動き出したトランプ次期政権、「融和」か「独自色」か? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2016年11月15日 16:31  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプ次期政権の人事・政策策定は、保守主流派との融和とトランプ独自の人脈活用を織り交ぜ、かなりスピーディーに進行している。この段階で日本の安倍首相が会談するのは、悪いタイミングではない>(写真:勝利宣言でプリーバス共和党全国委員長と肩を組むトランプ)


 ドナルド・トランプ政権への移行に向けて、次期政権チームが曲がりなりにも走り出しました。中身はともかく、スピード感は確かにあるようです。例えば、先週9日未明の歴史的勝利からわずか30数時間のうちに、トランプ次期大統領が現職のオバマ大統領を訪問し、政権引き継ぎの打ち合わせを開始。さらには、政策と人事について日々発信を始めているからです。


 現時点での次期大統領の動きは大きく分けて「融和」、つまり選挙戦で叫び続けた極端なメッセージを打ち消し、常識的な内容にシフトするというものと、「独自色」、つまりコアな支持者の期待を裏切らないための強硬論を実行に移す動きの2つに分かれていると言っていいでしょう。


 まず、「融和」ですが、何と言っても当確直後に行った勝利演説で「分断の傷を癒やして和解へ」と述べ、翌日に会談した大統領に対して丁重な姿勢を見せたように、現時点ではこちらが基本的なトーンとなっています。そして、この「融和」というのは、かなり徹底しているように見えます。


【参考記事】トランプの外交政策は孤立主義か拡張主義か


 例えば、トランプ当選に触発されて、全国で調子に乗った支持者が「ヘイト落書き」などの事件を起こしているわけですが、トランプ自身が「私はこれを聞いて悲しくなった。これは止めて欲しい、そう申し上げる。カメラに向かっても申し上げる、止めて欲しい」と、CBSのインタビューでハッキリ言っています。「イスラム教徒の入国禁止」をウェブサイトから削除したことと併せて、当然ともいえますが、重要な「融和」の動きだと言えるでしょう。


 オバマケア「廃止」という強硬姿勢は修正するようですし、「同性婚への支持」もあらためて打ち出しています。また、不法移民摘発は犯罪歴のある人だけ、メキシコの壁はフェンスのみという発言も出ています。犯罪歴のある不法移民については、今のところ300万人を強制送還と言っているわけですが、物理的にそんなことは無理なのでさらにトーンダウンする可能性もあるでしょう。


 そんな中、週明けの14日(月)の午後、オバマ大統領が記者会見をして、「トランプ次期大統領との引き継ぎ打ち合わせの様子」について、自分の言葉で語りました。その中で、オバマは「トランプ氏はイデオローグではなく、現実主義者」と一定の評価をしていました。


 同時にオバマ大統領は、会談の中でトランプ氏が「自分に対して、NATOにはしっかり関与すると明言した」として、「私はその旨を欧州の各首脳に伝える」と言明しています。オバマ大統領としても、必死になって「融和」を既成事実にしようとしているのだと思います。


 一方で「独自色」としては、「妊娠中絶の合憲判断」を覆す方向に改めて賛成を表明するといった右派的なトーン、さらにロシアのプーチン大統領と早速電話会談(内容は不明)するなどの動きも見せています。


【参考記事】トランプ政権を生き残るアメリカ民主主義の安全装置


 また、気になる政権人事が動き始めています。ここでも「融和」か「独自色」か、という2つの要素が交錯していると言っていいでしょう。まず「融和」としては、保守系の優秀なブレーンをどう使いこなすかです。すでにワシントンでは多くの「共和党主流派系」人材が次期政権への売り込みを開始しているわけですが、そこからしっかり一流を見抜いて抜擢できるかどうかが鍵になると思います。


 その意味で、政権移行委員会のトップに据えていたクリス・クリスティ知事(ニュージャージー州)を更迭して、マイク・ペンス次期副大統領を任命したのは一種の「融和」と見ていいでしょうし、共和党全国委員長として選挙戦の際に、陣営と共和党の主流派の間を取り持ったラインス・プリーバス氏をホワイトハウスの首席補佐官にするというのも、その流れになると考えられます。


 一方で独自色ということでは、14日に明るみになったスティーブン・バノン氏をホワイトハウスの首席戦略担当にという人事は、メディアから一斉にバッシングを受けています。バノン氏は「ブライトバイト」という「オルタナ右翼」サイトの主宰者で、選挙戦後半の選対委員長を努めた功労者です。ですが、KKKといった「白人至上主義」の団体からも支持される筋金入りの「オルタナ右翼」だということで、ホワイトハウス入りには激しい抵抗感を持つ人が少なくありません。


 ここまで反対が大きいと、この人事は潰れて、バノン氏は他の論功行賞的なポストに横滑りするという可能性もあります。しかしそこはトランプ氏ですから、もしかしたらこの人事だけはゴリ押しするかもしれません。


 政権人事の「独自色」ということでは、家族の参画というのも打ち出しています。一見すると公私混同でおかしい話ですが、ビジネスも子供たちとの集団指導体制でやってきているので、仕方ない面もあるように思います。ですが、14日に報じられたように、国家の最高機密に関して、大統領と同じレベルの情報を子どもたちにも提供して欲しいという意向が次期大統領の周囲から出ているという問題は、賛否両論を引き起こしています。


 ファミリーの関連では、一家のビジネス、つまり「トランプ・オーガニゼーション」というホテル・リゾートの運営会社をどうするのかが問題になっています。経済政策に関する最高指揮権も持っている大統領が、ファミリーのビジネスを続けていては利益相反になるので、子供の何人かに完全に承継してしまうか、あるいは持ち株を完全に信託化するしかないと言われていますが、この点はまだ決まっていません。


 今週17日には、安倍首相が会談を行う予定ですが、とにかく早くこの時期にというのは悪いアイディアではないと思います。新政権準備の作業にスピード感が出ている中で、日本の外交として珍しく機動的な動きなっていると言えるでしょう。


 トランプ新政権が人事も政策もできあがっていないこの時期に、堂々と胸を張って会うのは決してマイナスではありません。ただし、胆力と、瞬発力で負けては、ナメられてしまいます。日本人独特の謙遜や卑下というのは、このリアリズムの塊のような人物には通用しないと考えたほうがいいでしょう。



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