シリーズ「正しく知る“がん治療”」(3)まだ少ない「抗がん剤」の専門医

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2016年01月20日 18:00  QLife(キューライフ)

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「正しく知る“がん治療”」(3)まだ少ない「抗がん剤」の専門医

 “がん治療の正しい姿”について、「医療否定本の嘘」などの著作もある、日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科医の勝俣範之先生に聞く全6回シリーズ。第3回目は「日本における腫瘍内科医の立ち位置」について聞きました。(第1回 非常に極論な「がん放置療法」はこちらから

(この記事は、2015年12月12日に開催された認定NPO法人「オレンジティ」での勝俣先生の講演内容をもとに、QLife編集部が一部再構成しています)

腫瘍内科医=手術をしないがん専門医

 私は腫瘍内科の専門医です。腫瘍内科医とはどんな医者かというと、手術をしないがん専門医と考えてもらえればいいと思います。抗がん剤も専門ですが、抗がん剤を使うだけではなく、チーム医療のコーディネートなども行います。すべてのがんを横断的に診て、がん治療をトータルにコーディネートするのが、腫瘍内科医です。

日本では抗がん剤の9割を外科医が処方している

 日本は、抗がん剤についての専門医が非常に少ないと言われています。「ブラックジャックによろしく」というマンガの中でも、主人公に先輩医師が「その腫瘍内科医が日本にはいない。外科医が片手間に抗がん剤をやっているのが現状さ。欧米ではどこの病院にでも腫瘍内科医という抗がん剤専門の内科医がいる」と答えるシーンがあります。

 その通り、海外先進国では抗がん剤は腫瘍内科医が処方します。一方、日本では9割以上の抗がん剤を外科医が処方している状況です。しかも、抗がん剤についてしっかりトレーニングを受けておらず、自前のやり方をしてしまう先生が多いのです。

オンコロジストの腕の見せ所(1) 「副作用マネージメント」

 我々は腫瘍内科医のことをオンコロジスト(がん専門医)と呼んでいます。オンコロジストの腕の見せ所は、まず「副作用に対して最大限の対策をし、患者さんの生活の質を保っていく」ことです。抗がん剤はがん専門医でなくても投与できますが、がん専門医ではないと、きめ細かい副作用マネージメントは難しいと思います。

オンコロジストの腕の見せ所(2) 「無駄な入院治療をしない」

 抗がん剤はほとんどが通院治療で行えるんですが、日本ではほとんどの方が抗がん剤のために一度は入院しています。海外では10年以上前から入院ではやっていません。なぜ日本ではそういうことをするかというと、副作用をちゃんとマネージメントする自信がないからです。だから、「最初は入院しましょう」となってしまう。

 でも実際入院して抗がん剤治療を受けて何か起こったかというと、ほとんど何も起こらないんですよ。20年くらい前の「抗がん剤は入院でしかやっちゃダメ」という風習を、いまだに日本は引きずっています。海外先進国は、今は抗がん剤治療で入院しても保険は出ません。こういうように、抗がん剤治療の状況は、海外先進国と日本では大きく違いがあります。

オンコロジストの腕の見せ所(3) 「むやみに抗がん剤の投与量を減らさない」

 3つ目は「むやみに抗がん剤の投与量を減らさない」こと。特に術後におこなう、再発予防の抗がん剤を減らしてしまうと、効果も減ってしまうので、むやみに投与量を減らしてはいけません。加えて、むやみに間隔を空けないことですね。

 子宮頸がんの標準療法で、TC療法というのがあります。卵巣がんのTC療法は3週間に1回が世界標準で、日本のガイドラインにも書かれています。ですが、病院の風習で1か月に1回でやっているところがいまだにあるのです。

(つづく・・・第4回「がんと上手に付き合うために」の公開は1月22日の予定です)

勝俣範之先生 日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科教授
1963年、山梨県富士吉田市生まれ。1988年、富山医科薬科大学医学部卒業。1992年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。1997年、国立がんセンター中央病院内科スタッフ。2004年、ハーバード大学生物統計学教室に短期留学。2010年、国立がん研究センター医長。2011年より、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授として赴任。腫瘍内科を立ち上げ、今日に至る。専門は、内科腫瘍学全般、抗がん剤の支持療法、臨床試験、EBM、がんサバイバー支援など。 著書:医療否定本の嘘(扶桑社)、「抗がん剤は効かない」の罪(毎日新聞社)、ほか。
ブログでも情報発信中(http://nkatsuma.blog.fc2.com/)。

取材協力:認定NPO法人オレンジティ 認定NPO法人オレンジティは、女性特有のがん(子宮・卵巣・乳がん)体験者とその家族、支援者とともに活動を通じてよりよい人生を送るためのお手伝いをする、セルフヘルプグループ。2002年から静岡県を中心に活動をつづけており、患者力アップのための定例会、体験者同士が互いの体験・情報を分かち合うおしゃべりルームなどを通じて、体験者のサポートを行っています。お問い合わせは、オレンジティホームページ(http://o-tea.org/)から。

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