寒天プロダクトで、「レクサス デザイン アワード2016」グランプリ受賞した日本人ユニット「AMAM」

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2016年11月17日 10:11  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

たとえば海水浴に行った際、海に浮かんでいたり、ビーチに打ち上げられているプラスチック製品を目にしたことはないだろうか。

でもそんなプラスチックのゴミが海に溶けて消えてしまったら? 日々大量に排出されるプラスチック製品を、自然に戻る寒天で作れないか? そしてそれをデザイン的にも美しいものにできないか?

そんな理想を追求しているのが、荒木 宏介氏、前谷 典輝氏、村岡 明氏の日本人3人のデザインユニット「AMAM(アマム)」。

彼らの手による寒天を工業的にパッケージングなどの素材としての利用できないかその可能性を提案した作品「AGAR PLASTICITY – A POTENTIAL USEFULNESS OF AGAR FOR PACKAGING AND MORE (以下 AGAR PLASTICITY)」は、ミラノで毎年行われるデザインウィーク「ミラノ・サローネ」期間中に自動車メーカー「レクサス」が支援する国際デザインコンペ「レクサス デザイン アワード2016」においてグランプリを受賞。今、世界が熱く注目するこの新素材の制作秘話や未来について荒木宏介氏にお話を伺った(全2回)。

——「AGAR PLASTICITY」とはそもそもどんなもので、そのアイデアは、どこから生まれたものなのですか?

「AGAR PLASTICITY」は寒天を材料にしていて、それを主に梱包資材としてデザインしたものです。使用後も土壌の保水力を向上させる効果が期待でき、海に流れた場合も海洋生物に害を及ぼさないと考えています。

これは、以前から村岡が棒寒天のその白さや繊細な構造の美しさに惹かれていて、彼からこれで何かできないかと相談をされたところに始まっています。

もともと、僕は普段から日々大量に排出されるプラスチックのゴミに対して何かできないかという思いを抱いていたので、その相談を受けた時、そんな考えと寒天の軽さや素材感からのインスピレーションが重なり合い、これで梱包材などを作ったらどうかというアイデアが生まれました。

——プラスチックのゴミ問題への関心が“自然に優しい素材”に繋がったようですが、その関心はどんなきっかけや理由があってのことですか?

個人的にいつも、いろいろな環境問題を引き起こしている原因の一つは自然への感謝の念の薄れなのではないかと思っています。だから自然に生かされている、自然あっての人間の暮らしであるという想いを大切にしたいですし、社会全体がそうあってほしいですね。“自然に優しい素材”を選ぶ理由もそういう想いがあってのことです。

人間の生産活動や生活のあり方が、自然と相対するものとしてではなく、その境界が感じられないくらいに自然の循環に無理なく馴染んでくるようになると素敵ですね。さまざまなことにおいて、「循環している」ということが美しいと感じられる美意識や価値観が育まれた未来がくることを願っています。

——そういう意識が、デザインにも繋がるということですね。

僕たちは日々自然からの恩恵を受けることで生きていられます。都会など緑の少ない環境で暮らしているとそんな単純なことを忘れてしまいそうにもなりますが、人間は自然界のトップでなくて、その一部に過ぎません。

そういう姿勢で謙虚に適切な生き方をしていくべきだと思います。他者への思いやりがあって、謙虚で、適度であるという態度や要素がこれからのデザインにはますます必要となってくると思います。

——「レクサス デザイン アワード2016」の募集の際には特に素材の縛りはなかったようですが、天然素材を選んだのはそういう考えに繋がるのでしょうか? 

同アワードの募集テーマが「Anticipation(予見)」だったので、そのテーマを受けて、どのような未来に暮らしたいかを考えた時に、まず現状起こっている社会的もしくは環境的問題を無視すべきではないと思いました。

アワードに応募するにあたって村岡と前谷が素材を選んだのですが、素材を選んだ時点では具体的にどう用いようかというのは決まっていませんでした。ただ、そういう問題に取り組むにあたって用いる素材というのは、やはり天然のものがいいのではないかという直感で、寒天という素材を使ってみようという発想になったそうです。それは面白そうだということで僕も賛同しました。

——寒天を素材として使う際に苦労したり、それをデザイン作品として完成させるまでに大変だったのはどういう点ですか?

天然素材なので、自分たちが望んでいる通りの形や固さまたは柔らかさにすることは簡単ではなく、その点で非常に苦労しました。どのような濃度で寒天を溶かすといいのかだとか、形体を保つための乾燥方法など、試行錯誤の連続でした。

今回のアワード用の作品に関しては、大学の研究機関などに素材のための開発協力を依頼しましたが、残念ながら断られてしまったので、最終的には自分たちだけの力でできる最大限の範囲で作り上げました。

 

——そのような苦難を乗り越えて作品を完成し、見事グランプリを取られました。受賞後はどんな変化がありましたか?

寒天一色の生活ですね(笑)。最近は少し落ち着きましたが。

国内外の雑誌やテレビやオンライン媒体など、沢山のメディアからの取材を受けました。海外での展示会やワークショップに招待されたりもしています。

またリミテッドエディションでの、パッケージやテーブルオーナメントを作ってほしいという依頼もいくつか受けました。

——では、受賞作とその後の依頼でデザインされたもの以外で、今後作ってみたいものはありますか?

実現可能かどうかはわからないのですが、理想としては今後、現在石油を原料とするプラスチック製品で、比較的短命な…たとえばボールペン、結束バンド、歯ブラシなどの使い捨ての道具類を、寒天を原料とする素材で置き換えられないだろうかという想いを描いています。

——その計画実現に向かっての現状はどんな感じなのでしょう?

先ほども少しお話したように、現状として、実験できているのは自分たちでできる範囲のことだけなのです。具体的には温度を段階調整できる冷凍庫を使って単純に凍らせることぐらいのことしかできていません。

寒天だけでなく、その他の物質を混ぜながらでも、もっと石油系プラスチックのような感じで形を作ることができる素材を作れないだろうかと想像をしていますが、自分たちだけでは知識的にも技術的にも、そして設備的にも資金的にも無理なので、そういった研究に興味を持ってくださる方がいらしたら是非お話ししたいですね。

寒天のプロジェクトを実用化に向けてどうすれば次のステップに持っていけるのかが目下の課題です。

村岡 明 (写真左)●デザイナー。資生堂勤務。2010年多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。

荒木 宏介 (写真中央)●デザイナー。東京を拠点にフリーランスとして活動。2010年多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。2013年英国王立芸術学院(RCA)デザインプロダクツ学科修了。

前谷 典輝 (写真右)●プロダクトデザイナー。ロンドンのデザイン事務所(Lovegrove studio)を経て、2015年より三菱電機勤務。2010年多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。2013年英国王立芸術学院(RCA)イノベーションデザインエンジニアリング学科修了。

<写真クレジット>

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