伝説の電気自動車“Eliica”生みの親に聞く、電気自動車の真実と未来

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2016年09月24日 10:10  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

電気自動車が、世界の主役となる日

自動車の常識を覆す8輪のタイヤと、ガルウィングを備えた近未来的デザインを持つ同車は、まさに「未来の自動車」のイメージを体現したものだった。

試乗した小泉純一郎首相(当時)が絶賛したというニュースとも相まって、クルマ好きだけでなく、多くの人々に鮮烈なインパクトを与えたことを覚えているひとも多いだろう。

センセーショナルな登場から12年。日本の電気自動車開発の草分け的存在である清水浩氏は、現在も究極の電気自動車を追い求め続けている。

その開発秘話や、電気自動車の現在と未来のカタチ、全世界での普及に対する想い。

最新の電気自動車の試乗レポートも交え、全4回にてお伝えする。

第1回は、これまで開発してきた電気自動車の歴史、そしてその真実と未来についてお話を伺った。

「タイヤの中にモーターを入れる」という非常識な合理性

――発表当時、Eliicaを見て、未来社会に思いを馳せたひとも多かったと思います。

私が電気自動車の開発を始めたのは1979年で、現在に至るまで約40年間で、15台の試作車をつくってきました。Eliicaは私が8番目につくったクルマで、最高時速やデザインがたまたま目に付きやすかったので有名になったのかなと、私自身は思っています。

――これまで電気自動車を開発してきた経緯について、教えていただけますか。

「電気自動車は、大量に普及していくだけでなく、自動車社会を変えるというインパクトがある技術だ」と考えたのが、そもそも電気自動車の開発を始めたきっかけでした。そして、その実現のためには、「性能や機能など、あらゆることが、ガソリンなどでエンジンを動かす内燃機関自動車以上でなければならない」と考えました。

――当時から、そのように考えているひとは多かったのですか?

当時は、皆無に近かったと思います。でも私は、電気自動車にはそのポテンシャルがあると思って、現在まで開発を続けてきました。

内燃機関自動車よりも優位性を持つ電気自動車をつくることが大前提ですから、できるだけ内燃機関自動車の真似はしたくない。そう考えて、モーターが車輪の内部に入っている「インホイールモーター」が合理的だという結論に至りました。

床をフラットに、タイヤを小さくしたい!

――そこから、電気自動車の試作を始められたのですね。

そうです。そして、数台の試作車をつくった後、電池の置き場所に関する新たな概念を取り入れた試作車をつくることにしました。「床下に強固な中空空間を持つフレーム構造をつくって、その構造自体がクルマを支えると同時に、電池の収納容器にしてしまう」というコンセプトを95年頃から考え始めて、97年に前後2人乗りのタンデム2シーター車“Luciole(ルシオール)”を完成させました。

この6代目の試作車の開発までが、国立環境研究所(旧国立公害研究所)での仕事です。同年に同研究所を退所して、慶応義塾大学環境情報学部の教授になりました。

――Lucioleは4輪車で、タイヤの大きさも通常の軽自動車に近いですね

小さいクルマでも、車輪の中にモーターを入れて、床下に電池を設置すると、床上に非常に広いスペ−スをつくれると考えました。しかし、実際にLucioleをつくって感じたのは、「タイヤが邪魔だ」ということでした。床上が広く使えるはずだったのに、通常サイズのタイヤでは、考えていたほどの効果が得られなかったんです。

そこで、「タイヤを小さくしたい」と考えました。しかし、単純にサイズを小さくするだけでは、乗り心地が悪くなるし、タイヤにかかる荷重が大きくなってしまいます。だったら、電車の真似をして8輪車にしようと考えてつくった試作車が、慶応義塾大学で最初につくった“KAZ”というクルマです。

試行錯誤の末にたどり着いた、伝説の“高速8輪車”

――KAZは、2001年3月のジュネーブショーで発表されて、最高時速311km/hを記録したことでも話題を集めました。さらに、その次作にあたる8輪車の進化形のEliicaは、当時のフェラーリのF1カーに匹敵する最高時速370km/hをたたき出していますね。そこまで「速さ」にこだわった理由は、何ですか?

一般ユーザーの方々が乗り物の価値を判断する時の一番わかりやすい指標として、最高速度が挙げられます。ですから、「電気自動車は内燃機関自動車以上の性能を持つ必要がある」という開発ポリシーの一つの象徴として、Eliicaでは世界最高速を目指しました。

――当時、元F1ドライバーの片山右京氏がEliicaをドライブして、「世界最速」と称されるポルシェ911ターボとの対決で勝ちましたよね。片山氏は、その加速性能を絶賛するコメントを出していました。

私は、運転するひとが感じるクルマの現実的な価値の一つとして、加速性能も、最高速度と同じくらい重要だと考えています。

当時のテストでは、ポルシェ911ターボが時速100マイル(160km/h)に達するまでに9.02秒かかったのに対して、Eliicaは7.04秒でした。そういう意味では、クルマの性能として大切な「最高速度」と「加速度」で内燃機関自動車を超えたということは、私が考える電気自動車の性能面における優位性という条件をクリアできたともいえます。

8輪車は、単なる通過点

――その時点で、清水さんの考える電気自動車の理想形がほぼ完成したということですか?

いえ、そうではありません。もっとも重要なのは「いかに合理的な電気自動車をつくるか」ということで、その開発プロセスのなかで、「電気自動車が、二つの『乗り物としての性能価値を実現できる可能性』を証明した」に過ぎないと考えていました。

――8輪車というのも、最終形ではなかったのですね。

私たちは各世代の試作車毎にプロジェクトテーマを掲げて開発を行っていまして、KAZとEliicaは8輪の電気自動車としての開発目的を追求したものです。さまざまな研究成果が得られましたが、特に8輪駆動というものはバスに適したコンセプトだということもわかりました。

――電気バスも試作されたのですか?

09年から10年にかけて、8輪のバスを試作して、低床かつフルフラットの車を実現しました。すでに昇降口の段差を小さくしたノンステップの低床バスは運行されていますが、実際には乗りにくさを完全に解消できておらず、タイヤの上部や車内後部には段差が存在しています。低床と客席スペースの確保、さらに安定走行を実現するには、小さな8輪のタイヤを採用した低床&フルフラットのバスが最適です。

一方で、乗用車に関しては、現在考えているコンセプトでは「必ずしも8輪でなくてもよい」と考えています。最近つくった3台の試作車はすべて、4輪駆動の4輪車です。

自動車の最終形は「自動運転」

――これまでにさまざまなテーマ・コンセプトで電気自動車を開発して、13年には「電気自動車とエネルギーシステムの普及」を目的とした株式会社e-Gle(イーグル)も設立されていますが、清水さんにとって“究極の電気自動車”とはどのようなものですか?

いろいろ試行錯誤したうえで、自動車の最終形は「自動運転付きの電気自動車」になると考えています。

自動運転型電気自動車が普及すると、乗り合いバスなど「大型車」という概念は必然的になくなって、クルマは極めてパーソナルな乗り物になってくるでしょう。1人乗りや2人乗り、多くても4人乗りのクルマが標準になってくるはずです。すでに慶應義塾大学時代に自動運転の1人乗り電気自動車の開発も行っていて、世界中で“究極の電気自動車”を普及することを目指しています。(了)

【取材協力】

清水浩●株式会社e-Gle代表取締役社長。慶応義塾大学名誉教授。工学博士。1947年、宮城県仙台市生まれ。75年、東北大学工学部博士課程修了。76年、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入所。79年電気自動車の研究開発に着手。82年、アメリカ・コロラド州立大学留学。97〜13年、慶応義塾大学環境情報学部教授。2013年に退職し、電気自動車とエネルギーを研究開発する株式会社e-Gleを設立。04年に発表した8輪電気自動車“Eliica”が大きな話題を集めた。

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