“大気汚染”と言えば中国を思い浮かべる方が多いことだろう。これは中国が隣国であり、日本も影響を受けやすいことから印象が強いからであると考えられ、つい先日には『赤色警報』という過去最高レベルの大気汚染警報が発令されている。
ところが、もっと大気汚染が凄まじい国があった。インドだ。
世界保健機関(WHO)によれば、世界で最も大気が汚染されている都市は、中国の北京ではなく、インドの首都ニューデリーだった。
2014年のWHOの調査に依れば、世界91カ国1,600都市のPM2.5の年平均値では、ニューデリーが1立方メートル辺り153マイクログラムと最悪だったのだ。
12月23日には、ニューデリーを含むデリーのPM2.5の濃度が、日本の環境基準値35マイクログラムの約14倍となる、1立方メートル辺り480マイクログラムにも達した。
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そのため、日本政府は在留邦人に注意を呼びかけた。
屋内でも空気清浄機を最大風量にせよ?
同じ頃、北京でも大気汚染が深刻な状態になっていたため先述の『赤色警報』が発令されていた。
しかし、ニューデリーではそれを上回る大気汚染が発生していたにもかかわらず、緊急警報は出されなかった。
それは、警報を発する規定が無いからだ。
しかし、デリー市内は大気が白く濁り視界も効かない日が続いたため、在インド日本大使館は、邦人に対し屋外活動を控えるように注意を出した。
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そればかりか、屋内でも空気清浄機を最大の風量にするように促すという凄まじさだ。
インド環境当局が調査したところ、同市内では今月は連日にわたりPM2.5が300マイクログラムを超えていたという。それでも警報は出されないのだ。
同国政府の研究機関によれば、この大気汚染で年間1万〜3万人の市民が死亡していると言うから凄まじい。その多くが喘息や肺がん、心臓疾患によるという。
この大気汚染の原因としては、元々増え続けている自動車、特にディーゼル車の爆発的な増加による排ガスや、石炭火力発電所からの排出ガスが考えられている。
特に、大気汚染が10月〜1月下旬にかけて悪化する原因としては、農村部の野焼きが行われる季節であり、調理や暖房に木材や固形燃料が使われる量が増えるからだという。
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また、ヒンドゥー教の『ディワリ』と呼ばれる祝祭が行われ、市内各地で大量の花火が使われることも原因だと考えられている。
その上、この時期は風が弱まり空気が留まってしまうのだ。
まずはディーゼル車の規制が始まった
そこで、焼け石に水かも知れないが、デリー首都圏政府は、来年の1月1日から15日間、平日の午前8時から午後8時まで、市内を走行できる自家用車を、ナンバー末尾の数字が、偶数の日と奇数の日で交互に制限することを発表した。
また、夜間のトラック乗り入れも禁止する方針だという。
ところがニューデリーでは、公共の交通手段が充実しておらず、地下鉄もバスも既に不足しているため、連日乗客で溢れかえっているのだ。
そのため、自家用車の走行を制限した分を、公共の交通機関では補えないため、無責任な対策だと批判されている。
また、ディーゼル車の燃料価格を上げるという案や自動車税、さらに駐車場料金を上げるといった案も出ているようだが、国民の理解を得るのは難しそうだ。
これほど、ディーゼル車は悪玉になっている。
他にもインドの最高裁は16日に、デリー首都圏とその周辺で運行しているタクシー(約8万台)の、実に7割を占めると言われているディーゼル車を、2016年3月末までにCNG(圧縮天然ガス)車に切り替える命令を出した。
これは業界にとっては無茶振りだ。所有車を急いで買い換えねばならない(もっともメーカーにとってはボーナスだが)。
まだある。最高裁は排気量2,000cc以上のディーゼル車の登録を、2016年1月〜3月の間は禁止するとし、製造後10年以上のディーゼルトラックの通行も禁止するとした。
インドの大気汚染を改善するには、かなりの劇薬が必要になりそうだ。
【参考・画像】
※ 大気汚染が「世界最悪」の都市は? インド、PM2.5対策躍起 – 朝日新聞デジタル
※ grynold / Shutterstock