東日本大震災が生んだエコな蓄電技術

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2016年08月26日 19:02  新刊JP

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東日本大震災が生んだエコな蓄電技術
2016年5月、アメリカの新興自動車メーカーであるテスラモーターズは、自社の新型電気自動車が発売後わずか1週間で32万台余の予約を集めたと公表し、話題を呼んだ。

これまでエコ技術の象徴のように言われながらも、いま一つ市場への普及が進まずにいた電気自動車(以下、EVと表記)。テスラモーターズ社をめぐる動きは、市場の今後を占う意味で見逃せないものといえよう。

この市場に関連して、もうひとつ興味深い動きが見られる。
EVの中古バッテリーを二次利用することで定置型蓄電池を作ろうというものだ。

■「EVの中古バッテリーを二次利用」というアイデアはいかにして生まれたのか

『4Rの突破力』(ダイヤモンド社刊)によれば、日産リーフで使用されているリチウムイオンバッテリーは、EV用途として10年使われたとしても、なお初期の70%程度の容量を残しているという。

EVにとって容量は航続距離に比例する為、容量が30%消費されたバッテリーは車用としての役割を終える。だが裏を返せば、EV用途としては厳しくても、他の用途であれば充分使えるだけの性能を有するのが、EVの中古バッテリーなのだ。

EVは元々、低酸素社会実現のために生み出されたという経緯を踏まえれば、日産内で「EVの中古バッテリーをなんとかして再利用できないか」という話が出てくるのは必然だった。

このような背景もあって、日産は2010年9月、リチウムイオン電池の製造から車のリース事業までを手がける住友商事とタッグを組み、フォーアールエナジーなる合弁会社を立ち上げるに至った。

■ニーズがあるどころか、存在すら知られていなかった蓄電池

フォーアールエナジーは、リチウムバッテリーの再利用の可能性を調査することをメイン事業として、日産出身者4名、住友商事出身者3名の計7名という体制でスタートした。

だが創業当時、自動車のバッテリーのような大型リチウムイオン電池の市場はまだ存在せず、売り出せるような商品もなかった。創業してから数年間、会社存続も危ぶまれるほどの赤字状態が続いたという。

だがこの数年間、何の進展もなかったかといえば、そうではない。

市場調査を進めるなかで、EVや太陽光などのクリーンエネルギーについて知る人はいても、
リチウムイオン電池、さらには蓄電池に対する社会的認知度が圧倒的に低いということが分かってきたのだ。

■東日本大震災が大きなターニングポイントに

そんななかで起きた東日本大震災は同社にとって、「世の中で、一番蓄電池が求められているときに応えられなかった」という意味で悔しい出来事であったと同時に、事業スピードを加速させていく上での大きなターニングポイントとなった。

大規模自然災害などの緊急時、電力供給が止まると、人工透析が必要な人や、ペースメーカーを使っている人などは生命が危ぶまれる事態となる。しかし、蓄電池が社会に普及していれば、このような人たちは困らずに済む。

こうした意味で、東日本大震災および原発事故は、蓄電池の重要性を知らしめ、かつて存在すら認識されていなかった蓄電池への見方を一変させた。

社会が新たなエネルギーを求めるようになり、「電力を蓄える」という考え方にも理解を示すようになったのだ。こうした状況変化を受け、紆余曲折ありながらも、蓄電池への補助金制度が用意されることとなった。

このようにバックアップ体制が徐々に整うなか、ついに2014年夏、開発メンバーの一人であった牧野英治氏の「ちょっとしたアイデア」がきっかけとなり、蓄電器と充電器を一体化させたヒット商品「エネハンド充電器」が生まれる。

ちなみに同社は「4R:再利用(Reuse)、再販売(Resell)、再製品化(Refabricate)、リサイクル(Recycle)」というビジョンを掲げている。

同社がどのような思想にもとづき、ものづくりをしてきたのか。本書を通じてそれを知ることは、これからの時代にものづくりに何が求められるのかを知ることにつながるのではないか。
(新刊JP編集部)

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