現代ではさまざまな小型の電子デバイスが登場しているが、それらを設計する際に大きな制約となっているのが“バッテリーの存在”だろう。
なくてはならないものだが、意外と大きい。しかも、容量を求めると小型化がむずかしい。しかし、将来的にはバッテリーを搭載する必要のない電子デバイスが登場するかもしれない。
なぜなら、“マイクロチップそのものにエネルギーを蓄える技術”が開発されたからだ。
カーボンフィルムを「チップに配置」するというアイディア
これは、米国ドレクセル大学の研究者をはじめとする国際的な研究チームが、カーボンフィルムを活用して『マイクロスーパーキャパシタ』を作り、マイクロチップとそのエネルギー源を一元化してしまうという技術を生み出した。
詳細なるレポートは『サイエンス』誌に掲載されている。
|
|
研究者のひとり、Patrice Simon氏は次のように語っている。
<たしかに時間はかかりました。
しかし、私たちが目指していたのは、ただマイクロチップと同程度のサイズのエネルギー・ストレージを作ることではなく、エネルギー・ストレージをマイクロチップの一部にしてしまうこと。
しかも、現在のシリコンチップ製造工程の中に、容易に組み込めるようなものにすること、という非常に高い目標でした>
カーボンフィルムというものが登場して以来、この研究チームは、コンピューターやスマートウォッチなどを動かすシリコンをベースとした、マイクロチップのエネルギー源とするための研究を続けてきたという。
その互換性や機械的な安定性、耐久性など数多くの課題を解決してきた。
ひとつのシリコンウェハーの上に、いくつもの『スーパーキャパシタ』を作り出すために、どうやってカーボンフィルムを、さまざまな形や配置で設置していくのかという手法も、彼らの研究の中で発表されている。
|
|
その手法は、現在のマイクロチップの製造法と、容易に融合するものだという。
この革新的技術がIoTを加速させるか
『スーパーキャパシタ』は、マイクロエレクトロニクスの分野で強く求められているデバイスだ。
そのサイズのわりに大きなエネルギーを蓄えることができ、充電も放電も非常に短い時間でできる一方で、そのものの寿命は非常に長い。
今回の研究によって、マイクロチップの製造業者にとっては、技術のさらなる前進への道が大きく開けたといえるという。
このマイクロチップとエネルギー源を一体としてしまう技術は、今後進んでいくと思われるIoT(Internet of Things=モノのインターネット化)において、非常に重要な役割を果たすことが期待できる。
|
|
かさばる別体のバッテリーを搭載しなくていいことになれば、電子デバイスは非常に小型化することができ、乗り物や建造物や服などのさまざまな場所に、電子デバイス、センサーなどを埋め込んで、データをやりとりできるようになる。
また、カーボンフィルムは、別の特性も注目されている。
例えば、摩擦係数の低いコーティング用の素材としてだ。それによって、潤滑油が不要な摺動パーツが可能になるかもしれない。
また、非常に小さい分子サイズの孔を持っているため、気体用や淡水化用、浄水用のフィルター膜などとして活用できるかもしれないという。
この研究チームが確立したカーボンフィルムの製法は、さまざまな方面で活用が期待できるというのだ。
いずれ、IoTのための電子デバイスは、バッテリーが必要だった時代からは想像がつかないほど、小さいサイズで実現するかもしれない。
【参考・画像】