恵比寿駅は当初、ビールを運ぶための貨物駅だった?

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2016年03月07日 12:22  BOOK STAND

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『山手線 駅と町の歴史探訪 (交通新聞社新書)』小林 祐一 交通新聞社
東京の都心部で環状運転を行っているJR山手線。現在のように環状運転が開始されたのは1925年11月1日のこと。環状運転開始当初の1周所要時間は1時間12分(現在は約1時間)でした。その後、1971年に西日暮里駅が開業、山手線は現在の29駅の姿となりました。

 全国のJR全駅の乗車人員数上位10駅のうち7駅が、山手線の電車の停車駅だというほど、人びとの足として利用されている山手線。そんな山手線は、一体どのような歴史を辿ってきたのか、その誕生から全29駅の変遷について本書『山手線 駅と町の歴史探訪』ではまとめられています。

 たとえばホームで耳にする発車メロディが、映画『第三の男』のテーマ曲の、恵比寿駅。この恵比寿駅の周辺は、古くは下渋谷村・三田村と呼ばれる農村で、大名の下屋敷が点在している閑静な地域だったそう。しかし1887年、現在のサッポロビールの前身となる日本麦酒醸造会社が、この地に工場を開設したことにより状況は一変。

 1890年、同社から、商売繁盛の神として馴染み深い七福神の恵比寿神にあやかって"恵比寿麦酒"と名づけられたビールが売り出されることになり、このビールを工場から出荷するために、工場近くに貨物駅が設けられます。1901年よりビールの積み出しが行われていましたが、1906年10月30日、この貨物専用駅が旅客輸送を開始することに。そのときに付けられた駅名が、ビールの商品名にちなんだ"恵比寿"だったのです。

 さらにその後、駅の東側の道が恵比寿通りと呼ばれるようになり、1928年には恵比寿通りに沿った一帯が恵比寿1・2丁目に。つまり恵比寿は、民間会社の商品名が駅名となり、さらには地名にもなったという稀有なケースなのだといいます。

 貨物駅として始まった恵比寿駅。現在の埼京線と湘南新宿ラインの停車駅は、かつてこの貨物駅が存在したところであり、その広い跡地があったため両線専用ホームを設置することができたのだそうです。貨物駅を拡張する形で旅客輸送が始まったことが、結果として、山手線と埼京線・湘南新宿ラインの乗換えが非常に便利な現在の恵比寿駅の姿を形成したのだといいます。

 ちなみに、かつてのサッポロビール恵比寿工場があったところは現在、恵比寿ガーデンプレイスとなっていますが、その恵比寿ガーデンプレイスにあるサッポロビール本社ビルの背後には恵比寿神社が。この恵比寿神社、かつて日本麦酒醸造会社が商品名の恵比寿にちなみ、恵比寿神社の総本社である兵庫県の西宮神社から勧請した神社が前身となっているそう。ガーデンプレイスを訪れた際には足を運んでみてはいかがでしょうか。



『山手線 駅と町の歴史探訪 (交通新聞社新書)』
著者:小林 祐一
出版社:交通新聞社
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