銃大国アメリカの鍵を握る企業「スミス・アンド・ウェッソン」とは?

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2016年01月11日 22:00  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

2015年1月5日。この日はアメリカ史年表に永遠に記録されることになるだろう。

バラク・オバマ大統領が単独権限を行使し、銃規制を厳格化させると発表したのだ。

ところが、この発表により巨額の利益を得た企業が存在する。

銃器販売大手スミス・アンド・ウェッソン・ホールディングス(以下S&W)だ。5日の終値は、何と前日比11パーセント高という数字に終わった。

これは銃規制を警戒した市民による駆け込み需要がもたらしたものだが、同時にS&Wという企業の存在感を改めて世界に知らしめた。ここで我々は、考えなければならない。

S&Wとは、一体何なのだろうか?

コルトに対抗した会社

1836年、発明家のサミュエル・コルトが、新型のリボルバー銃に関する特許を取得した。

これは、銃の撃鉄とシリンダーが連動する機構についてのものだが、実はコルトの発明はその部分のみである。レンコンのような形のシリンダーに弾丸を込め、連続して撃つというリボルバー式拳銃そのものは以前から存在した。

コルトのやったことは、“新開発”というよりも“改良”だ。そして、その機構に目をつけていたガンスミス(銃整備士)はコルトだけではなかった。

一つの発明を巡って特許争いが泥沼化するということは、アメリカではよくある。だがコルトはその泥沼で勝ち抜いた。彼の発明は丸々20年間、独占が保証されることになる。

S&Wは、1856年にホーレス・スミスとダニエル・ウェッソンが共同で始めた企業である。平たく言えば、コルトとの特許争いに負けたガンスミスたちが作った会社なのだ。

だからこそ、S&Wは創業当初から、他人の特許を買収することを前提にしている。リムファイア式金属薬莢や貫通式シリンダーなど、「斬新だが誰も見向きしなかった特許」に対して札束を積んだ。

それぞれつながりのなかった、複数の特許技術を結合させて一つの製品を作る、というのは今では当たり前の企業戦略である。だがこれは19世紀中葉の話だ。当時としては斬新な手法だったことは言うまでもない。

こうして開発された製品は、ホーレスとダニエルに巨利をもたらした。創業からわずか5年後に南北戦争が勃発したからである。

S&Wは、この戦争でライバルのコルト・ファイアアームズ以上の印象を軍関係者にアピールした。

32口径のリボルバー銃『No.2』は、北軍兵士の良き相棒になっただけではなく、世界中に輸出された。坂本龍馬もこの『No.2』を使用していたほどだ。

不安定な経営実態

S&Wは、浮き沈みの激しい会社としても知られている。

戦争特需に支えられている会社は、世の中が平和になった時が一番危うい。南北戦争終了後、ホーレス・スミスが隠居するとS&Wの経営権はダニエル・ウェッソンと彼の3人の息子に分割された。

だが最初に次男が早逝し、そして創業者である父が息を引き取ると、長男と三男とで内紛が発生した。この辺り、毛利元就の「三本の矢」のようにはいかなかったようだ。

その後、世界は二度の大戦争を経験するが、S&Wは世界大戦が勃発する度に生産拡大を打ち出した。そしてそれが終わると、やはり経営難に陥り内紛が発生するという事態に見舞われた。

銃産業は、決して安定した業種ではないのだ。

近年も、S&Wは重大な局面に遭遇した。ヨーロッパメーカーの台頭である。

アメリカの銃市場は、自動車のそれに似ている。今や国内企業の影は薄くなり、外国企業の製品が幅を利かせている状態だ。アメリカ軍ですらも、自国製品を捨てヨーロッパメーカーの銃を採用するという有様だ。

ならば、頼るべきは国内の一般市民からの需要である。

株価を支えるもの

銃器メーカーや全米ライフル協会が、声高に「銃規制反対!」を唱え、子飼いの政治家に何度も演説をさせているには訳がある。

銃の潜在需要を呼び起こすためだ。

その試みは成功しつつある。アメリカ国内で相次ぐ乱射事件は、同時に銃の駆け込み需要を発生させる大きなきっかけとなった。S&Wの株価も、2015年の間に堅調な伸びを見せている。

「銃がなければ我々は殺される」と、全米ライフル協会や保守派の政治家が何度も訴えかけた結果である。

そして話は最初に戻る。2015年1月5日、S&Wの株価は、この日だけで11パーセントも高騰した。

「銃がなくなることへの危機感」を最大限に利用し、平時でも安定した会社経営を確立させつつある。

政治家にとって、銃器メーカーからの支援は非常にありがたいものだ。選挙が近づいた候補者は、企業から直接献金を受けなくてもいい。

「銃規制に断固反対」と言っていれば、あとは全米ライフル協会がテレビコマーシャルを作ってくれる。広告費用という、議員事務所の経理担当が、最も苦悩する課題が解消されるのだ。

あの時オバマ大統領が流した涙は、そんな構図に半ば絶望する悔し涙でもあるのではないか。

【参考・画像】

Smith&Wesson

※ Yahoo!ファイナンス

※ fusho1d / PIXTA

このニュースに関するつぶやき

  • 何かの映画で独りで悪漢を追い詰めた男が「俺達が容赦しないぜ」悪漢「”俺達”ってお前独りじゃねえか」男「ヽ(;゚◇゚)/ ウッ、俺と、それから…スミスとウェッソンだ」ってのがあったような。
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