読書大好きな芸人が「泣くからもう読めない」と絶賛する純文学作品

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2015年12月30日 15:02  新刊JP

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新刊JP

松本ハウスのハウス加賀谷さん(左)と松本キックさん(右)
『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス/刊)のオーディオブック化を記念して行われたお笑いコンビ・松本ハウスさんへのインタビュー。
 前編では、出版後に寄せられた反響や統合失調症という病気についてお話をうかがいました。続く後編では本書を執筆した経緯や、読書家だというお二人の気になっている本などを聞いています。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■「オメエ、いい筆圧してるじゃねえか!」から始まった壮絶執筆秘話(冗談)

――この『統合失調症がやってきた』を書かれた経緯を教えてください。

松本:(イースト・プレスの編集者である)藁谷さんとですね…。

加賀谷:街で肩と肩がぶつかって、「オメエ、いい筆圧してるじゃねえか!」

松本:こうやって妄想が膨らんでいくわけですね。

加賀谷:違いますよ、キックさん! これは一人で遊んでいるだけです(笑)!

松本:実はそれ以前もいくつか本やDVDのお話をもらっていたんですね。(松本ハウスの)復活に際しての本とか、病気についての本の話です。ただ、当時はコンビとして足元が定まっていない状況だったので、そんな中で本を出すのはできない、何も語れないということでずっとお断りしていました。
その後、ライブの本数が増えてきて、自分たちの形もできてきた。そのときちょうど良いタイミングで、藁谷さんからオファーをいただいたので「ぜひお願いします」と。

――この本は加賀谷さんの独白をメインに、松本さんの独白が差し込まれるという体裁になっていますが、これは加賀谷さんがお話されたのを松本さんが文章にしたのですよね。

松本:そうですね、物語にしていきました。

――とても丁寧に書かれていて、とても分かりやすく、読みやすかったです。かなり突っ込まれてお話されたのではないですか?

松本:何回も話を聞きましたね。それでも辻褄が合わないところがあって、また同じ話を聞くんです。これはきつい作業だったと思いますよ。

加賀谷:嫌でしたよ。僕の記憶の中であいまいになっているところは、要するに触れたくないところなんです。思い出したくないんですよ。でも、それをほじくりだそうとするので、嫌な人だなあって。

――かなり壮絶ですね。

加賀谷:自分で消化できていると思っていても、できていないんですよね。えずいてしまうんです。でもせっかくやるのなら、ちゃんとやろうと。

松本:統合失調症について事象を説明している本は多いのですが、当事者の心情が書かれている本はすごく少ないんですね。だから、当事者の気持ちの部分を正しく書きたいと思っていました。

■読書家の松本ハウスが気になっている本は?

――『統合失調症がやってきた』の中で、たびたび読書にまつわるエピソードが出てきますが、本はよく読まれるのですか?

松本:昔はよく読みましたね。

加賀谷:そうですね、昔はよく読みました。

――では、今は読書を抑えている感じですか?

松本:結婚をして子どもができて、去年2人目ができたのですが、なかなかゆっくり本を読んでいる時間が取れないんですよね。

加賀谷:僕もニンテンドー3DSとPSVitaを買ったら時間がなくなってしまって…。

松本:遊んでるんじゃないか(笑)! 今なら加賀谷君のほうが本は読んでいますよ。

加賀谷:でも、新刊はあまり読まないですね。こだわりの本を並べている古本屋さんに行って、興味のあるノンフィクションの本を選ぶことが多いです。世界の貧困について書かれた本とか。
集中し続けることが苦手なので、ずっと読み続けていられないんです。だから、読みやすく、興味のあるテーマの本を読んでいます。

――加賀谷さんは中学生の頃に統合失調症を発症されて、その後2年間グループホームで過ごされていますが、その頃たくさんの本を読んでいらっしゃったそうですね。

加賀谷:そうですね。その頃もノンフィクションでした。でも、昔の方が今よりも幅広く読んでいましたね。フェティッシュ系というか、耽美系というんでしょうか。サブカルチャーというか、SMボンテージとか、秋田昌美さんとか、澁澤龍彦さんあたりにハマったこともあります。
また、あるときベストセラーランキングに入るような本ってどんなだろうと思って、友だちに電話で「何が面白い?」と聞いてハマったのが、大沢在昌さんの『新宿鮫』シリーズです。最初に読んだのが『無間人形』だったのですが、もうガツーン!ときまして。そこから警察小説や犯罪小説を読み込みました。

――松本さんはどのような本を読まれていたのですか?

松本:文学作品ですかね。又吉君じゃないですけど、純文学とか。

――小説を書こうと思ったことはないのですか? すごく良い作品が書けると思うのですが…。

松本:実は加賀谷が入院する前にそういったお話をもらったことがあるんです。ただ、忙しさにかまけて書かないまま流れてしまったんですよね。実は少し書きだしたのですが、納得のいくものが書けなくて。

加賀谷:それ、僕も誘われた話ですよね。なぜか僕も小説を書こうと思う寸前まできていたんです。

松本:でも昔から、文章を書いてばらまくみたいなことはやっていました。ダウンタウンさんが司会をされていた「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」という音楽番組があったのですが、そこから名前を拝借して、「メディアチャンプ」というタイトルをつけて、B5の紙に文章を書いてばらまくわけですよ。

――どういった文章なのですか?

松本:僕が書いていたのは、心に鬱屈したものを抱えている人間の独白調の物語ですね。

加賀谷:僕はドロドロのファンタジーを書いていました。

――加賀谷さんはファンタジー、松本さんはまさに純文学ですね。この本の松本さんのパートでは、最初に鴨長明の『方丈記』の冒頭の一節を引用されていて、センスがものすごく溢れていると思いました。

松本:『方丈記』は高校生の頃、大好きでした。「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず…」という一節が好きで。すごく冷めていたんですよね。書道で好きな文字を書くとなったときに、僕は「愚」という文字を書いたんです。世の中が「愚か」に見えていたんです。

――最近気になっている本はありますか?

加賀谷:船戸与一さんの『蝦夷地別件』ですね。文庫になったと思うので、手が届くかなと思っています。あとは、花村萬月さんの『百万遍』という自伝小説。ドキュメンタリーですと、オリバー・ストーンの『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』は興味あります。この3冊は読んでみたいですね。

――松本さんはいかがでしょうか。

松本:最近手つかずなのですが、もう一度純文学を読み返したいと思っています。好きな作家は横光利一さんという新感覚派の作家で、新感覚派の代表格といえば川端康成さんですが、本当は横光さんが旗手で、当時の日本では一番の作家といわれていました。文章がすごく実験的というか、挑戦的で好きでした。でも、泣いてしまうから読めないんですよ。『春は馬車に乗って』という作品があるんですけど、本当にボロボロ泣いてしまいます。あとは『風の谷のナウシカ』も泣いてしまうので読めないですね(笑)

――『統合失調症がやってきた』がこのたびオーディオブック化されるのですが、オーディオブックに対して期待することはありますか?

松本:金谷ヒデユキさんが『青天の霹靂』のオーディオブック版に出演していましたよね。だから個人的に、どのような出来上がりになるのか楽しみです。まだ聞いていないので、完成したらぜひ聞いてみたいな。

加賀谷:僕の声を誰がやるのか楽しみです。

松本:俺がやろうか?(笑)

加賀谷:キックさんがやったらすごくデフォルメされますね!

――読者のみなさまにメッセージをお願いします。

加賀谷:どんな形でもいいんですよ。松本ハウスでも、キックさんの名前でも、統合失調症でも、「やってきた」でもいい。リリー・フランキーさんや水道橋博士さんの帯でもいいんです。何か引っかかったら読んでみてほしいです。損はしないと思います。

松本:ちょっと心が疲れていたり、生きるのがしんどいなと思っていたりする人にはぜひ読んでほしいですね。箸休めの気分で手にとってもらえると嬉しいです。

(了)

*松本ハウスさんの動画インタビューを、YouTubeの「新刊JP」チャンネルで公開中!
ネットで見かけた信じられない噂の真相や本についてお話をうかがっています!


→動画はこちらから!

■松本ハウスさんプロフィール
1991年よりお笑いコンビとして活動開始。「進め! 電波少年インターナショナル」「タモリのボキャブラ天国」などのレギュラー出演で一躍人気者になるも、1999年に突然活動休止。10年の時を経て、2009年にコンビ復活。サンミュージック所属。現在NHK Eテレ「バリバラ」準レギュラーなど出演中。
ハウス加賀谷…1974年2月、東京出身。松本キック…1969年3月、三重出身。 
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