OPEC減産にアメリカが喜ぶ理由

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2016年10月11日 10:41  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<原油安で大打撃を受けていた米石油業界は大歓迎。米大統領選の行方に影響を与える可能性もある>(写真:サウジアラビアも減産に合意した)


 70年代以来、世界の石油価格を動かしてきたOPEC。近年は足並みがそろわず、カルテルとして機能不全気味だったが、9月にアルジェリアで開かれた非公式会合では8年ぶりの減産で事実上の合意に達した。ここ2年ほどの超原油安に終止符が打たれることになるかもしれない。


 まだ詳細な条件を詰めなければならない(これが難しい)が、うまくいけば原油価格は上昇軌道に乗る可能性がある。そうなれば財政が逼迫しているペルシャ湾岸諸国だけでなく、ベネズエラやロシアなど経済全体が石油に大きく依存する国にとってはひと安心となるだろう。


 だが、今回の決定は意外な場所でも大歓迎されている。アメリカだ。


 第4次中東戦争をきっかけに、OPECがイスラエル支持国への石油禁輸と原油価格の大幅な引き上げを決め、世界一の石油消費国アメリカが大打撃を被ったのは73〜74年のこと。このオイルショック以降、アメリカはサウジアラビアなど産油国の機嫌を損ねないよう懸命に努力してきた。


【参考記事】「石油需要ピーク」が来たら?


 だが、この10年ほどのアメリカのエネルギーバブルとその崩壊を受け、今やアメリカも、サウジアラビアの王族と同様に、原油高から恩恵を受ける立場になった。


「われわれは(バブルの)崩壊期にある。その動向はエネルギー生産に大きく依存しているから(原油安は)大打撃だった。それだけに(価格上昇は)まさに医者が出す処方箋のようだ」と、米エネルギーコンサルティング会社ラピダン・グループのロバート・マクナリー社長は胸をなで下ろす。


 昨年末、OPECが市場シェアの維持にこだわり、これほどの原油安でも減産はしないと決めたとき、アメリカの大手石油会社は「自殺行為だ」と笑った。だが長期にわたる原油安は、アメリカの多くの石油会社も経営破綻に陥れ、多くの油田作業員から仕事を奪ってきた。


トランプ顧問が積極工作


 昔は違った。歴史的にアメリカを苦しめてきたのは原油高だ。70年代のオイルショックのときは全米のガソリンスタンドに長蛇の列ができ、ガソリン価格は急上昇し、ジミー・カーター大統領は毛糸のカーディガンを着込んで、国民に節電を訴えた。08年に原油価格が史上最高値を更新したときは、ジョージ・W・ブッシュ大統領がサウジアラビアに増産を懇願した。


 今は正反対だ。シェール革命によってアメリカは世界トップクラスの産油国となり、原油を輸出するまでになり、その価格上昇によって恩恵を受ける人が増えた。


「今やアメリカの石油会社の多くが、サウジアラビアをはじめとするOPECの価格操作や生産調整を支持するようになった。これは、実に大きな変化だ」と、コロンビア大学グローバルエネルギー政策研究所のジェイソン・ボードフ所長は語る。「(こうしたカルテルは)まさに、アメリカがかつて非難してきたことだ」


 先週のOPECの決定は、実現すれば米大統領選の行方にも大きな影響を与える可能性がある。アメリカの産油地帯はテキサス州、オクラホマ州、ノースダコタ州など、伝統的に共和党が強い州に集中している。


 このため共和党の大統領候補トランプの関係者はここ数週間、OPECに大幅な減産と原油価格の引き上げを訴えてきた。OPECが減産すれば、アメリカの油田は増産に踏み切ることができ、テキサス西部やバッケン油田(ノースダコタ州)などに雇用が戻ってくる。そうすれば共和党支持層の票を固められるというわけだ。


 実際、大手シェール企業コンチネンタル・リソーシズのハロルド・ハムCEOは、トランプのエネルギー顧問として、OPECにこうした働き掛けをしてきた1人だった。


カギを握るイランの態度


 だが問題は、原油価格の上昇が米経済全体に与える影響だ。原油高は産油地域の経済にはプラスに働くかもしれないが、米経済全体にとってはエネルギー価格が安いほうがいいとボードフは指摘する。


 それに今回発表された程度の減産レベルでは、これまでの供給過剰で世界中にあふれる在庫は解消できそうにないと、マクナリーは指摘する。


【参考記事】大胆で危険なサウジの経済改革


 OPECは今回、加盟14カ国の原油生産量を8月よりも少ない日量3250万〜3300万バレルに抑えることで合意した。これは世界でOPEC産原油が毎日約3250万バレル消費されるという需要見通しに基づく。これでは既に世界中のタンクやタンカーに保管されている原油在庫は減らない。在庫がだぶついていれば、早期の本格的な価格上昇は望めない。


 もっと大きな問題は、減産が本当に実現するかどうかだ。


 OPEC加盟国は11月にウィーンで開かれる総会までに、どの国がどれだけ減産するかといった詳細を決めなくてはならない。その上、OPECで最大のプレーヤーであるサウジアラビアとイランは相変わらず仲が悪く、減産に伴う「痛み分け」に合意するのは容易ではない。


 とりわけイランは、今年経済制裁から解放されたばかり。減産どころか増産と輸出拡大を急ぎたがっている。それだけにOPECのライバル諸国、とりわけサウジアラビアに配慮して、減産に同意するとは考えにくい。


 だが、こうした不透明な状況にもかかわらず、ベンチマークとなる原油価格は先週初めより上昇して、1バレル=50ドル付近で推移している。


「投資家の心理を巧みに操作したにすぎない」と、マクナリーは先週のOPECの発表を分析する。「石油の供給管理が復活したわけではない」


From Foreign Policy Magazine



[2016.10.11号掲載]


キース・ジョンソン


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