同僚に殴られ「訴えない」と念書まで書かされた、悪質すぎる! 【小町の法律相談】

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2016年11月11日 10:22  弁護士ドットコム

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「弟が昨晩、会社の飲み会で殴られたそうです。何をどうしていいやら」。そんな相談が、Yomiuri Onlineの「発言小町」に寄せられました。投稿したトピ主が困っているのは、「訴えないという念書」を弟が書かされていた点です。


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トピ主によれば、「弟は手を出していません」といいます。殴られた翌日、病院で診断書を書いてもらおうと考えています。弟は少し飲んでおり、「お酒の場でそういった事はあるかもしれませんが、訴えないという念書まで書かされるとは悪質すぎる!」と怒っています。


レスには「そんな念書には、法的効力は発生しません。無効です」として、警察に被害届を出すよう勧める声もありました。こんな場合、どのような対応をするべきなのでしょうか? 泉田 健司弁護士に話を聞きました。 


(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「訴えないという念書まで書かされていた」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/1009/780813.htm?g=15)


●「刑事事件としては法的には意味がない」


飲み会であろうと、殴るという行為は、暴行罪(刑法208条)に該当しますし、殴られた結果、怪我をしたというのであれば、傷害罪(刑法204条)に該当します。


また、「訴えないという念書」が、「警察に訴えない」という意味で書かれたのか、「民事裁判に訴えない」という意味で書かれたのか。それによって考え方は異なってきます。


まず、警察に訴えないという意味で書かれた場合ですが、結論から言って、この念書には意味がありません。


被害者の訴えは、犯罪捜査の要件(捜査をするために必要な事実)ではないからです。警察は、社会正義の実現のため、犯罪が起これば捜査を行います。つまり、被害者による「訴えないという念書」があっても、警察は捜査を開始することができるのです。


そこで、このような念書は刑事事件としては法的には意味がないと言えます。


ただ、実際の警察実務においては、被害者が真意に基づいて「訴えない」というならば、警察も通常は、立件をしないでしょう。ですから、念書を書かされた経緯を警察に丁寧に話し、「訴えない」と念書に書いたのは、真意ではないことを説明する必要はあるでしょう。


●「不起訴の合意は、裁判を受ける権利を放棄するもの」


もう1つ、「訴えないという念書」は損害賠償を求めて民事裁判を訴えないという意味だと考える余地もあるのでしょう。その場合、刑事事件とは違い、民事裁判をする権利を放棄する合意(不起訴合意)は法的に有効と解されています。


しかし、今回の事案では、「訴えない」という念書があるから、民事裁判ができないとするのは妥当な判断ではないと思います。


そこで、どう考えるか、です。私見ですが、前述したように、「訴えない」という意味は、警察に訴えないという意味と民事裁判を訴えないという意味の両方があり、一義的ではありません。そこで、このようなあいまいな表現では、民事裁判をしないという合意(不起訴合意)として特定されていないので認められないと考えられます。


不起訴の合意は、憲法上の権利である裁判を受ける権利(憲法32条)を放棄するものですから、その放棄は、当事者の真意が文言上明確になっている必要があると考えるからです。


その他の法律構成としては、具体的な事案に即して、錯誤(民法95条)、強迫(同法96条1項)、公序良俗違反(同法90条)などの規定の適用を認めたり、「訴えない」という文言について当事者の合理的意思解釈を行って念書の効力を排斥する余地があるでしょう。


以上のような法的な理屈はともかくとして、今回のような話の流れの中で「訴えないという念書」を書かされたことによって民事裁判ができなくなることはほとんど考えにくいと思います。


●「法律でこうなっているから」ではない結論の導き方


意外かもしれませんが、ときに法律家は、具体的妥当性から先に結論を出し、その後にその結論にもっともふさわしい法的構成を考えるという思考過程をたどるときがあります。「法律でこうなっているから結論はこうなる」という考え方だけではないのです。


今後の対応ですが、まず、きちんと病院に行き治療を受けることが先決でしょう。そうして加害者にきちんと事実を認めさせて治療費を払わせることです。


その上で、怪我の程度や被害者ご本人の気持ち、加害者の対応にもよりますが、警察に被害届を出す、弁護士に相談する、治療が終わったら慰謝料等を請求するという対応が考えられます。




【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続、労働、企業法務等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。

事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/


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