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『地味にスゴイ!校閲ガール』3話レビュー 「好きな作家の校閲は禁止」なんて言ってられない

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2016年10月20日 17:11  KAI-YOU.net

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写真 『地味にスゴイ!校閲ガール』3話レビュー 「好きな作家の校閲は禁止」なんて言ってられない
『地味にスゴイ!校閲ガール』3話レビュー 「好きな作家の校閲は禁止」なんて言ってられない
2016年10月5日、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。

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話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作。19日に放送された第3話では、ベストセラー作家を巡る校閲部ならではの悲喜こもごもが描かれた。

本記事では実際に新米校閲者として働く筆者が、実際の業務内容の紹介や現場の実情、業界に対する愚痴を交えつつ、前回に引き続きドラマの見どころをレビューする。


文:結城紫雄

好きな作者の校閲はNG?




売れっ子作家・四条真理恵(賀来千香子)の校閲を担当することになった悦子。四条の大ファンである藤岩りおん(江口のりこ)のアシストもあり、初校を危なげなくやり遂げる。時を同じくして、憧れのイケメン・折原幸人(菅田将暉)の正体が作家・是永是之であると知った悦子だったが──。

以上が第3話のあらすじ。四条の校閲は本来、“マリエンヌ(四条ファン)”である米岡(和田正人)の担当でしたが、下記の理由により悦子にお鉢が回ってきます。

好きな作家さんや好きな分野の作品を担当すると、作品に入り込みすぎたり、感情的になってミスをしてしまいがちなので、ウチでは担当しない決まりなんです。
『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』3話 茸原の台詞より

恥ずかしながら、初めて聞きました。

というのも、筆者の勤務する校閲事務所では(ありがたいことに)常に複数のお仕事をいただいています。必然的に、基本どのジャンルも有無を言わせず担当者が決められるのです(勤務歴の浅い筆者は特に)。

ですので好き嫌い・得意不得意関係なしに業務をこなさないといけないのですが、そのおかげでライトノベルから新書、官能小説まで幅広く担当することができています。

有り体に言うと、景凡社校閲部のように人員が潤沢な(=担当書籍の割り振りに融通がきく)校閲事務所などそうそうないんですね(※ドラマでは大手出版社の校閲部ということで、フィクションとしてのリアリティは保たれていると思います)。



そもそも従来の「校閲(校正)」とは、「作者の手書き原稿が、正しく活字になっているかチェックする(突き合わせ)」ことがメイン業務だったと聞きます。今のようにパソコンやワープロソフトが普及していない時代の話ですが、そのような「正確性」が何より求められる作業において「作品に対する思い入れ」は邪念以外の何物でもないでしょう。

しかし多くの作家がパソコンを使用する現代では、突き合わせ業務はほとんどありません。その代わり、悦子がしばしば劇中で行なっている「事実確認」が校閲者により求められるようなってきたのです。



今回、悦子が再三「好きだからできることってあると思うけどなあ」と発言していたのが印象的でした。歯に衣着せぬ物言いが売りでスーパーポジティブな悦子は、「好きな作品を担当させない」という方針にいまいち納得できない様子。

しかしこの彼女の台詞も、マリエンヌである藤岩が、四条本人も忘れていた過去作との矛盾を指摘したように、あながち的外れでもないのです。悦子はただただファッション誌編集部に異動したくて言っているだけでしたが。

例を出して説明しましょう。野球未経験の校閲者であっても、「2015年のパ・リーグ本塁打王」なんかは調べればすぐにわかります。しかし「パンチ力のある打者」といった専門用語かつ抽象的な表現の正誤を見極めるには、野球ファンでないと難しい。



プロ野球における「パンチ力」とは、ルールブックにはもちろん載っていませんが「普段は打たないけれど、重要なとこでやたら長打を放つ謎の力」を指す、と筆者は認識しています。よって「(本塁打数の日本記録保持者である)バレンティンはパンチ力がある」と書かれていたら、エンピツで本当に著者が意図した文章か(表現もしくは人物を間違えていないか)指摘を出したいところ。

Web版『スポーツ報知』を見てみても、今季わずか2本塁打の岡大海選手(日本ハム)が「パンチ力がある」と紹介されることはあっても、25本塁打を放った同僚・中田翔選手のことを「パンチ力がある」と評した記事はひとつもないのです。しかしこのニュアンスを「まったく野球が好きでない人」が見分けるのは非常に困難だと思われます。

“本当に地味”な正字と俗字




また第3話では「正字/俗字」が唐突に登場しました。半ば校閲や編集、印刷に携わる人の専門用語となっている言葉ですので「なんのこっちゃ」と思われた視聴者も多いと思われます。「正字」とは読んで字のごとく「正しい字」のこと。「俗字」とはその逆で、「正しくはないけれど世間一般で用いられている字」を指します。

例を挙げると、「つかむ」という漢字の正字は「摑む」で「掴む」が俗字。「謎」「邁」の正字は「しんにょうの点がふたつ」。

……なのですが、何をもって「正しい字」と定義されているか、というのは非常に曖昧なところです。事実「俗字」で印刷された書籍もたくさんありますし、筆者のパソコン(macOS)でも多くの正字が「機種依存文字」で事実上使用できません。

そもそも「謎」に点々ふたつ必要とか学校で習ってないよと思いつつ、正字に統一するという方針の書籍や雑誌の場合、校閲者(というか筆者)は日々「俗字」を「正字」に改めているのです。これはマジに地味な作業ですがしかし、「掴」なんてまだ序の口なのです。



「揃」の正字は、「手偏に前」……のように見えますが、実は違います。画像の赤丸のように「『月』の横棒2本がちょこっと右下方向に斜めになっている」のが正解。

横棒が斜めになっていない「揃」は「俗字」ですので、正字指定の仕事では当然「斜め」に直します。筆者も校閲歴3年目の現在でこそ慣れましたが、入社当初この説明を聞いたときには正直「こんなの見分けつくわけない。明日辞めよう」と思いました。



正字/俗字をすんなり受け入れているあたり「ずいぶん校閲部に染まってきたなあ」という印象の悦子。が、今回3話目にして、是永是之=折原幸人と悦子の間に衝撃の展開が。

ラストシーン、なぜ悦子は好意を寄せている折原の作品を、本人を前に「つまらなかった」と一蹴したのか? 4話目にしてようやく波乱が起こりそうな『地味にスゴイ!』、次回はふたりの恋模様にも注目です。


本記事では『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』オンエア開始以降、全話にわたってレビュー記事をお届け予定です。本作は毎週水曜22時より、日本テレビ系列にて放送中。

今週の校正ギア!


『記者ハンドブック』(共同通信社 / 税込2,052円)

「三冠王」と書くべきか「3冠王」が好ましいのか? 「プラットフォーム」と「プラットホーム」の違いって? などなど、辞書には載っていない「言葉のルール」についてまとめられた、記者やライター、そして校閲者必携の書。本来ならお弁当箱より先に紹介すべき一冊です。「これが日本語の正解!」と何かで厳格に定められているわけではありませんが、多くの出版社や新聞社が本書にのっとって校閲を行なっています。

写真の13版より、中島雄太氏(中島雄太デザイン室)が装丁を担当。コンゴのエレガント集団を世に知らしめた『SAPEURS(サプール)』(青幻舎)のデザインを手掛けた同氏の手により、高貴かつ重厚なビジュアルに一新されています。写真右はカバーを外した新品、左は約7ヵ月使用したもの。

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