シリーズ「正しく知る“がん治療”」(2)誤解されている「抗がん剤」

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2016年01月15日 18:30  QLife(キューライフ)

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「正しく知る“がん治療”」(2)誤解されている「抗がん剤」

  “がん治療の正しい姿”について、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科医の勝俣範之先生に聞く全6回シリーズ。第2回目は「抗がん剤の誤解」について聞きました。

(この記事は、2015年12月12日に開催された認定NPO法人「オレンジティ」での勝俣先生の講演内容をもとに、QLife編集部が一部再構成しています)

さまざまな誤解がある「抗がん剤治療」

 まず、がんの治療方法には、手術治療・放射線治療・抗がん剤治療があり、3大治療と言われていますが、そのうちの1つ、抗がん剤には、「抗がん剤をやると体がボロボロになる」「抗がん剤をやると仕事もできなくなる」などのさまざまな誤解があります。こうした誤解のせいで、会社をクビになってしまったという話も実際あります。

 しかし今は副作用の少ない抗がん剤や、副作用を抑えるような薬も出てきていますし、血液がん以外の固形がんでは、抗がん剤治療は通院でできます。仕事をしながら通院して抗がん剤治療を行っている方もたくさんいます。

従来の抗がん剤よりも副作用の少ない分子標的薬

 これまでの抗がん剤は細胞の核を攻撃するので、正常細胞まで傷つけてしまい、副作用が強く出てしまうところがありました。一方、最近登場した分子標的薬は、がん細胞しか持っていない受容体に作用するので、副作用の発現がより少なくなっています。

 胃がんや甲状腺がん、悪性黒色腫の治療にも、ここ1年くらいで次々と、この分子標的薬が承認されています。これらのがんは、抗がん剤が効きにくいがんとされていました。なかでも、悪性黒色腫には効果のある抗がん剤がほとんどありませんでしたが、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる画期的なお薬が登場し、大きく状況が変わっています。

 このお薬は悪性黒色腫と肺がんで承認されていますが、腎臓がんが今後承認予定で、卵巣がんでは治験中です。良い結果が出れば、卵巣がんでも承認される可能性があります。

病気の状況によって分けられる抗がん剤の目的

 抗がん剤はただやみくもにやるのではなく、何のために抗がん剤をやるのかをしっかり認識してからやって欲しいと思います。抗がん剤の目的は「がんを治す」「完治率を高める」「がんとより良い共存を目指す」の3つにわけられます。

「がんを治す」
 血液がん、胚細胞腫瘍、絨毛がん、小児がんなどの抗がん剤が効きやすいがんに対しては「がんを治す」ことを目的に抗がん剤治療を行います。問題点は患者さんの数が少なく、専門家が少ないことです。しばしば、治療のうまくいかない患者さんが、私のところに紹介されてくるのですが、きちんと抗がん剤治療されていないという現状があります。

「完治率を高める」
 抗がん剤単独ではなく、手術や放射線治療と併用することで、治癒率を高めることが目的です。手術後の再発予防としては、乳がん、卵巣がん、大腸がん、骨肉腫などに、放射線との併用では食道がん、子宮頸がん、頭頚部がんなどで行われます。

「がんとより良い共存を目指す」
 進行がんや再発したがん(転移したがん)に対して行います。こうしたがんを治すことは難しいのですが、生活の質も大切にしていくために行われます。

 副作用を減らすことで一番簡単なのは、抗がん剤を減らすことですが、抗がん剤には投与量が決まっており、むやみに減らしてしまうと効果も下がってしまいます。とくに、「完治率を高めるための抗がん剤」は減らさずしっかり行った方が良いと思います。一方、「がんとより良い共存を目指すための抗がん剤」は、生活の質が大事ですから、抗がん剤の量に関してはうまく調整しながらやっていくべきと思います。

(つづく・・・第3回の公開は1月20日の予定です)

勝俣範之先生 日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科教授
1963年、山梨県富士吉田市生まれ。1988年、富山医科薬科大学医学部卒業。1992年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。1997年、国立がんセンター中央病院内科スタッフ。2004年、ハーバード大学生物統計学教室に短期留学。2010年、国立がん研究センター医長。2011年より、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授として赴任。腫瘍内科を立ち上げ、今日に至る。専門は、内科腫瘍学全般、抗がん剤の支持療法、臨床試験、EBM、がんサバイバー支援など。 著書:医療否定本の嘘(扶桑社)、「抗がん剤は効かない」の罪(毎日新聞社)、ほか。
ブログでも情報発信中(http://nkatsuma.blog.fc2.com/)。

取材協力:認定NPO法人オレンジティ 認定NPO法人オレンジティは、女性特有のがん(子宮・卵巣・乳がん)体験者とその家族、支援者とともに活動を通じてよりよい人生を送るためのお手伝いをする、セルフヘルプグループ。2002年から静岡県を中心に活動をつづけており、患者力アップのための定例会、体験者同士が互いの体験・情報を分かち合うおしゃべりルームなどを通じて、体験者のサポートを行っています。お問い合わせは、オレンジティホームページ(http://o-tea.org/)から。

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