弁護士数の急増による就職難など、弁護士業界をとりまく環境は、若手弁護士を中心に大きく変化してきた。司法修習を終え新規登録した弁護士の中には、就職先が決まらず、「即独立」するケースもある。弁護士たちが所属する弁護士会は、若手弁護士をどう支援しているのか、愛知県弁護士会の川上明彦弁護士に話を聞いた。
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――なぜ若手弁護士の支援が重要だと考えているのですか
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これまでは、たいていの弁護士は事務所に就職して、いわゆるOJT(実務トレーニング)を通じてスキルを磨き、一人前の弁護士に育っていきました。
ところが、弁護士が急激に増えたことによって、新人弁護士のOJTを受ける機会が減ってしまいました。弁護士が急激に増えても、弁護士の仕事量はそれに合わせて増えたわけではないからです。
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規模の大きくない弁護士会であれば、弁護士同士の顔が見えますし、自然に関係性ができて、若手がベテラン弁護士にいろいろ相談することもできるかもしれません。ですが、愛知県弁護士会の規模は、全国で5番目に大きく、約1800人の弁護士が登録しています。弁護士同士の関係が希薄で、顔が見えにくい状況になってしまっているといえます。
こうした状況の中では、新人弁護士の自助努力に任せているだけでは、以前のように経験を積むことができません。弁護士会として、支援を行っていく必要があります。
――どんな支援の取り組みをしているのですか
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愛知県弁護士会で特に充実していると思うのは、新人弁護士の登録後1年間くらいを対象にしたチューター制度です。愛知県弁護士会では、今年は80人ほどだったのですが、例年100人近い弁護士が新たに登録します。
それを10人ずつくらいのグループに分け、ベテラン、中堅、若手といった3人の先輩弁護士についてもらいます。実務のための学習会はもちろんですが、懇親会などを行い、技術だけではなく、新人弁護士が孤立しないように、弁護士同士の人間関係を構築するようにしています。
もう一つ重要なことは、弁護士倫理です。弁護士には非常に高い倫理観が要求されます。また、それが国民の弁護士に対する信頼の原点になっているといえます。ところが、残念ながら、全国的に横領などの不祥事がよく報道されます。実践的な弁護士倫理が、どのようなものか。弁護士には、日々の業務の中で、常に弁護士倫理が問われているとさえ言えると思います。
ロースクールや司法修習で少しは学びますが、それだけではもちろん足りません。弁護士になれば、座学的な研修だけでなく、先輩弁護士と接して、自らの実感として弁護士倫理を身につけることがとても大事です。チューター制度は、そうした点でも有効な補助的な取り組みだと思います。私は、日弁連副会長も兼務していて、若手育成も担当しているのですが、全国各地の弁護士会におけるチューター制度の導入充実は、日弁連にとっても必須の課題だと考えています。
――なぜ女性弁護士の活躍を推進しようと考えているのですか
今、社会全般で男女共同参画ということが求められています。私の場合、子どもの頃に母親が働き出して、母の輝きと家庭内の平穏を見た原体験からも、この思いが強いです。弁護士の世界でも同じです。女性と男性の性別意識から、女性弁護士の活躍が阻害されることはあってはならないと考えています。
ひとつは、依頼者の誤解という点があげられます。女性弁護士というと、一昔前では「家事事件しかやらないのではないか」「民暴事件はやらないんじゃないか」といったふうに、誤解する人も多くいらしたようです。依頼者が女性弁護士に実際に接する機会が増えることによって、このような誤解は解けていくものだと思います。
もうひとつは、男性、女性を問わず、弁護士の意識の問題です。弁護士業界も以前は、女性の絶対数や割合が圧倒的に少なかった。ジリジリと増えてはきましたが、2000年の時点でもたった8%でした。それが、ここ10年近くで急激に増えて、現在では、2割近く、5人に1人近くが女性という状況になっています。
そうした中で、男性弁護士の意識も徐々に変わってきているとも思います。弁護士事務所への司法修習生の就職について、以前は男女間に事実上の難易の差があったと思います。今では、それが緩和されてきているという感覚がありますが、常に注意しておかなければならない課題だと思います。また、女性弁護士にも、会務を担う役職者がもっともっと出てきてもよい時代に入っています。
――具体的には、どんな取り組みをしているのですか
本年度は愛知県弁護士会でも、総合的な活動に向けて男女共同参画推進本部を立ち上げました。弁護士会会長の任期は1年しかないので、できることは、「種」をまくことだと考えています。愛知でもいろいろな検討は始まっていますが、愛知流の具体的な取り組みの具体化は、これから本格化して、企画や運動につながっていくと思っています。
業務的な面では、東京第二弁護士会など相当数の弁護士会で、既に女性弁護士を企業の社外取締役や社外監査役にしようと考えて、特別な名簿作成がされていますが、こうした取り組みは愛知でも進んでいくものと思います。実際に、このような試みが形として開花するまでに、どれくらいの年月を要するのかは分かりません。相当長い時間を要すると思います。しかし、何事も始めなければ成果が出ません。
あとは、環境整備です。そのひとつが育児中の会費免除は、数年前から日弁連、他の弁護士会でも本格的に広がってきています。弁護士は毎月、日弁連と所属する弁護士会に会費を支払う必要があります。愛知だと、日弁連の分も含めて月額約4万円です。こうした会費は育児中の弁護士にとっては負担が大きいわけです。愛知では子育て中は、子どもが2歳になるまでの任意の期間、最大8カ月間の会費を免除しています。
――本当の男女共同参画とは何なのでしょうか
結局、本当の意味で男女共同参画の理想は、そのような硬い言葉が消えて、性別を意識されない、女性にとっても男性にとっても、さらに言えば性的マイノリティの方々にとっても、生きやすい社会になることだと思います。弁護士会は、人権擁護を使命の一丁目一番地としていますので、そのような理想の社会作りに向けて「社会の木鐸」として頑張っていきたいと思います。
――今後、弁護士会として取り組んでいきたい課題は何ですか
今も中小企業の法的なサポートの充実に向けて準備を進めています。愛知には、トヨタ、デンソーなど世界的な企業があり、それらの下請けの中小企業だけでなく、多数の中小企業があります。こうした企業には、もっともっと法律的なサポートが必要だと思っています。
会社の一生ですが、会社が作られ、成長する、あるいは残念ながら倒産することになってしまう、誰かに事業を引き継ぐといった変化が生じます。そこには、契約、労務管理、事業承継、企業再生あるいは倒産、といったあらゆる法律的な問題が絡んできます。
こうした中小企業の法律問題について、総合的な支援センターを作って、経営者がすぐに相談できる体制を必ずや近い将来に整備したいと考えています。
<了>
(弁護士ドットコムニュース)
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