ビッグデータの時代、投資情報は少ないほどいい

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2016年11月30日 19:51  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<投資分析に利用できるデータが爆発的に増える今、投資家はどうやってそれを有効活用しているのか>


 資産運用のプロとして25年間の経験を積み、現在は投資データ会社「クリアーマクロ」を率いるマイク・シムコックCEOによると、会社を設立したのは氾濫する大量のデータに溺れていた投資家を救うためだった。


 当時はデータの情報源が爆発的に増え、その多くが従来よりタイムリーな情報や影響力のあるシグナルを投資家向けに提供していた。


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 だがシムコックに言わせると、「ビッグデータ革命」は既存の問題を一層悪化させた。「情報収集の担当者やポートフォリオを管理するマネジャーの立場からすれば、伝統的なデータの分析で手いっぱいだったのに、今では衛星からグーグルトレンドなどあらゆる情報が降ってくる」


 情報技術の発達によって、投資分析がヘッジファンドや商品取引仲介業者の特権ではなくなりつつある。過去の株価データを用いて検証を行う「バックテスト」や統計的な情報収集も可能だし、効果的に情報をビジュアル化することもできる。


投資のウィキぺディア


 クリアーマクロ社は「投資戦略のウィキペディア」を構築中だ。これによって誰でも、戦略的でシステマティックなポートフォリオ戦略を練ることができるようになる。


 情報は少ない方が良いとシムコックは提案する。「我々はネットでデータをかき集めているわけではない。各分野でトップの経営者が決断を下すときに利用しているであろう情報を提供している」


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 シムコックによれば、ヘッジファンドがビッグデータから利用する情報は、取引頻度が高く、短期間で売買する投資向けの情報に絞られる傾向がある。


「ポートフォリオの調整はかなり難しい。多くの投資家が損している。資産配分の理論をよく理解していなかったり、偽のデータに引っ掛かったりして、資産を大きなリスクにさらしている」


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 シムコックはさらに続ける。「各種手数料を差し引けば、積極的なポートフォリオ運用は敗者のゲームだ。人間の力で損失を回避するのは難しい。だが現実には、投資マネジャーの大多数がそれを行っている。難しいと知っていて、あえてその事実を無視している。誰もが自分の見方は正しいと信じたいからだ」


 それでも投資業界は、データ主導で自動化された研究や、投資可能な戦略を重視する方向へと急速に舵を切っている。恣意的に売買をするのではなく、ルールに則った投資をするファンドが増えているのだという。


 値上がり益を狙って個別株を物色するタイプの投資マネジャーは、推奨銘柄を探すにあたりかつてないプレッシャーにさらされている。データの持ち主らは突如として、自らが保有するデータの影響力と価値を実感するようになり、対価を支払える人にそれを売るようになってきたからだ。


 データは決して安くない。相場は2万5000〜25万ポンド以上。この金額を出せるのはたいてい、ヘッジファンドだ。


「伝統的なデータは、戦略に落とし込んだ時により良い結果をもたらすことが分かってきた」と、シムコックは言う。「今の激動の環境下でどう投資をしたらいいかを尋ねられたら、仕事がたやすくなる技術であれば受け入れ、じっくり時間をかけるべきだと答えるね」




イアン・アリソン


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