シリーズ「正しく知る“がん治療”」(5)誤解の多い緩和ケア

0

2016年01月27日 18:00  QLife(キューライフ)

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

QLife(キューライフ)

「正しく知る“がん治療”」(5)誤解の多い緩和ケア

 「医療否定本の嘘」などの著作もある、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科医の勝俣範之先生に“がん治療の正しい姿”について聞く全6回シリーズ。第5回目は「緩和ケアの実態」について聞きました。(第1回 非常に極論な「がん放置療法」はこちらから

(この記事は、2015年12月12日に開催された認定NPO法人「オレンジティ」での勝俣先生の講演内容をもとに、QLife編集部が一部再構成しています)

大きく変化した「緩和ケア」の概念

 「緩和ケアは終末期医療(死の医療)である」
 「緩和ケアは痛みを和らげるだけの治療である」
 といったイメージを、今も多くの方が抱いていると思います。このように、緩和ケアは非常に誤解がある分野です。

 でも実は、緩和ケアの概念はここ最近大きく変わっています。がんの「3大治療後に痛みや苦しみを取っていく」という考え方から「3大治療と並行して行い、状況に合わせて割合を変えていく」考え方に。現在では、もっと進んだ「3大治療のベースにある治療が緩和ケアである」という考え方になってきています。

WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002年)
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。

がん情報サービス「がんの療養と緩和ケア」より
http://ganjoho.jp/public/support/relaxation/palliative_care.html

 緩和ケアに治療効果があることを、世界で初めて証明した研究結果があります。進行肺がんの患者さん151人に対して、抗がん剤のみを行った場合と、緩和ケアチームが入り、抗がん剤と月1回の緩和ケアを行った場合とを比較した臨床試験です。

 緩和ケアを行った患者さんでは、生活の質が向上し、うつ症状が軽減しました。そして、亡くなる60日以内の化学療法が減りました。亡くなる直前まで抗がん剤をしていた方が減って、過剰な抗がん剤を避けられるようになったということです。さらに、驚くべきは2.7か月も生存期間が伸びたことです。

早期の緩和ケアでは「がんとの共存」を目指す

 早期の緩和ケアでは、病状をしっかり理解していただくことが重要です。また、「治癒」ではなく「がんとの共存」を目指します。進行がんの場合は、過剰な抗がん剤も避け、生活の質を大切にします。患者さんには、「生活の質を大切にするということは治療の1つですから、抗がん剤を頑張るのではなくて、生活の質を大切にすることを頑張ってください」と伝えています。

 生活の質は、大切にしたいこと、楽しみにしていることで、個人個人違います。私の患者さんでは「家族と一緒に過ごすこと」が大切だと言う方が多いですね。たとえば抗がん剤治療のために入院したら、家族と離れ離れになってしまいます。その場合は無駄な入院をせず、抗がん剤も通院でやるなど、一人ひとりにあったやり方があると思います。抗がん剤治療をしながら、ご自身の夢はかなえることができます。私個人の意見ですが、生活の質を大事にしている方は、元気にやっている人が多い気がします。だから、生活の質は犠牲にしないで、大事にしていってほしいなと思います。

(つづく・・・最終回「患者さんとのQ&A」の公開は1月29日の予定です)

勝俣範之先生 日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科教授
1963年、山梨県富士吉田市生まれ。1988年、富山医科薬科大学医学部卒業。1992年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。1997年、国立がんセンター中央病院内科スタッフ。2004年、ハーバード大学生物統計学教室に短期留学。2010年、国立がん研究センター医長。2011年より、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授として赴任。腫瘍内科を立ち上げ、今日に至る。専門は、内科腫瘍学全般、抗がん剤の支持療法、臨床試験、EBM、がんサバイバー支援など。 著書:医療否定本の嘘(扶桑社)、「抗がん剤は効かない」の罪(毎日新聞社)、ほか。
ブログでも情報発信中(http://nkatsuma.blog.fc2.com/)。

取材協力:認定NPO法人オレンジティ 認定NPO法人オレンジティは、女性特有のがん(子宮・卵巣・乳がん)体験者とその家族、支援者とともに活動を通じてよりよい人生を送るためのお手伝いをする、セルフヘルプグループ。2002年から静岡県を中心に活動をつづけており、患者力アップのための定例会、体験者同士が互いの体験・情報を分かち合うおしゃべりルームなどを通じて、体験者のサポートを行っています。お問い合わせは、オレンジティホームページ(http://o-tea.org/)から。

関連リンク

⇒元の記事を読む

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定