最近話題の『下町風力発電』。
『ガイアの夜明け』や『シューイチ』などのテレビ番組で既にご存じの方も多いと思うが、これは、東京・下町で、新しいタイプの風力発電機を作ろうと奮闘している、チャレナジーという会社のプロジェクトだ。
『垂直軸型マグナス式』という、プロペラがない次世代風力発電機の実用化に取り組むこの会社は、2014年10月に設立されたばかりのスタートアップ企業。東京都墨田区の浜野製作所が運営する『ガレージスミダ』を拠点とし、原発に頼らない、新しい再生可能エネルギー社会の実現を目指している。
そんな今注目の『垂直軸型マグナス風力発電機』とは、一体どんなものか? また、なぜ風力発電で、どんな将来的ビジョンを持つのか?
チャレナジーのCEO、清水 敦史氏に伺ってみた。
|
|
自転する3つの円筒翼で発電機を回す
まず、上の動画を見て頂きたい。これは、『垂直軸型マグナス風力発電機』の試作機を実験している模様だ。
よ〜く見てみると、
■1:画面左手から大型の扇風機で一定の風(風速約5m)を送る ■2:3つの円筒が時計回りに自転、徐々にその速度を上げていく ■3:しばらくすると装置全体が回転を開始 ■4:3つの円筒が回転スピードを変えると装置が停止(風の強さは一定)
ということが分かる。
上は、動画と同じ装置で、赤い塗装をしたものだ。
|
|
3つの円筒を装備する装置の上部分が風車。下の台座内には、風車の中心軸と繋がった発電機があり、風車の回転により発電する。
清水氏、
<要するに、プロペラがない風力発電機ですね。ハネがない掃除機、ダイソンの発電機版みたいなものです(笑)。
この風車は、プロペラのかわりに、気流中にある円筒を自転させたときに発生する『マグナス力』を利用して回しています。
マグナス力とは、野球のカーブボールと同じ原理なんですが、この方式なら
■1:円筒の自転数で風車の回転パワーを制御できる ■2:円筒は一般的なプロペラ式より丈夫で低コスト
といったメリットがあります。>
プロペラがないから台風でも壊れない!?
−−プロペラ式風力発電機より良いということでしょうか?
清水氏、
|
|
<プロペラ式の風力発電機は、強風や風向きの急激な変化(乱流)に弱いんです。
強風や乱流が多い日本では、回り過ぎて暴走し支柱やプロペラが折れてしまうので、台風が来たときなどは稼働を停止することも多い。
それでも、毎年のように台風などにより、壊れる事故が起きています。>
清水氏、
<現在、風力発電機はほとんどがプロペラ式を採用し、多くは欧米諸国で作られています。
歴史的にも、1890年にデンマークで、“風力発電の父”ポール・ラ・クールによって世界初の風力発電機が作られたこともあって、欧州では日本に比べて普及しているんです。
ですが、欧州は、大陸という地形的な面と偏西風の影響などで、比較的風が穏やかで、風向きも安定しています。一方、暴風(台風)、乱流、落雷が多い日本では、設備利用率が低い(約20%)のが現状です。
そこでマグナス式。プロペラがないから強風でも停止する必要がなく、しかも垂直軸だから風向きの影響も受けない。これにより、設備利用率を上げることができ、さらに台風でも発電できる可能性があるんです。>
台風の力は日本の総発電量の約50年分
−−台風の力を電力にできるとはすごいですね。
清水氏、
<可能性はあります。しかも、国土交通省の試算によると、台風一つのエネルギーは「日本の総発電量の約50年分」に相当するそうです。もちろん、その全てのエネルギーを電力に替えることは難しいでしょうが、台風発電が実現すれば、一部でも電力として活用することが可能になります。
また、日本だけでなく、フィリピンやベトナムなど、海外にも台風やハリケーンが発生する国々は多い。そういった国々でも、安心して設置できる風力発電として、非常に有効ではないかと考えています。>
きっかけは福島の原発事故
−−元々、清水氏は東京大学大学院修士課程を修了後、大手FA機器メーカーのキーエンスでエンジニアを務めていたとのことですが、それがなぜ、風力発電メーカーとして起業したのでしょうか?
清水氏、
<2011年に起こった福島の原発事故がきっかけですね。現場に居合わせたわけではありませんが、テレビで目の当たりにした事故状況は言わずもがなショッキングで、危機感が尋常ではありませんでした。
また、直感的に、自分たちの世代が生きている間に事故の後始末をつけることは難しいのではないか、とも思いました。次の世代に自分たちのツケを払わせることになる、と。
私自身は独身ですが、周囲の知人や友人の子供と触れ合うことも多く、次の世代のために、この原発依存の社会から脱却し、再生可能エネルギーにシフトしていかなければダメだと強く感じたんです。
そこで、個人的に様々なアプローチを模索した結果、風力発電に行き着きました。
太陽光発電の場合、国土が小さい日本ではなかなか発電量がまかなえない。やはり風力だな、と。>
『垂直軸型マグナス風力発電機』は、まだサラリーマンだった2011年に発案。
2014年10月に、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のスタートアップイノベーター(SUI)に選ばれ、補助金を受ける。
前述の通り、2014年10月にチャレナジーを設立し、同年11月には以前FUTURUSでも紹介したTOKYO STARTUP GATEWAY 2014でファイナリストにも選ばれている。
清水氏、
<今はまさに“エネルギーシフト”へと向かう時代の転換点ですよね。
私にとっては、世の中になかった新しいものを作ることで、エンジニアとしての自己実現ができるチャンスの時でもあります。「子供のころに憧れた(蓄音機や電球を発明した)エジソンのようになれるかもしれない」という気持ちもあります。>
今年夏、実験機を沖縄でテスト
−−実験機も上手く稼働し、順調のようですが?
清水氏、
<まだまだこれからです。
『垂直軸型マグナス風力発電機』は、私の以前にも三菱重工や関西電力などの大手企業が特許出願していますが、成功例はありません。実は、風車として回すこと自体が大変なんです。
我々は、風洞実験機の円筒翼へ(動画のように)板を付けることで、効率よく回すことに成功しました。詳しくは、特許出願中なので秘密ですけどね(笑)。
次は、今年の夏に、沖縄にフィールド実験機を設置して、“本物の台風”で発電する実験を行う予定です。
フィールド実験機は、大きさを風洞実験機の約2倍、3m×3mくらいにし、1kW程度の発電を目指しています。>
クラウドファンディングでも成功
ちなみに、沖縄での実験資金の一部を集めるために、現在クラウドファンディング『Makuake』でキャンペーンも実施中だ。目標金額2,000,000円はあっという間に到達。注目と期待の高さを実証している。
清水氏、
<沖縄は、6月頃から台風がくるので、5月には実験機を設置したいですね。逆算すると、時間があまりないですけど(取材は1月下旬)。
実験が成功するかどうかは、やってみないと分からない。自然が相手なので、最初はなかなかうまくいかない可能性もあります。とにかくやってみるしかありませんね(笑)。
世界ではまだ約13億人、5人に1人は電気がない生活をしていると言われています。日本だけでなく、世界中の人たちに電気を届けるのに、これ以上原発でやるわけにはいかない、という想いがあります。
例えば、先述のフィリピンは7,000の島からなり、その電力事情は非常に複雑。電気は通っていても、その電気代は(収入が大きく異なるのに)日本とほぼ変わらないため、電気を享受できず、“実質無電化地帯”となっている場所も多くあります。
しかし、各島において『垂直軸型マグナス風力発電機』でそれぞれ発電し、まかなうことができれば、災害でしかなかった台風が“エネルギー源”として活かされることになります。>
再生可能エネルギーに風力、しかも“台風を使う”という斬新なアイデアは実を結ぶか?
次回【未来予想図#010】では、更に具体的な将来のビジョンについて迫る。
【取材協力】
※ 清水 敦史 – チャレナジー
【参考・画像】
※ 台風発電 – チャレナジー
※ 世界初!台風エネルギーを電気に変える『台風発電』に、チャレナジーが挑戦! – Makuake
※ Teun van den Dries / Shutterstock
【動画】
※ チャレナジー_垂直軸型マグナス風力発電機_風洞実験用試作機 実験動画 – YouTube