【賛否両論を呼ぶ『No Man’s Sky』レビュー 自動生成が織りなす虚無の中心とは?の画像・動画をすべて見る】
日本でのレビューをあまり見たことがないので、普段はイラストレーターをしていて、最近インディーズゲーム開発もはじめた筆者、たかくらかずきが、感想や近年のゲーム事情なども含め、『No Man’s Sky』というゲームについて書き連ねていこうと思う。
文・たかくらかずき 編集・コダック川口
未開の空を探索する『No Man’s Sky』
No Man’s Sky - Launch Trailer | PS4
海外のレビューを読んでいると、このゲームについて「思っていたような激しい戦闘や明確なストーリーがなく、MMO(大規模多人数同時参加型オンライン)ゲームだと思っていたのに人と出会うこともない…」と、ガッカリしている感想が目立った。
そりゃそうでしょう、タイトル見ればそんなのわかるじゃん。だって『No Man’s』ですよ。「人がいない」ということです。おそらくこのタイトルは「No Man’s Land」という言葉から来ているのではないかと予想される。「No Man’s Land」とは、中間地帯、主のいない土地、不毛の地、2つの思想の不明確な領域、という意味だそう。
これが地球規模での出来事ならば、『No Man’s Sky』は宇宙規模での不毛の地や、様々な思想が交わる点、主のいない未開の空のことを指す造語だろう。
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例えば『Minecraft』や、PS初期の『LSD』『アクアノートの休日』なんかで冒険を楽しんだ人は、どっぷりハマれる探検ゲームだし、図鑑収集的な要素もあるので『ポケットモンスター』(ポケモン)好きにもたまらないのではないだろうか。
とにかく美しい「ザ・SF」!
このゲームは、理論上1844京6744兆737億955万1616個にもおよぶ惑星のどこかの星にプレイヤーが不時着するところから始まる。
そして、未開の惑星を探索しながら生物や鉱物を発見し、学名を分類し、サーバーにアップロードしたり、宇宙船をバージョンアップしたり、鉱物から様々な元素を採集してアイテムをつくったり、アイテムの売り買いをしたり、異星の言語を覚えたりしながら幾多の星を旅する。
訪れる惑星には昼と夜があり、どちらも美しい別々の表情を持っている。開発のHello Gamesが制作した星々/生物や、武器/宇宙線などのマシンは、自動生成にも関わらず、すべての景色が美しい画になるよう厳密なルールデザインがなされている。
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めったに死なない、マジで他者に出会わない
『No Man’s Sky』は、明らかに昨今のFPS(一人称視点シューティング)やMMOへのカウンターゲームだ。まず、プレイヤーキャラが滅多に死なない。
私にとって海外産のFPSはだいたい難易度が高すぎる。少しでもぼけっとしていると、なんだかよくわからない理由で銃を撃ってくる敵によって、なんだかよくわからないうちに死んでしまう。だから私は激しい戦闘が繰り広げられるFPSをあまり楽しめた試しがない。
『No Man’s Sky』をプレイしていると、そういったハードなFPSに対する「そんな簡単に人とか襲うか〜? てか、人生そんな簡単に死ぬ〜?」という痛烈なツッコミが聞こえてくるように思える。
このゲームでは、ほとんどの惑星はセンチネルと呼ばれる無人の管理ロボットによって警備され、土地の鉱物を破壊したり採集していると、まるでセコムのような感じで警報を鳴らしながら襲ってくるが、基本的には悪いことをしなければ、ぼけっとしていても誰にも殺されそうにはならない。(筆者はまだ出会っていないが、旅を進めていくと、理由なく襲ってくる「海賊」のような存在も登場するらしい。)
なので私はだいたい、ほとんど銃を構えることなく、惑星の生態系を記録しながら、ぼーっと景色を眺めている。
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おそらく日本人がインドやエジプトに一人旅しに行くくらいの危険度に近いのではないだろうか。
そして、やはり誰にも出会わない。昨今のMMOのごとく、このゲームもインターネット対応ということになっている。しかし、他のプレイヤーに出会うことは(今のところ)皆無である。
他のプレイヤーの痕跡は「アーカイブ」にしか存在しない。プレイヤーは自然を探検し、発見した惑星や土地、動植物に学名を「名付け」てサーバーにアップロードする。それが、『No Man’s Sky』の世界の公式辞典となっていく。
この広大な宇宙の辞典は、インターネット上ですべてアーカイブされている。インターネットが「情報端末のアーカイブ」としてしか使用されないこの世界は、まさにまだ現実世界のインターネットがコミュニケーション手段になる手前の、ただひたすらに情報のアーカイブを収集していた時代の記憶とともに、情報づてに他者に出会う感覚を呼び起こさせる。
すでに名前が付いている星や動物、遠くを過ぎ去る飛行船に、広い宇宙でかすかに「他者の足跡」を垣間見る瞬間があるのだ。そして、その都度感じる「孤独」こそが、このゲームの旅の感覚であり、醍醐味とも言えるだろう。
自分探しの旅で得られそうな効果はもう『No Man’s Sky』で十分じゃんと思えてしまうのだ。
自動生成によるデジタルの生態系を探索/収集する
このゲームは、一見、宇宙空間を旅するゲームのように見える。私もそう思ってプレイをはじめた。しかし、プレイするうち、私はこのゲームが別の世界観であるようにも思えてきた。
この世界の創造主であるHello Gamesのデザイナーやプログラマーによる様々な自然物のパーツデザインとルール定義によって自動に組み合わされる生物は、現在ユーザーに発見されているだけで1000万種を超え、ひとつとして同じものは存在しない。1800京を超える惑星は、未だに誰も到達していない星だらけだ。
『No Man’s Sky』は宇宙探索ゲームではなく、現実とは違うデジタルのルールによって自動生成された「デジタルの宇宙/生態系」を探索するゲームなのではないだろうか。
生物のいる惑星はごく稀で、惑星で時たま遭遇できる哺乳類のような生物や、鳥のような生物たちは、すこし「不自然な」姿形をしている。それは生き物の形をとっていながら、どこかロボットのような、CGにおけるいわゆる「不気味の谷現象」※や、AIの学習によって画像を自動生成するGoogleの人工知能「DeepDream」のようなテイストの不気味さだ。
※不気味の谷現象…人間に近いロボットや人工生命などの疑似生物に対して人の感情的反応が否定的になる現象。
ヤカリツキビウム星は動物めちゃいた pic.twitter.com/PFZsHp0KTu
— たかくらかずき (@takakurakazuki) 2016年9月19日
その不気味さの原因は容易に理解できる。AIが独自のアルゴリズムによってつくり出した、人の手が入っていない不気味さなのである。
動植物の各パーツやマテリアルなどは、デザイナーたちがひとつひとつ描いたものなので美しさが保たれているが、最終的な組み合わせは自動生成によるデザインとなる。これは「デジタルの生態系」と言えるのではないだろうか。
現実世界ではゲームの攻略方法から、料理のつくり方、土地の情報まで、ほとんどの物事がWebにアーカイブされ、知らない情報に出会うこと自体が難しくなっている。
プレイヤーが本当に知らない土地を冒険し、本当に知らない生物に出会い、検索しても出てこない生き物に出会うには、「まだ分類されていない自然」をつくり出すしかない。プレイヤーたちは手分けしてこの未開の自然を分類しアーカイブしていく。つまり、ユーザーみんなで「ポケモン図鑑」や「Wikipedia」のようなアーカイブをつくっていくゲームとも言えるのだ。
この自動生成される無限の自然に、印象的な物語や、息を飲むアクション、先の展開が気になる謎解きを組み込まなかったことこそに意義があり、デジタルの自然が自生する世界を冒険する理由になり得るのではないだろうか。
『No Man’s Sky』はプレイヤーを「情報が乱数化して繁殖する自然=デジタルの自然」と対峙させることで、未知の発見と分類の楽しみを与えてくれるゲームなのだ。
もっと遠くを目指して…
『No Man’s Sky』の最終目的は、公式情報によると「宇宙の中心」を目指すことのようだ。
このゲームには様々な距離に見合った移動方法があり、それによって世界観のレンジが大きく変化する。最初に不時着した星では、宇宙船を修理する資源を集めるために歩いたり、走ったりする。宇宙船が使えるようになると、宇宙船を飛行機のように乗り回し、低空飛行で星内の遠い地点まで行くことができる。そうすると徒歩で30分かかる場所が10秒で行けたりするのだ。
そしてさらに、その宇宙船で大気圏外に出ると、広大な宇宙が広がっている。通常速度では別の惑星まで行くのにはかなりの時間を要するが、2段階のブーストを使用すると、すぐに到着できる。
そして、別の惑星系に行くには、ハイパードライブを手に入れなければならない。その先には、ワープリアクターという別銀河へ行く道具や、ブラックホールに入るなんていうショートカット方法も存在するようだ。
ひとつひとつ星を旅していくと、クリアするまで5850億年かかると言われているこのゲームだが、いかに速度を上げて銀河の中心を目指すかが「目的達成」の鍵となるようだ。
もうすでに「宇宙の中心」にたどり着いたプレイヤーはいるだろうか? もしかしたらこのゲームは、インターネットでつながった見えない無数の対戦相手たちと、とんでもなく遠くにあるゴールを目指す、途方もない距離のロードレースである可能性も大いにある。
そして、宇宙の中心には名前をつけられるのか? だとしたら、いったい誰が最初にたどり着いて、どんな名前をつけるのだろうか?
※画像はすべて『No Man’s Sky』ゲーム画面のスクリーンショット