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JALの世界最長大気観測「地球温暖化の解明」へ重要なのは“継続”

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2016年04月11日 21:10  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

“継続する”ことは意外と難しい。

「将来きっと役に立つ」と思えることでも、ついつい目先のことにとらわれてサボってしまう。で、後悔……少なくとも、筆者には思い当たる節が多々ある。

JAL(日本航空)が行っている『CONTRAIL(コントレール)プロジェクト』は、そういった“継続”の大切さを思い起こさせてくれる。

これは、研究機関などと協力し、20年以上続けている航空機を使った大気観測だ。

我々が実際に乗る飛行機で行われているこういった観測は、どんな目的で、いつから始まり、どのように行われているのか?

日本航空コーポレートブランド推進部の江藤 仁樹氏にお話を伺った。

1990年代に観測をスタート

『CONTRAIL』とは、Comprehensive Observation Network for TRace gases by AIrLinerの略。

「広範囲な(地球規模の)旅客機を利用した大気観測ネットワーク」といった意味だ。

江藤氏、

<国立環境研究所、気象庁気象研究所、ジャムコ、JAL財団、日本航空が協力して行っているプロジェクトです。

日本航空は、航空機を使い、上空からの大気採取やCO2濃度の測定装置の搭載を担当させて頂いてます。

採取した大気やデータは、地球温暖化のメカニズム解明などのために、研究機関で研究材料として使われています>

−−いつ、どのようにして始まったのだろうか?

江藤氏、

<1990年代初めに、当時の日航財団(現在のJAL財団、以下同じ)が、社会貢献を目的とした共同作業について公募したんです。で、それに気象庁気象研究所が

「大気観測を航空機でやってもらえないか」

と応募されたのがきっかけです>

1993年、気象庁気象研究所と日航財団、日本航空が協力し、オーストラリア−成田間で観測を開始。

当時、国際長距離路線の主力機だったボーイング747型機(通称ジャンボジェット)に、自動大気採取装置を装着。世界初の試みだった。

2種類の自動観測機器を搭載

現在の『CONTRAILプロジェクト』は2005年にスタートする。

江藤氏、

<改良型のASE(自動大気採取装置)を開発し、新しくCME(CO2濃度連続測定装置)も導入しました。

各装置は、完全にオートで作動し、停止も自動。パイロットの操作は不要です。

配置場所は貨物室の壁面です。エンジンから入って来た空気を機内のエアコンに導くダクト内にチューブを取り付け、そこから取り入れた大気を採取したり、CO2濃度測定を行います>

搭載航空機は計10機

−−どの様な航空機に搭載しているのだろうか?

江藤氏、

<ボーイング777型機に合計10機です。

200ERというモデルに8機、300ERに2機です。それらのうち、(自動観測機器の)ASEとCMEの両方を搭載できるのは5機です。

ちなみに、搭載機の中には『CONTRAIL』のロゴを機体に入れた特別塗装機も2機あります。

CMEは、航空機の上昇中、巡航中、下降中にCO2濃度を連続的に、高精度で自動測定し記録します。搭載機は、全フライトで2ヶ月間連続して測定を行い、3機が常に観測を行っています。

ASEは、主にヨーロッパ路線とオーストラリア路線で大気採取を行っています。

特に、1993年から行っているオーストラリア−日本間の観測は、研究者にとって重要。南半球から北半球を飛行する航路なので、広範囲の観測ができるからです。

大気の採取は、1回のフライトで計12地点。容量1.7Lのフラスコ(専用容器)12本に入れた大気は、国立環境研究所へ届けられ、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、六フッ化硫黄、一酸化炭素、水素などの濃度が分析されます>

「手動採取」では9時間以上座り続け!

大気採取は、人が手動で行う場合もある。

江藤氏、

<大気採取を行う路線は、ASEを搭載している航空機だけが飛ぶわけではないので、手動採取は代替手段として行います。測定するのは、ASEと同じ12地点です。

採取は、研究者の方が行う場合もあれば、我々(JAL担当者)が行う場合もあります。私も行きますよ。

観測者は、副操縦士席の後方座席に着席します。

シドニー−成田間の場合、朝シドニーを出発し夕方に成田へ着くまで、約9時間30分はずっと席に座っていますね。

操縦室は狭いので、休憩するには客席に行くしかないんですが、基本的に安全上の理由で出入りは最小限にしています。45分に1度の割合で採取をするので、それほど時間もないんです>

江藤氏、

<装置は、MSE(手動大気採取装置)というものを使います。

ハンドルを手動で回し、ポンプを動かして大気を採取するんです。フラスコ(上)内に大気を必要量(1地点1L)溜める必要があるため、ハンドルはかなりの回数を回す必要があります。

観測する12地点で計5,000回くらい、けっこう大変ですね(笑)>

JAL以外はドイツのみ

−−航空機による大気観測は、他に実施しているところはあるのだろうか?

江藤氏、

<チャーター機などでは従来から実施されていますが、ルフトハンザ航空とEUの研究者を中心としたチームが、オゾンなどの観測をしています。

観測しているエリアは、主に大西洋やアフリカ、北米、南米、アジアなどです。採取したデータなどは、EUの研究機関で研究・調査されています。

我々のほうは、主に太平洋や東南アジア、シベリヤ域をフォローしているので、EUチームの観測が始まれば両者のデータを合わせて、全世界の大気を網羅できます。なので、研究者間でデータのやり取りを行う体制を作っています>

江藤氏、

<他にも、我々は環境省・JAXA(宇宙航空研究開発機構)・国立環境研究所の人工衛星にもお役に立っています。

温室効果ガス観測技術衛星『いぶき』(GOSAT)が採取したデータの精度検証に、我々のデータが使われているんです。>

経営破綻時も「継続」を決意

江藤氏は、大気観測プロジェクトの担当に2010年から就任。ちょうどJALが経営破綻で揺れていた時期だ。

江藤氏、

<当時、当然ながらこのプロジェクトに関する議論は社内でありました。

破綻に伴い、他の多くの取り組みなどを中止せざるを得ない状況下で、本件についても経営陣が継続か否かの確認の機会を持ちました>

出た結論は“継続”。

江藤氏、

<JALグループは航空運送事業を営む企業である以上、化石燃料の利用により環境に何らかの負荷をかけているのは事実です。

それを前提に、このプロジェクトが

■環境面で社会に貢献できる取り組みであること ■世界の空を広範囲、高頻度でフライトする航空機の特性を活かした、航空会社ならではの取り組みであること

などを改めて確認。本プロジェクトへの継続参加を決定しました。

ただし、再生に向けた本来の事業活動にマイナスの影響を与えないことが大前提。その上で、“JALグループとして最大限可能な範囲で取り組む”という姿勢で望むこととなり、現在に至ります>

結果的に、この“継続”の判断が、航空機による大気観測として世界最長になる大きな要因となった。

研究者や国家戦略のためにも続ける

−−今後は、どのような方針ですすめていくのだろうか?

江藤氏、

<新しく路線へ導入しているボーイング787型機に、自動観測機器を搭載することなども検討中です。

更には、A350型機など航空機が代替わりしても、観測が続けられるようにしたいですね。

我々が協力させて頂いている研究者の方々は、「地球温暖化のメカニズムを絶対に解明するんだ」と、熱意をもって研究されています。

ただし、時間がかかる。よく「自分が生きているうちは(解明は)難しいだろう」と言われます。

でも、「未来へ繋げるために、まずは“今”の観測をしなければ」といった使命感で取り組まれています。本当に頭が下がりますね>

ちなみに、下図は高度8km以上の対流圏における、4月と7月のCO2濃度の分布だ。

北半球と南半球でCO2濃度の差が大きいことや、森林が多いシベリア上空では夏でもCO2濃度が低いことなど、少しずつだが観測により分かったことは増えてきている。

江藤氏、

<また、最近話題となっている『パリ協定』についても、協定遵守の監視を行うには信頼できる客観的なデータが必要です。

そういう意味で、我々がオーストラリア−日本間で行っている大気採取は、世界最長の観測。長年、同じ地点で取っているデータは世界に他になく、信頼性はかなり高いと自負しています。

我々が行っているプロジェクトが、少しでもこういった研究者の方々や国際社会での日本の貢献に役立てられるといいと思っています。

そのためにも、まずは“継続”。これが第一ですね>

“継続は力なり”。

いい意味での“ルーティンワーク”として、今後も続けていって欲しいものだ。

【取材協力】

※ 江藤 仁樹 – 日本航空株式会社

【参考】

※ 環境省

※ JAXA

※ 国立環境研究所

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