「無許可録音」のデータは裁判で証拠として認められるか…パワハラ訴訟を事例に検証

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2016年05月29日 09:32  弁護士ドットコム

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パワハラ問題を審議する委員会の会議で、自身を侮辱し名誉を毀損する発言があったなどとして、私立大学の男性職員が勤務する大学を訴えていた裁判の控訴審で、東京高裁は5月19日、男性の控訴を棄却する判決を言い渡した。


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男性は、証拠として委員会の会議を秘密で録音したとされるデータを提出したが、一審に続き、控訴審でも「違法性の高さ」を理由に証拠採用されなかった。代理人弁護士によると、秘密の録音データが違法だと証拠から排除されたことはほとんどないという。



男性側によると、録音データは2009年7月にあった委員会の会議とみられ、男性は出席していない。差出人不明の郵便物として届けられ、録音には「なんかちょっと家庭環境が…」「これ、貶めようとしたら簡単にできちゃうよね。だって自分がそう思えばいいんでしょ」など、男性を侮辱する発言が含まれているという。



しかし、裁判所は、会議の内容は秘密にする必要性が特に高く、録音データの違法性は極めて高いとした。パワハラ当事者の個人情報が飛び交うことなどが理由だ。そのうえで録音データを証拠として認めると、違法行為を助長し、重大な個人情報が漏えいする可能性があるなどとして証拠採用しなかった。



法的に見て、密かに録音されたデータはどう扱われるのだろうか。また、今回の判決は今後の裁判にどのような影響を与えるのだろうか。加藤泰弁護士に聞いた。



●民事では原則、証拠能力の制限はない


ーー今回のような民事訴訟で、録音データはどう規定されている?



裁判所の証拠調べの対象となる資格のことを「証拠能力」といいます。ある証拠が事実認定の資料として許されるかどうかが判断されます。



民事訴訟の場合には、原則として証拠能力の制限はありません。そのため、会話を密かに録音した媒体について、これまでも多くのケースで証拠能力は認められてきました。有名なものとしては、銀座の料亭での会話をふすま越しに録音したテープを証拠として認めた裁判例があります(東京高判昭和52年7月15日)。



ただ、録音のすべてについて、裁判所が証拠能力を認めているわけではありません。この裁判例でも、「反社会的」な手段で収集した場合については、証拠能力を否定されてもやむを得ないと論じられています。



録音ではありませんが、収集の手段をめぐっては、不貞行為の慰謝料裁判で、浮気相手と生活を始めた妻が、夫の不在時に自宅に忍び込んで持ち帰った大学ノートについて証拠能力が否定された例があります(東京地判平成10年5月29日)



ーー刑事訴訟の場合は?



刑事訴訟を規定する「刑事訴訟法」では、民事訴訟とは対照的に証拠能力は大変厳しく制限されています。たとえば、伝聞証拠についての証拠能力が原則として否定されていることなどが有名です。



無断で行った録音については、刑事訴訟法で類型的に証拠能力を否定されているわけではありません。そこで、違法収集証拠として排除されるか否かの場面で問題とされます。



たとえば、捜査機関以外の者が行った相手に無断で行った録音について、録音の目的、対象、方法等の諸事情を総合的にみて、重大な違法があるか否かを検討し、証拠能力を肯定した裁判例があります(松江地判昭和57年2月2日)。厳密な統計をみたわけではないのですが、証拠能力に厳しい刑事裁判においても、一方当事者の同意を前提に行われた録音については、証拠能力を否定しないことの方が多いようです。



●「無断の録音は無効」と一般化するのは困難


ーー今回の判決についてはどうとらえているのか?



無断であっても録音一般については、民事裁判では常々証拠として許容されてきました。その意味で、今回の判決は珍しいものといえます。ただし、これをもって無断で行った録音に証拠能力がない、と一般化するのは難しいでしょう。



今回、裁判所は委員会の審議の性質や録音媒体が証拠として提出される経緯について、十分に検討したうえで、証拠能力を認めるか否かの判断を下しています。反社会性など、民事訴訟法の信義則(第2条)に違反すれば、証拠能力が認められない可能性があることは、前述した昭和52年の裁判例でも言及されています。違法行為を助長することがないように、どこかで線引きをしなければならないという意識が裁判所にも常にあるということです。



したがって、今回の判決は、証拠能力についての事例判断としては非常に参考になりますが、話し手に無断で行った録音について、従来の裁判所の枠組みを覆すような画期的な判決というわけではないかもしれません。



ただ、スマートフォンの普及、録音機器や通信技術などの進歩によって、無許可の録音をはじめとする証拠能力の分野の議論は今後ますます活発になることが予想されます。そのような中に今回の判決が一石を投じたのは間違いないのではないでしょうか。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
加藤 泰(かとう・やすし)弁護士
早稲田大学法学部卒業、広島弁護士会所属
広島弁護士会広報委員会副委員長、広島商工会議所青年部会員
Facebookページ
http://www.facebook.com/lawyerkatoyasushi
事務所名:山下江法律事務所
事務所URL:http://www.law-yamashita.com/


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