民族消滅に近づくイラクの少数派

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2016年07月06日 17:01  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<10年以上も戦争が続くイラクで、ヤジディ教徒などの宗教的・民族的少数派が消滅の危機に瀕している。ISISに殺されたり性暴力の被害に遭うなど実際の人口も減っている。最近イラク政府が奪還した後のファルージャも平和からは程遠い> (ISISの暴力から逃れ、シリア国境に向けて歩くヤジディ教徒)


 10年以上も戦争が続くイラクで、宗教的・民族的少数派が「消滅」の危機に瀕している。


 2014年6月にISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)がイラク北部の都市モスルを制圧して以来、同国の少数派に属する数千人が、拉致され、重傷を負い、あるいは殺害されている。その中には、ISIS戦闘員にレイプされたり、結婚を強制されたり、性奴隷にされたりした女性と少女も含まれるが、正確な人数は分かっていない。


政府軍の反攻で100万人が追われる


 これは、4つの人権団体──マイノリティー・ライツ・グループ・インターナショナル(MRG)、代表権をもたない国民・民族機構(UNPO)、国際法・人権研究所(IILHR)、ノー・ピース・ウィズアウト・ジャスティス(NPWJ)──が今月4日に発表した報告書による告発だ。イラク政府が今後、モスルの奪還に向けて動けば、それにより計100万人が影響を受け、居場所を追われるだろうと報告書は警告している。


 米軍主導の多国籍軍がイラクに侵攻した2003年以来、少数派の危機的状況に関しては何度も報告がなされてきた。その最新版となる今回の報告書によれば、現在の紛争では、ISISだけでなく、イラク治安部隊、民衆動員部隊(シーア派民兵)、ペシュメルガ(クルド人自治区の治安部隊)といった複数の紛争当事者が戦争犯罪を犯している。化学兵器の使用、レイプ、拷問、少年兵の勧誘などだ。国連調査官も今月初旬、ISISが少数派ヤジディ教徒を集団虐殺していると非難した。


【参考記事】連日の大規模テロ、ISISの戦略に変化


「13年間の戦争により、イラク社会には悲惨な長期的影響が出ている」と、マイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル(MRG)のマーク・ラティマーは述べる。「少数派に対する影響は壊滅的だ。サダム(・フセイン元大統領)はひどかったが、状況はさらに悪化した。何万人もの宗教的・民族的少数派が殺され、数百万人が命からがら逃げ出した」


キリスト教徒は115万人、ヤジディ教徒は20万人減少


 実際、過去13年間で著しく人数を減らした少数派集団もある。イラクのキリスト教徒は2003年時の140万人から減って、現在は25万人以下。ヤジディ教徒(2005年時の70万人から50万人に減少)やカカイ教徒などの少数派は、住み慣れた土地を追われ、シーア派トルクメン人やシャバク人はイラク南部にまで追いやられている。


 報告書によれば、2014年6月以来、イラクでは330万人が国内避難民となっており、その3分の1が子供だ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、今年ヨーロッパを目指して地中海を渡った難民の15%がイラク人だとしている。


 戦況に関わらずイラク人には災難が降りかかる。4団体の報告書発表の前日にはバグダッドで爆弾テロが発生、200人以上が死亡した。先月イラク政府がようやく西部の都市ファルージャをISISから奪還した後も、数百人の男性と少年が民兵組織に拉致されたとされ、今月5日にゼイド・ラアド・ゼイド・アル・フセイン国連人権高等弁務官が彼らの解放を求めている。


【参考記事】イラク政府のファルージャ奪還「成功」で新たな火種


「イラクの少数派は今や、イラク中央政府やクルド自治政府だけでなく、国連に対しても幻滅し落胆している」と、少数派のための国民・民族機構(UNPO)のジョアンナ・グリーンは言う。「すでに悲惨な状況だが、逃げる生活が長引いているため、緊張が一層高まっている。短期的な安全だけでなく、長期的視野に立った緊急措置が必要だろう」



ルーシー・ウェストコット


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  • 幾ら国連が日本の女子高生の売春を非難しても、紛争地の性暴力は減少しない。
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