『およげ!たいやきくん』ほか昭和テレビ童謡の第一人者にきく、子ども向け音楽の過去・現在・未来

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2016年08月31日 09:02  MAMApicks

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累計460万枚。1975年に発売された『およげ!たいやきくん』が叩き出したこの大記録は、日本におけるシングル盤の売り上げ歴代一位として未だ破られることはない。

その「たいやきくん」をはじめ、『いっぽんでもニンジン』や『パタパタママ』、あるいは『はみがきじょうずかな』に『パジャマでおじゃま』、はたまた『ヤーレンソーラン北海道』など、昭和キッズたち垂涎のこれら子ども向けソングは、すべて同じ音楽ディレクターの下で生み出されていた――

現在は文筆家、古地図・地域史研究者としても活躍されているマルチメディアプロデューサーの小島豊美氏。今なお世代を超えて子どもたちの心を震わす名曲たちが生まれた背景に迫りました。


―― まずは小島さんのお仕事についてお伺いします。当サイトの読者にも「ポンキッキ」シリーズを観て育った世代は多いです。

小島豊美氏(以下、小島):たしかに今の30代後半から40代は、僕の仕事がジャストミートな世代でしょうね。「ポンキッキ」以外にも「おかあさんといっしょ」「みんなのうた」のほか、「ピッカピカ音楽館」なんかの音楽も僕の仕事です。
【関連リンク】小島豊美の仕事
http://www.app-beya.com/work/children
「こういうのを作ったら売れるだろうなあ」というのは、今でもありますよ。でも、今は音楽の世界が全然違ってきている。マーケットが様変わりしてる。

―― もともと子ども向け音楽に興味があったのですか?

小島:いや、会社員(現・ポニーキャニオン)のときはそうじゃなかった。僕が当時所属していた学芸部という部署は、アーティストを担当して仕事をする、っていういかにもレコード会社っぽい仕事じゃなくて、自分の頭の中をひねくり返して作品を作るところ。で、その仕事のなかに、子ども向け音楽というジャンルがあったんです。

まあじつは「ポンキッキ」の企画書には自分なりに興味があって、番組の立ち上げに少しお手伝いもしたんですよ。「ポンキッキ」は、ご存じのように幼児教育番組です。幼児教育番組にはきちんとカリキュラムがあって、それに則って作品を作るのですが、そのセオリーが自分には合っていましたね。たとえば『いっぽんでもニンジン』みたいな、助数詞の歌で、しかも1ワードごとに頭取りをして、「♪いっぽんでもニンジン、にそくでもサンダル、さんそうでもヨット……」みたいなね。

―― たしかに「ポンキッキ」の歌にはどこか教育的な部分がありますね。

小島:まあ何がカリキュラムなのか、カリキュラムの定義を示せって言われたら困るけれど、カリキュラムをもって描き出す、言葉、社会を歌仕立てに表現する。そんな番組のコンセプトと自分のセンスがうまく合ったんでしょうね。

―― では、歌を作るときは「詞」ありき?

小島:そうです、私の仕事ではまず詞が大前提です。子どもの歌で何を作品にするかっていうのは、詞からですからね。

たとえばあの、「♪おかあさん ・・・ おかあさんて いいにおい」―― 『おかあさん』っていう名曲がありますよね。では「お母さん」をテーマにしたとき、どういう切り口で曲にするか? 僕だったらこの歌の『おかあさん』とは対極の、せかせかしたお母さんはどうだろう?って。それで、お母さんの一日のお仕事を歌にしてみたら、『パタパタママ』になったわけですよ。

だから子どもの歌はね、メロディーや歌手ありきではないんだと、私は今でも思います。テーマがあって詞を作った上で、メロディーを作って、どんな歌い手にするか、そしてこれらをどう料理(アレンジ)して仕上げるか、そのへんが音楽ディレクターの仕事の妙なんだと思いますけどね。

―― たくさんの名曲をプロデュースしながら、会社を離れたのはなぜですか?

小島:僕はマイペースな男だからね。会社にいても異質な男だった。会社の組織に合ってないんですよ、私は。組織っていうのは、実績が出ちゃうとある種の社内のチカラ関係みたいなものができてしまう。最後は私が出す企画はなんでもオッケーだったの。もう出せばオッケー(笑)。そうすると今度はだんだん仕事にハリがなくなってきて。「なんか言ってくれよ」って気分になってきて。手ごたえが無いことに飽きちゃって会社を辞めたんです。

―― なるほど……。

小島:会社にいたのは17年半で、制作人生は15年だったかな。でも最初から運のある男だったんですよ、私は。デビュー戦で『およげ!たいやきくん』で当てちゃったからさ。もう嫉妬の嵐ですよ。ディレクターになってほぼ最初の仕事の先輩ディレクターからのね。私はどちらかというと文系の男で、譜面に強いわけではないんです。音楽をやっていてレコード会社に入ったわけではないから。それなのに大きく当てちゃったから。

―― 小島さんの中で思い出深い作品といえば、やはり「たいやきくん」ですか?

小島:どちらかといえば『いっぽんでもニンジン』の方ですね。まだコンセプトの決まっていないワードの羅列のような詞があって、それを机の中にしまいこんでたの。それを半年くらい経ってかな、「助数詞の数え歌にしよう」と思いついて。で、気づいたら、パタパタパタっと決まった。あれは今でもよく出来ていると思うし、『およげ!たいやきくん』の裏面ということもあって、秀逸だと思います。

―― 『いっぽんでもニンジン』はなぎらけんいちさんが歌っていますよね。

小島:当時の僕は特に人脈もなくてねぇ。あの頃のフォーク歌手ってのは、いわゆる“とっぱらい”で仕事してくれたんですよ。「明日の百万円より今日の五万円」のほうがいいと。それでなぎらさんをキャスティングしたんだよね。

じつは「たいやきくん」も、子門真人さんの前に生田敬太郎さんという別の歌手が歌っていたんですよ。ところが、企画会議を通して、さぁ次は編成会議……というときに、生田が別のレコード会社と契約を結んじゃって。慌てて代役を探したんですよ。子門さんは元々フジ音楽出版の経理マンだった。経理マンなんだけど、すでに『ガッチャマンの歌』とかを歌ってた(笑)。で、キーは合うし「たいやきくん」のカラオケを歌ってもらったら、すごくはまった。それで子門さんにお願いしました。

「たいやきくん」はポンキッキの“今月の歌”というコーナーで流すことになったんだけど、ただ、歌が長くてね(笑)。4分7秒ありました。番組側からは「つまめ、せいぜい2分半にしてくれ」って言われたけど、「無理です」って。だってたいやきくんはご存じのようにストーリー仕立てになってるから。そこは突っぱねましたね。

―― 先ほど「詞ありき」というお話がありましたが、子どもの歌作りに対して他にこだわりはありましたか?

小島:「ファルセットの歌はやめよう」かな。つまり、NHKのうたのおねえさんみたいな歌はやめようと。そういう歌が子どもにとって楽しいかというと、まあ、つまんないだろうなという気持ちが僕にはあって。

たとえば『パタパタママ』の“のこいのこ”なんかは、コマーシャルソングをやっている人なんですね。声楽とかではなくて。コマーシャルソング独特のフックのある歌い手さん、そういう人たちをキャスティングしていました。そういう意味では、純粋な歌い手じゃなくてもよかったんです。作品のイメージを表現してくれる人なら誰でもよかった。
そうそう、『おかあさんといっしょ』の「パジャマでおじゃま」や「はみがきじょうずかな」も僕が作ったんですよ。

―― ええ!?

小島:「パジャマでおじゃま」は『ポンキッキ』でやらないって言うから、NHKに持ち込んだんですよ。今でもやってるそうですね、あれは。

―― 永遠の定番曲です!! 小島さんは今でも子ども番組を見たりしますか?

小島:朝早いからなぁ(笑)。でも『ピタゴラスイッチ』とか『にほんごであそぼ』とか、おこがましいけど僕が作っていたころの感覚やセンスに近いなって思いますよ。

ただ、なんというか、まあ制作者の犬の遠吠えになるんだけど、「俺だったらこういうふうには作らないな」と思うこともある。もちろん、ディレクターが違えば違うものができるんだから、当たり前だけどね。

でも、「この人たちはどういう思いで番組を作っているんだろうな」とは思う。たとえば『みんなのうた』も、「これ、コンセプトは何なんだろう?」っていう曲がいっぱい流れてるでしょ。「音楽になっていればなんでもいいのかよ」って。そこはやっぱり子どもの心に残るものであってほしいですもん。

子どもの歌の世界において、ディレクターの役割って大きい。なんだって、「音楽」にはなる。なんじゃこりゃ、っていうのだってね。でも、今の子どもはそれを聴いて育っていくわけですよ。良い悪いは別にしてね。私自身も、「表現してくれるならいいや」って、当時爆発的な人気を誇っていたアーティストグループを使ったりもしました。でもやっぱり基本は、歌手ありきではない。

―― 小島さんの曲を聴いて育った人たちが、今、親世代になっています。音楽的な見地から、今の親子を見て伝えたいメッセージはありますか?

小島:結局、歌は見えない心の栄養だと思っています、私は。『星の王子様』じゃないけど、「見えないものが大事なんだよ」っていうキーワードみたいなものを自分のなかに持っている。

1,000曲を超えるオリジナル曲を作って、その一つひとつに思い入れがあります。「あのときあの曲を聴いてケアされて、いま人生を歩んでるんですよ」って話を聞かせてもらったりすると、「ああ、僕も社会に貢献できるような仕事が少しできたのかな」と思う。ヒットしたヒットしないは関係なしにね。

音楽なんて目に見えないんだから、心のどこに沈殿してるか分からない。でもそういうものが、人間が成長していくうえで、大事な心の栄養になっていくんじゃないかと僕は思います。

―― 2歳になる次男にたまたま「およげたいやきくん」を聴かせたら、すごくハマって。で、保育園に行って「♪まいにち まいにち」と歌ったら、先生が、「それ、『たいやきくん』でしょ?」って、保育士さんがクラスのみんなにCDを聞かせたそうで。そしたら、クラス全体が「たいやきくん」にハマったと。

小島:それがあの曲の持ってる、人の心に入り込む何かなんでしょうね。僕はたしかにディレクションはしましたよ。でも、あの曲がどうしてそこまで人を惹きつけるのかと聞かれても、答えられない。わかんない。ただ言えるのは、子どもの歌のテーマは、森羅万象、あらゆるところにあるってこと。その中からダイヤモンドの原石を探すのが、ディレクターの仕事なんじゃないかと思うんです。


西澤 千央(にしざわ ちひろ)
フリーランスライター。二児(男児)の母であるが、実家が近いのをいいことに母親仕事は手抜き気味。「散歩の達人」(交通新聞社) 「QuickJapan」(太田出版)「サイゾーウーマン」などで執筆中。

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  • これは、いい記事。いまでもメロディーや歌詞覚えて何気なく口ずさむことある。
    • イイネ!16
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