ハーレーは蕎麦屋の出前では使われない。当たり前だけど頷いてしまうしたたかな戦略

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2016年04月24日 19:02  新刊JP

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『巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念』(丸善刊)
最盛期の8分の1まで落ち込んでいるといわれるバイク販売だが、青春時代をバイクと共に過ごした世代が、生活に余裕が出てくる50代になり、再びバイクに戻ってくるという現象も起きている。そんな中年・熟年ライダーたちにも人気があるのが、ハーレーダビッドソンだ。

とはいえ、日本のオートバイ市場には、ヤマハ、ホンダ、スズキ、カワサキという世界に冠たる大企業が4社も存在する。そんな厳しい競争の中、ハーレーはどのようにして生き残ってきたのか。

『巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念』(奥井俊史著、丸善刊)は2008年に出版されたが、今でも十分に読み込める一冊だ。本書では、ハーレーダビッドソン ジャパンを通して、市場がシュリンクしている業界、負け組とみなされてしまっている会社、売上低迷に苦しんでいる中小企業が、強い企業競争力が養うための秘訣を紹介している。

■ハーレーは蕎麦屋の出前では使われない。

ハーレーは重すぎるし、燃費も悪い。取り扱いの軽便さもなく、単純に交通輸送手段としてみると、不便な乗り物である。だから、例えば蕎麦屋の出前や郵便配達などで使われることはまずない。当たり前だが、この事実はとても興味深くはないだろうか。またハーレーは高い。競合クラスの国産車の中心価格が100万円であるのに対して、ハーレーの場合は230万〜240万円はする。

では、なぜそれでもハーレーは買われるのか? そもそも、ハーレーはアメリカでの誕生当初から、個人的な楽しみ、とくにレースなどでスピード競争に使われたり、ツーリングに使われ、趣味的用途が中心だった。広い国土のアメリカにふさわしく、大きな図体をもつ、重厚感にあふれるオートバイとして仕上げられていった。

日本でもハーレーの購買目的は、主として趣味であったり、自らのステータスや生き方をあらわす自己表現の1つの手段というところにある。「いつかは乗りたい」という憧れの対象でもあり、実用性は度外視しているオーナーが多いということだ。

■マーケティング戦略を再定義。ハーレーのある生活を豊かにする。

1991年から2008年までハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)の代表取締役をつとめ、本書の著者でもある奥井俊史氏は、社長就任当初、ハーレーというバイクの特徴をみて、価格では他社とは「比較しない」ことを早々に決断したという。ハーレーが生き残っていくための依りどころを考える上で大きなポイントとなった原点は、ハーレーをサービスレジャー産業というジャンルに属する商品として定義し直したことだ。

そして、ハーレーのマーケティング戦略を、人と人の「絆」を大切に育てる「ライフスタイルマーケティング」と呼び、顧客に満足してもらえるように、イベントなどの活動やクラブ組織を通じてハーレーのあるモーターサイクルライフをより豊かに楽しくするプログラムを充実させていった。イベントなどを通してハーレーの歴史や伝統や文化をビジュアル化することで、感動経験として提供し、深く心に感じ取ってもらう。「モノ」を売るために「コト」を売ることからスタートしたのだ。その結果、毎年売上を伸ばし、750ccクラスにおいて他社の倍以上の年間販売台数を誇るまでになるのだった。

奥井氏が社長に就任した90年当時は、「地に落ちたハーレー」「価格が高いのがハーレー」「壊れやすいのがハーレー」「部品がないのがハーレー」と揶揄されていた。そんな状況の中、奥井氏は「凡事を非凡に徹底」して取り組む姿勢や考え方を徹底してきた。ハーレーがどのようにしてブランド力を回復させ、売上を伸ばしていったのか。その秘密を読むことができる一冊だ。

(新刊JP編集部)

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