【現職校閲者による『地味にスゴイ!校閲ガール』5話レビュー 地味? 無駄? 校閲の本質とはの画像・動画をすべて見る】
話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作。2日に放送された第5話では、「校閲」の本質をテーマに据えたストーリーが展開された。
本記事では実際に新米校閲者として働く筆者が、実際の業務内容の紹介や現場の実情、業界に対する愚痴を交えつつ、前回に引き続きドラマの見どころをレビューする。
文:結城紫雄
不本意ルーキー型主人公・河野悦子
憧れのスタイリスト・フロイライン登紀子(川原亜矢子)のエッセーを担当することになった悦子(石原さとみ)。喜びを爆発させる悦子だったが、登紀子の傍若無人とも思える振る舞いを目にしてしまい失望の色を隠せない。一方、ファッション誌編集者・森尾(本田翼)は仕事に恋にと迷走中で──。
以上が第5話のあらすじ。第3話において「好きな作家の校閲は禁止」という景凡社校閲部の独自ルールが登場しましたが、悦子のスーパーポジティブな行動は会社の慣習すら変えてしまっていたのです。
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あたしは先輩みたいに、好きでこの仕事やってるわけじゃないから。みんながみんな、先輩みたいに夢とか、やりたいこととかがあるわけじゃないんだよね。
『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』5話 森尾の台詞より
従来のお仕事ドラマ主人公といえば、その道のプロを除けば「憧れの職場で奮闘するルーキー」か、「別業界で培ったスキルを駆使するスペシャリスト転職者」のどちらかがほとんどです。しかし悦子はどちらでもありません。本意ではない職種に就いてしまった上、別業種の特別な技能もないという珍しいパターン。
その上、仕事を頑張る動機が「異動」という主人公は、歴代お仕事ドラマでもかなり異色だといえます。「好きなことを頑張る」ことが無条件で賞賛されていた従来の風潮と異なり、「望まなかった環境でどう生き抜くか」というテーマは、非常に現代的な問いかけだと感じました。
それでも悦子が主人公たりえるのは、その愚直なまでの実直さ。今回も悦子は、登紀子の「イタリアをテーマにしたエッセー」の校閲で、東京・浅草でイタリア人に聞き込み調査をするという行動に出るのです。すべてはファッション誌編集部への異動のため!
さすがにここまではしない、けど
物語後半、校閲部で“地味な”事実確認作業に勤しむ校閲部員を目にした登紀子。一見無駄に思える作業を黙々とこなす彼らを目にした登紀子は、それまで「無駄」と切り捨てていた行為を省みます。そして、(一度は切り捨てた)森尾が用意した小道具を、撮影用プロップに抜擢。彼女は森尾の仕事ぶりに、かつての自分の姿を重ねていたのでした。
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華やかに思えるファッションや雑誌編集の職場でも、裏では地味で無駄な作業の積み重ね。それを、悦子の行動によって再確認する登紀子(スタイリスト)と森尾(編集者)。悦子が目指すファッション誌編集と校閲のコントラストを強調しつつも、根底には共通点があることを描いてみせたのでした。
ちなみに、ここまで大がかり(小説に登場する家屋を模型で再現するなど)な「事実確認」を行なうことは、実際の校閲ではほぼありえません。
しかし放送前レビューでも記した通り、校閲者は小説という「現場」を調査し、誤りや不自然な点がないか精査する「鑑識官」みたいなもの。だとすれば、「現場検証」さながらの事実確認も、ドラマの演出としては的確かつ正しい脚色といえるでしょう。
物語終盤では、同僚・森尾と作家・折原幸人(菅田将暉)の同棲が、悦子にバレてしまう急展開。恋模様も風雲急を告げる本作、次回以降の三人の関係にも注目です。
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今週の校正ギア!
水筒「真空断熱ベビーストロー マグ」(サーモス / 税抜3,500円)
校閲者にとって水はゲラを濡らす天敵。しかし一方で座りっぱなしの作業のため、血栓予防のための水分補給も欠かせません。
そこで登場するのがタンブラー。おしゃれ大好き河野悦子のマイボトルはハリスツイード生地のカバーつきですが、筆者はこのストローつきマグを使用。完全に横倒しにしてもほとんどこぼれず、また仕事中にちゅーちゅー吸っているとなんだか優しい気持ちになれる優れものです。