「CEO解任の仕組みで、けん制効果が生まれる」金融庁・東証の意見書を分析

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2016年03月20日 11:22  弁護士ドットコム

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東芝による企業不祥事を踏まえて、金融庁と東京証券取引所が招集した有識者会議は2月、不適切なCEOを解任できるように「取締役会の機能」を強化する仕組みづくりを求める意見書をまとめた。


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意見書は、適切に会社の業績評価をしたうえで、それでもCEO自身に問題があると認められる場合に、取締役会がCEOを「解任」できるシステムが必要だとした。その際には、取締役会の経営陣からの独立性・客観性を十分に確保することが重要だと指摘している。



これまでの取締役会にはどのような問題があったのだろうか。また、CEOを解任しやすくすることを求める今回の意見書をどう評価するのか。企業法務に詳しい熊谷真喜弁護士に聞いた。



●経営トップが不祥事を主導


「企業不祥事の原因が、利益達成にこだわる経営トップからの過度なプレッシャーであることは珍しくありません。



東芝による企業不祥事においても、第三者委員会は、『業績悪化の中でのコーポレートからのプレッシャー』『コーポレートトップによる(当期利益至上主義に基づく)不作為』が、不適切な会計処理の発生原因の1つであったと認定しました。また、オリンパスによる損失隠しなど、経営トップが企業不祥事を主導するケースもあります。



このように、企業不祥事の原因が経営トップにある場合、これに対するけん制を働かせることは極めて難しいのです。上司の意向に逆らうことができない企業風土がある場合には、なおさらです。トップの行動が企業不祥事の原因となりかねない場合、企業トップを解任しなければ、不祥事は防げないということになります」



業務執行の幹部で構成されることが多い日本企業の取締役会で、解任の仕組みを作ることができるだろうか。



「確かに、日本の取締役会は、ほぼ全員が、経営トップである社長を頂点とする執行部門のメンバーということが多いです。このような取締役会で、社長を効果的に監視することは、極めて難しくなりますね。まして、部下である取締役が結託して、社長を代表取締役の地位から解職することなど、不可能に近いと言えるでしょう。



この点、上場会社で『独立社外取締役』を選任することは、こうした現状を改善する取り組みの1つです。実際、証券取引所規則の改正もあって、独立社外取締役の選任はかなり進んでいます。



ただ、独立社外取締役が取締役会の過半数を占める企業は、上場会社でもごくわずかです。指名委員会等設置会社では、取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定する指名委員会の過半数のメンバーを社外取締役としなければなりませんが、この仕組みを採用している会社の数も極めて少ないのです」



●実際に解任するのが困難でも、けん制効果は大きく異なる


こうした現状で、今回の意見書はどのような意味を持つだろう。



「今回の意見書は、『業務執行部門とその監督を行う部門を分け、取締役会の経営陣からの独立性・客観性を確保すること』、その上で『取締役会が業務執行部門のトップであるCEOを選解任できる仕組みを整えること』という2段階の改革を提言しています。具体的な例として、CEOの指名を行う任意の諮問員会等を活用すること、そのメンバーの過半を社外取締役とし、委員長を独立社外取締役とすること、CEOと取締役会議長を分離することなどが挙げられています。



会社で現に業務執行をしていないで社外にいる取締役が、CEOを評価して解任までするのは、確かに難しいでしょう。しかし、その仕組みがあるのとないのでは、CEOに対するけん制効果は大きく異なる可能性があります。『なにをしても、絶対にクビにならない環境』と、『可能性は低くとも、クビになることもあり得る環境』では、人の行動は違ってきます。例えそれが『伝家の宝刀』であったとしてもです。



確かに、取締役会がCEOを監督し、適性がないとすれば解任するような環境を実現することは簡単なことではありません。しかし、日本企業が変化に即応し、生き残るためには、このような厳しい環境が必要だという指摘は、共感できます。企業不祥事の発生防止のみならず、日本企業がグローバルな市場で勝ち残るためにも、意見書が提案する取組みが普及することに期待したいところです」



熊谷弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
熊谷 真喜(くまがい・まき)弁護士
1997年東京大学法学部卒業、2000年弁護士登録。外務省に出向して条約交渉に携わった後、弁護士として復帰。M&A、企業内不正調査、企業間訴訟など、企業法務全般を手掛ける。複数の上場企業の社外取締役も務める。


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