英政界にまた衝撃、ボリス・ジョンソンの代わりにこの男??

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2016年07月01日 18:31  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<英EU離脱派のリーダーで次期首相とみられていたボリス・ジョンソン前ロンドン市長が突然、英保守党首選への出馬断念を発表した。党首選でジョンソンを支援してくれるはずだった英司法相マイケル・ゴーブ、これまで自分はリーダーにふさわしくない、ジョンソンこそふさわしいと言ってきたゴーブが、裏切って先に立候補してしまったからだ。それも理由は、ジョンソンには「指導力がない」からだという。イギリスの次の首相になるかもしれない人物だが、ネオコンとも気が合う強硬派らしい。また野心家の妻が後ろで糸を引いている>


ボリス・ジョンソンが立候補しないと語った瞬間


 労働党の運動員だったマイケル・ゴーブが保守党に鞍替えしたのは15歳の時。「フォークランド紛争がきっかけだ」と、ゴーブは語っている。1982年、アルゼンチンの軍事政権が、イギリスが実効支配していたフォークランド諸島に軍隊を派遣した。大英帝国全盛の頃ならあり得なかった屈辱と、イギリス世論は激怒した。「私は衰退が当たり前になったこの国で育った。将来の希望を信じる指導者が、イギリスには何世代もいなかったのには恐れ入る」


【参考記事】特権エリートに英国民が翻した反旗、イギリス人として投票直後に考えたこと


 イギリスの歴代首相、とりわけブレア、サッチャー、キャメロンは就任前は外交問題にほとんど関心がなかったが、ゴーブは善か悪かで世界を二分するタカ派だ。


 教育改革と司法改革の実績で知られるゴーブが過去30年近く、一貫して関心を持ち続けたのは外交政策だ。タイム誌のコラムニストとして、30年に及んだ北アイルランド紛争の歴史的和平を「容認できない譲歩」と評し、当時のブレア首相を「ポピュリスト」とけなしたこともある。しかし同じブレアがイラクのサダム・フセインに敵対的な姿勢を示すと、ゴーブは「もうこの感情を抑えられない......トニーが大好きだ!」と態度を一変させた。


ネオコンから英雄扱い


 サウジアラビアやパキスタン、ジンバブエの体制転換を求めたこともある。米政界で一時勢力を持っていたネオコン(新保守主義)の一派からは「英雄」扱いされ、2005年に出版されたネオコンの記念碑的なエッセイ集『ザ・ネオコン・リーダー』では、サッチャーやブレアと共に寄稿していた(イギリス人の寄稿者はこの3人だけ)。そのエッセイでゴーブは、ナチスドイツに奪われないためにフランス海軍の艦艇を沈めた第二次大戦中のチャーチルの決断について書いている。


【参考記事】英国で260万語のイラク戦争検証報告書、発表へ ──チルコット委員会はどこまで政治責任を追及するか


 政界に入ってからの10年ほどの間にも、イスラム過激派のハマスやヒズボラへの対応でウィリアム・ヘイグ元外相を弱腰と怒りをぶつけている。昨年のイランとの核合意──イランが核開発を縮小する見返りに欧米は経済制裁を解除する──も軟弱な譲歩と見なしていた。2013年にシリアへの軍事介入が議会で否決された時には、口論になった労働党議員を「ナチス野郎」と罵倒している。


 保守党党首選に立候補した今、もしかしたらゴーブは偉大なチャーチルのような首相になれるかもしれない。完璧ではないが、タイミング的には合っている。ゴーブの友人や家族はここ数日、そう説得したのだろう。これまでにゴーブは何度も、自分が首相に適任ではないと公に否定していた。2010年成立の連立政権で教育相に就任し、世論から痛烈な批判を浴びたことで、自信や野望が萎えてしまったようだ。


 国民投票でEU離脱が決まった今、「その時が来た」と周囲に懇願されている可能性もある。EUとの重要な交渉を控え、欧州の連邦主義者に対峙する強い首相が必要なのだ、と。


 唐突に見えるゴーブ周辺の盛り上がりの鍵を握るのは、キャメロンの元顧問でEU「離脱派」のスティーブ・ヒルトンだ。2005年に議員選への立候補を説得したのもヒルトンだった。また財務相のジョージ・オズボーンもゴーブの強硬な外交姿勢に同調している。オズボーンは、国民投票前後には「残留派」として活動していたが、間違いなく「隠れ欧州懐疑派」だ。


暗躍する妻


 しかしゴーブの最大の支援者は、タブロイド紙デイリーメールでコラム二ストを務める妻のサラ・バインだ。ゴーブの周辺では、「むしろサラがファーストレディになりたがっている」とも、囁かれる。サラは最近のコラムで、将来のイギリスとEUとの離脱交渉を「夫婦の共同プロジェクト」と考えていることを明かしている。


 ゴーブが本当に「チャーチル」か、それとも「いんちきチャーチル」か、それはまだわからない。真面目だがトラブルメーカーの教育相――ゴーブに好意的な教職組合の関係者でさえ、思い通りに進まないと怒り出す気性を明かす。「議会で最も礼儀正しい人物」という評判とは食い違う。政策をめぐって対立したデービッド・キャメロン首相からも、プライベートでは「いかれている」と言われたことがある。


 ゴーブはかんしゃく持ちだが、日頃はそれを押し殺している。その気性は、今後のEUとの神経を使う交渉には向いていないかもしれない――チャーチルも同様の気質で、それでもうまくやっていたのは有名な話だが。




アラステア・スローン


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