メディアをバッシングすることで人気を得るポピュリスト政治家

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2016年11月21日 16:51  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプのネガティブな報道を流し続けた主要なマスメディア、そしてその報道を逆手にとることで支持を得たトランプ。ポピュリズムが席巻する時代のメディアの役割が問われている>


メディアが犯した失態は結果予測の誤りだけではない


 アメリカ大統領選でのトランプの勝利は、従来型メディアの問題点に焦点を当てた。事前の結果予測においては、ほとんどのメディアでクリントン優位が伝えられていたにもかかわらず、結果はメディアが報じていたものとはまったく異なるものだったからだ。


 共和党と民主党の支持が拮抗した6つの「スウィング・ステート」において、メディアは有権者の投票行動を見誤っていた。アイオワ、フロリダ、オハイオといったこれらのスウィング・ステートでは事前にクリントンの勝利が確実視されていたにもかかわらず、蓋を開けてみればすべての州でトランプの支持がクリントンのそれを上回っていた。


 今回の選挙でメディアが犯した失態は結果予測の誤りだけではない。選挙期間を通じて、主要なマスメディアの多くはクリントン支持を表明し、トランプのネガティブな報道を連日流し続けた。その結果、ジャーナリズムに必要とされる「公平性」「中立性」が失われ、有権者からの信頼を損ねることにつながった。


 Investor's Business Daily/TIPP Pollが9月におこなったリサーチによれば、有権者の67%がメディアの報道は不正確でバイアスがあると感じており、クリントンに有利な報道がされていると感じている有権者の数は50%にのぼった。メディアがクリントンに対して「厳しすぎる」と感じた有権者は16%にすぎなかった。


 逆に、トランプは、この表層的な発言をあげつらった「スキャンダル化された」報道を逆手にとることで支持を得た。トランプは自分のスキャンダルや暴言を連日伝えるメディアによって十分な注目を浴びることに成功し、かつ既存のメディアは「腐敗した政治エリート側に付いて真実を隠し、プロパガンダを流している」と糾弾することで、自分はソーシャルメディアを使って、「真実」を伝えている、という物語をつくることに成功した。


CNN is the worst - fortunately they have bad ratings because everyone knows they are biased. https://t.co/oFRfNY2rUY— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2016年10月10日


「CNNは最悪だー彼らが如何に偏っているかみんなわかっているから、悪評を得ているところが不幸中の幸いだ」


 このような傾向は世界的なポピュリスト政治家の台頭にも当てはまる。現在ヨーロッパとアメリカで席巻しているポピュリストの共通点は、その多くがメディアをバッシングすることで人気を得た、という点にある。彼らはメディアを、政治エリートに都合の良い事実しか報道せず、本当の「民意」を報道していないと語り、投票によって「民意」を示そう、と語りかける。


 


 トランプの勝利を受けて、来春のフランス大統領選挙への立候補を表明している右翼のポピュリスト政治家ルペンは以下のようにツイートした。


Félicitations au nouveau président des Etats-Unis Donald Trump et au peuple américain, libre ! MLP— Marine Le Pen (@MLP_officiel) 2016年11月9日


「新アメリカ合衆国大統領となったドナルド・トランプ氏と、自由なアメリカ市民へ、おめでとう!」


ポピュリズムが席巻する時代のメディアの役割


 また、オーストリアの右翼系ポピュリスト政党の自由党に属するハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェは、トランプ勝利をうけてFacebookでこう語った。


「反トランプを何週間もキャンペーンしつづけ、拙速にヒラリー・クリントン勝利を確信しつづけてきたオーストリアのメインストリームメディアは、いま一度、民意による投票で恥をかかされることになった」


 トランプの支持を早い段階から表明し、政権移行チームのメンバーにも選ばれたPaypal共同創業者であるピーター・ティールはこう語る。


「トランプを支持した大衆とメディアの違いは、メディアはつねにトランプを『本質的に(seriously)』ではなく『表面的に(literally)』とらえていた、ということだ。トランプに投票した多くの人々は、トランプを表面的にではなく本質的に見ていた。だからトランプがムスリムに対する発言や壁を建設するといった発言をした時に、彼らが考えていたことは『トランプは本当に万里の長城のような壁をつくるのだろうか?』や『どのようにムスリムの入国禁止の実施をするのだろうか?』ではなく、『私たちはより意味のある、合理的な移民政策を取るのだ』ということだったのだ」


 このメディアの「スキャンダル化した報道」に対し、言葉尻を捉えるのではなく政治家の真意を汲むことが大切なのだ、という意見は、少なくとも今回の大統領選においては民意に刺さった、ということができる。


 一方で、このような「メディアの軽視・蔑視こそが、独裁者がまずはじめにすることだ」と警告する声もある。


One of the first things a dictator does is marginalize and delegitimize the press. Trump is doing this now.— Brian Koppelman (@briankoppelman) 2016年11月13日


「独裁者がまずはじめにすることのひとつは、メディアを軽視し、非正当化することだ。そして、それはトランプがいま、していることだ」


 今回の選挙は、メディアの公平性・中立性の問題を浮き彫りにしたと同時に、民主主義社会におけるメディア・政治家・そして投票行動によって示される民意の関係にも焦点を当てた。ジャーナリズムの役割や責任は、ポピュリズムが席巻する現代のような時代にこそ、いま一度考えなおされる必要がある。




Rio Nishiyama


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