中国軍改革、なぜ今なのか――南沙諸島もこのタイミング

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2016年01月04日 17:21  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 中国の軍改革は、なぜこのタイミングなのか?そして南沙諸島の人口島における民間機の試験飛行との関係は?習近平政権誕生以降、2020年までに達成するとしている軍事戦略から、なぜ今かを読み解く。


「2015年〜2020年」の軍事達成目標


 日本人から見ると、中国の軍改革は、いかにも唐突感があり、しかも年末の12月31日であったことから、「なぜ、そんなギリギリに?」とか「なぜ今なのか?」という疑問が湧いてくるだろう。


 そこで今回は、習近平政権が何を考えているかを解明することによって、「なぜ今なのか」の謎解きを試みたい。


 2012年11月の第18回党大会が終わると、中央軍事委員会主席に選ばれた習近平は、立て続けに軍関係者に会い、軍の根拠地などを視察した。視察したのは陸海空軍と第二砲兵および武装警察である。


 その視察の中で「中華民族の偉大なる復興は強国の夢であり、強軍の夢である」と何度も檄(げき)を飛ばした。


 そして2014年3月までに、5つの軍関係の「領導小組(指導グループ)」を結成している。


 その5つとは(順不同)、


1.中央軍事委員会、国防と軍隊改革を深化させる領導小組


2.全軍軍事訓練監察領導小組


3.中央軍事委員会、巡視工作領導小組(紀律検査委員会による巡視)


4.全軍と党の群衆路線教育実践活動領導小組(イデオロギー教育が目的)


5.全軍基本建設プロジェクトと不動産資源検査工作領導小組(腐敗防止が目的)


である。


 このうち、2014年3月15日に開催された「中央軍事委員会、国防と軍隊改革を深化させる領導小組」第一回全体会議で、習近平軍事委員会主席は「2015年から2020年までに軍事改革を行ない、新しい時代に沿った現代化システムを構築する」という趣旨の「重要講話」をしている。


 これに沿って、実施されたのが1月2日の本コラム「中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化」で書いた「中央軍事委員会改革工作会議」(2015年11月24日)であり、12月31日に開催された「陸軍指導機構、ロケット軍、戦略支援部隊」創設大会である。


「2015年から」と宣言したのに、2015年内に着手されていないとまずいので、ギリギリの「12月31日」に漕ぎ着けて、約束を守ったわけだ。


 なぜ、そんな時まで延ばしてしまったかというと、この大規模改革に対する反対勢力がいたからである。


 それはすでに逮捕された元中央軍事委員会副主席だった徐才厚(牢獄で病死)や郭伯雄などの江沢民一派の残存勢力(腐敗をしたがる既得権益層)が不満を抱いていたからで、今では腐敗分子はことごとく逮捕したので、抵抗勢力もなくなり、ようやく大規模改革に踏み切れたというわけなのである。


 だから、これまでは4総部の中の総政治部の下に置かれていた軍関係の紀律検査委員会を、直接、中央軍事委員会の管轄下に置き、レベルを引き上げることができたのである。


 なんと言っても総后勤部(補給や輸送)や総装備部(兵器調達や開発)などは、莫大な不動産資源を持っており、腐敗の温床となっていた。これらを上から見張る仕組みを作ったわけだ。


南沙諸島のファイアリー・クロス礁における試験飛行のタイミングとの関係


 1月2日、中国が埋め立てを進めていた南シナ海の南沙諸島のファイアリー・クロス礁で、中国の民間機が造成された滑走路を用いて飛行したことが判明した。この滑走路はファイアリー・クロス礁を埋め立てて造られた飛行場に作られたもので、ベトナム外務省の報道官は、「主権の侵害だ」と抗議する声明を発表した。


 中国外務省の報道官は、ファイアリー・クロス礁に新しい飛行場が完成し、民間機の試験飛行を行ったと認めた上で、「ベトナムの不当な非難は受け入れられない」「自国の領土内で、この飛行場が正常に機能するか否かを確認するため試験的に飛行しただけだ」などと反発する声明を出した。


 なぜこのタイミングで試験飛行をしたのかというと、それはまさに1月2日の本コラム「中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化」で書いたように、ロケット軍などの創設大会が開催された12月31日に、国防部の楊宇軍報道官が中国初の国産空母を遼寧省大連で建造していると発表したことと同じ理由だ。


 軍の大規模改革は、主としてアメリカに見せるためであり、したがって本来なら秘密にしておくべき空母の建造も、あえて公にしたし、大規模改革を実行すると何が起きるかを、「南沙諸島のファイアリー・クロス礁における試験飛行」をアピールすることによって、アメリカに見せようとしているのである。


 これら一連の行動により、中国が狙っているのは「アメリカに対する防御力(あるいは戦闘力)の誇示」であることが見えてくる。


 中国には戦争をするつもりはないが、しかし「一帯一路」の完遂を「邪魔させない」という意思表示でもあるとみなすことができる。


 軍事のあらゆる側面における近代化を促進し、2020年までには完遂させる戦略だ。


 2020年は2021年が中国共産党建党100周年記念であるための、区切りの年で、習近平国家主席は2022年にそのポストを次期政権に譲ることになっている。自分の政権内に、何としても軍の近代化に向けた改革を完遂しようとしている。この方針は変わらないだろう。


[執筆者]


遠藤 誉


1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。




遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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