「粗暴な運転」をする上司の車に同乗したくない! 断ってもいい?【小町の法律相談】

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2016年04月08日 11:42  弁護士ドットコム

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「粗暴な運転をする上司の車に同乗することが怖くてたまりません」という女性から、YomiuriOnline「発言小町」に投稿がありました。


トピ主さんは、仕事の都合で、上司の運転する車の助手席に乗らないといけません。 ところが、その上司の運転に問題が大アリです。「無駄な追い越し、割込み、煽りを楽しんでやっているため、私はシートベルト等に必死にしがみついて、冷や汗が止まらない状態」だそうで、「気分的にはスタントカーにノーヘルで同乗している状態」だといいます。


上司に遠回しに「危ないですよ」とつい言ってしまったところ、「同乗は乗る人の意思だから事故ってもあなたに対して自分は責任がない」などと暴言を吐き出した上司。しまいには、速度超過に急ブレーキという運転をずっと繰り返したそうです。


レスには、「おびえたりしている同乗者を見るのもストレス解消か何かなのでしょうね」など上司を疑問視する意見が並びます。対策として「自前でドライブレコーダーを持ち歩きましょう」とも勧める声もありました。


トピ主さんは「(上司がいうように)同乗中の事故は、同乗者自身に責任があるというのは本当でしょうか?」と聞いています。自分の体を犠牲にしてまで・・・と、退職をも視野に入れているそうです。こんな上司を持ってしまった部下は、どんな対応ができるのでしょうか? 富永 洋一弁護士に聞きました。


事故が起きたら同乗者にも責任があるの? 


トピ主さんが今後、直面する法的な問題としては、損害賠償を「請求される場合」と「請求する場合」の2つの状況が想定されます。


1つめの「請求される場合」。これは、上司が運転中に事故をおこし、第三者に損害を与えた場合、同乗者であるトピ主さんも、ともに責任を問われるのか、という問題です。


同乗者(トピ主)が損害賠償を請求された場合、支払義務があるのかを考えてみましょう。 例えば、同乗者(トピ主)が、運転者に違反運転を指示したり、あおったり、手助けしたりしたようなときには、交通事故が発生した場合、同乗者も「共同不法行為」をしたとして、民事上の賠償責任が発生する可能性があります。


そうではなく、単に同乗したというだけでは、交通事故が起きても、同乗者に民事上の賠償責任は発生しないでしょう。なお、飲酒運転の同乗者には刑事罰が科されることがあります。


次に「請求する場合」です。トピ主さんが上司の車に同乗している際に、事故などで負傷したため、相手方に損害賠償請求をしたと仮定します。しかし、その場合は上司の過失により賠償金額の減額が問題になる可能性があります。


「被害者側の過失」とは、同乗者は運転者と一体的な立場なのだから、運転者の過失は同乗者の過失でもあると考えて、運転者の過失割合に応じて、同乗者が受け取る賠償額を減額(過失相殺)しようという発想です。


しかし、最高裁判所の昭和42年6月27日判決は、この「被害者側の過失」について、「被害者と身分ないしは生活関係上一体をなすとみとめられるような関係にあるものの過失」に限定し、経済的にも一体的な関係(夫婦など)がある場合のみ、運転者の過失を同乗者の過失として考慮することとしました。


今回のように、上司と部下という関係だけなら、「身分ないしは生活関係上一体」とはいえません。したがって、同乗者だからといって、運転者である上司の過失割合に応じて、同乗者である部下が受け取る賠償額が減額(過失相殺)されることはないでしょう。


もうひとつは、「好意同乗」を理由に同乗者の賠償額が減額されてしまうのではないか、という問題です。 例えば、飲酒運転であることを知って同乗したようなケースや、加害者の運転技術が未熟であることを知って同乗したようなケースでは、同乗者の賠償額が減額されることもあるようです。


裁判例では、時速100キロ近い速度で走行していたバイクの同乗者が運転者に何も注意しなかったことを理由に、同乗者の慰謝料を減額した事例もあるようです。


部下が上司に運転態度を注意するのは難しいでしょうから、上司が違反運転を繰り返していたことを知って同乗したからといって「好意同乗」減額をすべきではないと思いますが、同乗者側も違反運転を容認していたととられると、相手方から「好意同乗」減額を主張されてしまう可能性はあり得ますので、注意が必要です。


 「危険だから」と同乗拒否できる? 


ところで、トピ主さんは、上司の運転する車を「危険だから」という理由で同乗拒否した場合、業務命令に反するかどうかも気になっているようですね。


その上司が、常習的に違反運転を繰り返していることが明らかであるような場合には、同乗を拒否することに「正当な理由」があると考えられます。同乗を拒否したとしても、業務命令違反にはならないでしょう。


仮に、同乗を拒否しても上司が聞きいれてくれない場合、次のような対応策が考えられます。


例えば、「同乗拒否・配置転換などを含めて勤務先の管理部門に対応を求める」、「一種のハラスメント(いやがらせ)を受けているとして労働組合や労働局などの相談窓口に相談する」、「道路交通法に違反する運転を繰り返しているとして勤務先の安全運転管理者や警察署に相談する」などです。


 会社が黙認したら刑事罰を科される可能性も


仮に、トピ主さんが勤める企業が、上司の常習的な違反運転を把握した場合、企業として違反運転を容認(黙認)してはならないという道路交通法上の義務が生じます。


違反運転車に社員を同乗させないようにするなどの注意義務(安全配慮義務)もあるといえるでしょう。 企業側が適切な対処をせず、同乗を余儀なくされたような場合には、上司本人や企業に対して、精神的苦痛による慰謝料などを請求できる可能性もあります。


また、企業や安全運転管理者が、その上司の違反運転を容認(黙認)していた場合には、企業や安全運転管理者についても、違反運転者と同様に道路交通法上の刑事罰が科されることがあります。




【取材協力弁護士】
富永 洋一(とみなが・よういち)弁護士
東京大学法学部卒業。平成15年に弁護士登録。所属事務所は佐賀市にあり、弁護士2名で構成。交通事故、離婚問題、債務整理、相続、労働事件、消費者問題等を取り扱っている。

事務所名:ありあけ法律事務所
事務所URL:http://ariakelaw-saga.com/


このニュースに関するつぶやき

  • 同乗は乗る人の意思だから、、、無理に一緒しなくていいよ?というおいらの解釈ww
    • イイネ!1
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