シリーズ「正しく知る“がん治療”」(1)非常に極論な「がん放置療法」

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2016年01月13日 18:00  QLife(キューライフ)

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「正しく知る“がん治療”」(1)非常に極論な「がん放置療法」

 日本人の2人に1人がかかるといわれている“がん”。これほど多くの人が関わりのある病気だけに、メディアは連日、多種多様な情報を報じています。その中には信頼できる情報もあれば、その逆も。

 そんな状況のなか、“がん治療の正しい姿”を1人でも多くの方に知ってもらうため、全国各地で講演を行っているのが日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科医の勝俣範之先生です。2015年7月に「医療否定本の嘘」を上梓した勝俣先生にがん治療についてお話をうかがった全6回シリーズ。第1回目は「がん放置療法」など、巷にあふれる“がん情報”の「正しい見方」について。

(この記事は、2015年12月12日に開催された認定NPO法人「オレンジティ」での勝俣先生の講演内容をもとに、QLife編集部が一部再構成しています)

多くの誤解が広まっている「がん放置療法」

 がんは治療するな、放置しよう、という「がん放置療法」について、最近よく見聞きします。最近ではマンガも出てまして、それを読んだうちの息子に「お父さんの仕事は間違ったことやってるの?」なんてことを言われたりして、多くの誤解が広まっているなと感じています。

 がんは「がんもどき」と「本物のがん」に分類でき、「がんもどき」は転移しないので治療する必要はない一方、転移したがんは「本物のがん」で必ず死ぬ。抗がん剤は効かない、これまでの抗がん剤のデータはねつ造だから、治療しても無駄。がんになったら、何も治療しない方がいい。これが「がん放置療法」の考え方です。

 この「がん放置療法」は非常に極端な考え方です。けれども、これだけ国民に持てはやされた背景には、現代医療に関する不信感があるのではと思います。そこに、偉い先生が話しているということがあいまって、信じてしまい、本当にがんを放置してしまう人が増えているんです。

治療がまったく無意味になることはない

 検診で見つかるような早期がん(がんもどき)を放置した挙句、進行がんになった事例はたくさんあります。一方、転移したがんでも、治療をしっかりやることで、治った事例もたくさんあります。ここから言えることは「治療がまったく無意味なわけではない」ということです。今ではもう、抗がん剤と上手くつきあいながら、がんと「共存」ができる時代になっているといっても過言ではありません。

抗がん剤と上手くつきあいながら、がんと「共存」する

 抗がん剤と上手くつきあう例として、“乳がんの治療を大きく変えた”と言われる抗がん剤「トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)」の例を紹介します。この薬を開発したのは、米国のスレイモン博士です。トラスツズマブは分子標的薬という新しい抗がん剤で、吐き気や髪の毛が抜けるなどの副作用が少ないお薬だったのですが、当初は世界で誰も彼を信用しませんでした。もちろん、製薬企業もです。そうなると治験が実施できないので、一度は開発がとん挫してしまいます。その時に彼はどうしたかと言うと、米国の乳がん患者さんの会に「一緒に臨床試験をやってくれないか」と声をかけ、患者さんたちと一緒にお金を集めて、治験を実施し、開発を継続しました。

 乳がんの術後にトラスツズマブを投与した人では8.8%生存率が改善したというデータがあります。8.8%は少ないと思うかもしれませんが、実は大変なことです。日本だと子宮頸がんの検診率は20%程度ですが、もし100%に上がったとしても、生存率は5%改善するかどうか、と言われています。

 このように、トラスツズマブに効果があるということがわかり、世界中でこの薬が承認されました。現在でも何百万人の乳がん患者さんに使われ、患者さんを救っています。

「消える」「消した」・・・巷にあふれる、がん情報

 書店には、がんに関するさまざまな本が並んでいます。最近だと、食事療法の本などがよく売れているようです。一般の書物には言論の自由が保障されていますので、「なんでもあり」なんですね。ただ「効能・効果」をうたうことだけは法律で禁じられています。だから、こういった書店の本には「治る」とか「効く」とは書いてありません。がんが「消える」「消した」「封じる」などと書いてあります。こんな表現を見かけたら、怪しいと思った方がいいかもしれません。

 気を付けなければならないのは、本だけではありません。インターネットで「がん治療」を検索すると、出てくるのはほとんど怪しい情報ばかり。広告も結構あります。「あきらめないがん治療」とか「からだに優しいがん治療」なんていう文字をクリックすると、「免疫療法 1回100万円でがんが治る」などと書いてあるんですね。2014年12月からインターネットでも効能・効果をうたってはいけないことになってるんですけど、「効果があります」「治ります」と伝えるサイトは多く、まだほとんど守られていないのが現状です。

「アヤしい」情報の見分け方、教えます

 インターネットで正しいがん情報にヒットする割合は50%以下だった、という研究結果があります。つまり、インターネットでがん情報を検索すると、半分以上がインチキ情報だということです。がん患者さんは、藁をもすがる気持ちで良い治療法を探しているので、そういった情報に引っかかってしまいがちです。患者さんの弱い心を利用して商売しようという輩がたくさんいて、またさらにその中にはお医者さんも多いんです。クリニックを開設して、怪しい治療を行う医師がいることは非常に大きな問題だと思っています。

 では、そういったインチキ情報はどうやって見分ければいいのでしょうか?
 これから5つのキーワードを紹介します。この中で2つ当てはまったらインチキだと思って注意していただきたいと思います。

(1)保険が効かない高額医療を行っている
 保険が効かない=良い治療法なのではと思ってしまう方が結構いらっしゃいます。ですが、皆保険制度の日本では、良い治療はちゃんと厚生労働省が承認し、保険が使えるようにします。お薬についても、少し前までは海外で使われている薬が日本で承認されていないこともありましたが、最近では日本でもすぐに承認されるようになってきています。「保険が効かない」と書いてあったら、怪しいと思った方がいいですね。

(2)体験談が掲載されている
 体験談はわかりやすいのですが、患者さんの情報は、同じがんでもステージや治療法、バックグラウンドなど一人ひとり違ってきますので、「あの人が効いたから」といって「私にも効く」ということはほとんどないと考えていいと思います。実際、「患者個人の情報」というのは医学的にも一番信頼性が低いレベルとされています。

(3)「●●免疫クリニック」という名前
 「免疫」という言葉に患者さんは弱いですよね(笑)。がん治療はつらい治療ばかりなので、「免疫力アップでがんに効く」なんて聞くと、そうかもと思ってしまいますよね。

(4)先進医療に指定されていない
 先進医療は、唯一、厚生労働省が認めている保険が効かない治療です。ただし、先進医療の認定には非常に厳しい基準をクリアしなければなりません。また、先進医療=すべて良い治療とは限りません。先進医療は、まだまだ研究段階の治療だと思っていただければと思います。

(5)奇跡の●●治療 末期がんからの生還
 字面だけ見ても怪しいと思いますよね(笑)。でも、がん患者さんは、奇跡を信じて藁にもすがる気持ちでついついクリックしてしまいます。何百万円もかかっても「がんが治る」と書いてあると、やってみようかしらって思ってしまいますよね。

正しい情報はどこにあるのか

 標準治療とよばれるものが記されている「診療ガイドライン」が、一番信頼性が高い正しい情報です。その時点での最善の治療が診療ガイドラインに書いてある、といっても過言ではありません。

などを見ていただければと思います。 (つづく・・・第2回の公開は1月15日の予定です)

勝俣範之先生 日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科教授
1963年、山梨県富士吉田市生まれ。1988年、富山医科薬科大学医学部卒業。1992年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。1997年、国立がんセンター中央病院内科スタッフ。2004年、ハーバード大学生物統計学教室に短期留学。2010年、国立がん研究センター医長。2011年より、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授として赴任。腫瘍内科を立ち上げ、今日に至る。専門は、内科腫瘍学全般、抗がん剤の支持療法、臨床試験、EBM、がんサバイバー支援など。 著書:医療否定本の嘘(扶桑社)、「抗がん剤は効かない」の罪(毎日新聞社)、ほか。
ブログでも情報発信中(http://nkatsuma.blog.fc2.com/)。

取材協力:認定NPO法人オレンジティ 認定NPO法人オレンジティは、女性特有のがん(子宮・卵巣・乳がん)体験者とその家族、支援者とともに活動を通じてよりよい人生を送るためのお手伝いをする、セルフヘルプグループ。2002年から静岡県を中心に活動をつづけており、患者力アップのための定例会、体験者同士が互いの体験・情報を分かち合うおしゃべりルームなどを通じて、体験者のサポートを行っています。お問い合わせは、オレンジティホームページ(http://o-tea.org/)から。

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