつあるクラウドファンディング。
WEBサイトでプロジェクトを公開し、支援者を募ることで資金や商品の購入につなげる、新しい潮流のひとつであることはご存じの通り。
そんなクラウドファンディングを利用し、アニメ映画では初の大成功を収めたのが2016年公開予定の『この世界の片隅に』だ。
国内の人気クラウドファンディング・サイトのひとつ、『Makuake(マクアケ)』で2015年3月〜5月に行ったキャンペーンでは、なんと
支援金36,224,000円 支援者3,374人(当時国内最高)
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を達成。今年の大きな話題のひとつとなった。
そんな、有名プロジェクトを仕掛けた裏方のひとり、GENCO(ジェンコ)代表の真木太郎氏が、当時の裏話やクラウドファンディングの可能性について語るフォーラムが開催。
真木氏の貴重な体験談などをお聞きしたので紹介しよう。
アニメ・ビジネスのプロが語る
真木氏が講演したのは、2015年12月17日(木)、東京都千代田区のデジタルハリウッド大学が主催した『アニメ・ビジネス・フォーラム+(プラス)』だ。
これは、様々なコンテンツやIT業界で活躍する人材育成を行っている同大学が、毎年実施しているアニメ・ビジネスを目指す人のための講演会。
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当日は、3名の業界スペシャリストの講演が行われ、真木氏もそのひとりとして登壇した。

ちなみに、真木氏が代表を務めるGENCOは、アニメ専門のプロデュース会社。企画立ち上げ・資金調達・制作・収益化など、アニメ制作に関わる業務全般に携わるスペシャリストだ。
今回のクラウドファンディングで、『「この世界の片隅に」アニメ化応援委員会』を連名で立ち上げたアニメーション制作会社MAPPA(マッパ)とは、『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』などを一緒に手掛けた仲。
2社はもちろん、『この世界の片隅に』の映画制作も担当している。
製作委員会での資金集めが難航
昭和19年〜20年の広島・呉を舞台に、戦時中、身近なものが失われながらもなお生きる、主人公・すずさんの暮らしを描いたのが『この世界の片隅に』だ。
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こうの史代さんの同名漫画が原作、監督は映画『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直氏だ。
真木氏は、まずクラウドファンディングで資金集めをした理由を「製作委員会では資金集めが困難だった」と語る。
通常、日本では映画などの資金集めは、複数の企業や関係者が集まった製作委員会が行う。
が、今作はあまり名前が売れていない。
漫画自体は、第13回文化庁メディア芸術祭 優秀賞を受賞した素晴らしい内容なのだが、テレビアニメになっていないと、資金が集まりにくいのだ。
支援金は1円でも多く映画に
そこで、最近話題のクラウドファンディングにトライ。が、制作費総額が2億円以上かかるのに対し、ファンディング目標額は2,000万円に。プロジェクトの目的も『パイロットフィルムの制作費』とした。
真木氏、
<例えば、もし集まったお金が500万円だったとしても、「そのお金で映画を作ります」と言ってしまうと、作らないといけない。
でも、それでは無理なので、支援してくれた人たちにウソをついたことになってしまうんです。だから、パイロットフィルムにしたんです>
また、支援者してくれた人に対するリターンも最小限にした。
支援コースは、2000円、5000円、10,000円、100,000円、300,000円、1,000,000円の6つ。それに対し、リターンは
■1:支援メンバー証を発行。制作進捗など最新情報をメディアより先にメールで配信(全コース) ■2:原作者書き下ろしイラストが付いた、主人公・すずさんからの手紙(全コース) ■3:制作支援メンバーズミーティング(5,000円以上) ■4:本編のエンドロールに支援者の名前をクレジット(10,000円以上)
といった感じだ。
真木氏、
<支援してくれる人たちの一番の想いは、映画を完成させることだと思った。だから、支援金の1円でも多く映画の制作費に掛けたかったんです。>
それが結果的に成功。
3月9日11時の公開から、その夜には5,000,000円が集まり、目標額は1週間後の3月18日に達成。
サイト公開が終了した5月29日には、前述の通り、目標額の181%である3,000万円以上の支援金が集まった。
支援者総数3,000人超は、当時国内最高だったのも前述の通りだ。
クラウドファンディングはファン集め
成功の理由は何だったのだろう?
真木氏、
<クラウドファンディングは資金集めより支援者を集めることの方が大切だと思います。
特に、今回の場合、集まった資金だけで映画制作は無理だったし。それより、応援してくれる人をより多く集めた方がいい。ちゃんと誠実にやることが大切だと思ったんです。そこで「集めた資金でちゃんと映画を作ります」ということを、アピールしました。
まず、アニメ制作に経験や実績があるMAPPAさんや弊社(GENCO)の名前を出して、「おかしな事はしませんよ」と宣言。
また、監督が広島などでロケハンしている模様などもサイトに出して、準備をちゃんと進めていることも伝えました。>
集まった支援者(ファン)を大切にする
サイトでの支援金募集は、大成功のうちに終了。が、そこから先がもっと大切だ。
真木氏、
<支援者して頂いた方々は、この映画のファンでもあります。映画が出来上がったら、絶対に劇場へ来てくれる(であろう)お客さまです。
なので、約束したことはちゃんとやらなければならないんです。>
公約通り、映画に関する最新情報を、どのメディアより先に支援者全員へメールなどで配信。
これを、各支援者がSNSやブログで拡散することにより、結果的に映画のプロモーションにも繋がっている。
2015年7月には、制作支援メンバーズミーティングも全国3カ所で開催。イベント前には「映画制作が正式決定した」ことをアナウンス。イベント中は「支援してくれた資金でここまでできました」といった感じで、秘蔵の最新映像も公開。
支援者=ファンを大切にする、様々なアフターフォローを行っている。

C2Cという新しい繋がり
真木氏、
<クラウドファンディングは、C2C、つまりクリエーターTOコンシューマーという新たな繋がり方ができるのが特徴ですね。>
今まで、テレビや映画を通してしか繋がらなかった制作側と視聴者側が、直接的な繋がりをもつことができるということだ。
真木氏、
<このまま(クラウドファンディングが)盛り上がっていけば、何年か先には、クラウドファンディングで集めた資金だけで映画を作ることもできるかもしれません。
そうなれば、「100%ファンが作る映画」という、新しい制作方法ができることになりますね。>
資金を集めるだけ集め、実行しないといった“詐偽”的トラブルも多いと聞くクラウドファンディング。
だが、支援者に対し真摯に対応すれば、必ずや新しい道や繋がりできる。
アニメ映画に関わらず、どんな分野でもこれは同じではないだろうか。
そう実感できた真木氏の講演だった。
【取材協力】
【参考・画像】
※ MAPPA/GENCO「この世界の片隅に」アニメ化応援委員会 – Makuake