タイム誌の 「2016年ベスト発明品」に選ばれた球体タイヤが自動車社会に与えるものとは?【前編】

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2016年12月01日 11:20  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

2016年3月ジュネーブモーターショーで発表され、世界中の注目を集めたグッドイヤーの球体のコンセプトタイヤ。タイム誌の 「2016年ベスト発明品」にも選ばれた。従来のタイヤの概念を覆す球体タイヤはいかにして発想されたのか? その意図と経緯をインダストリアルデザイナー、セバスチャン・フォンテイン(Sebastien Fontaine)氏に聞いた。

Goodyear Eagle-360の衝撃

――球体タイヤEagle-360の研究開発が考えられたきっかけは?

グッドイヤーイノベーション・センターは、世界有数のタイヤメーカーの地位を維持するために、常に新技術の開発に取り組んでいます。「機動性」、「通信接続性」という従来の考え方、そして運転者の役割においても大きな変化が起きています。

グッドイヤーは革新的な新しいコンセプトタイヤに備わる将来の機動性に道を開き、スマートフィーチャー、機動性、および自律能力によってタイヤが未来の自動車運転をどう変えていくのかを模索しています。

電子機器が接続可能な自動運転車が登場したことにより、ちょうど良いタイミングでグッドイヤーは2016年3月ジュネーブモーターショーで球形のGoodyear Eagle-360コンセプトタイヤを紹介しました。 ご紹介後直ちにTwitterやFacebook、YouTubeなどさまざまなメディアやチャネルを通じてGoodyear Eagle-360に対する非常に好意的な反応を得られたことは、このコンセプトに社会的な意味があり、タイムリーであったことを示すものでした。タイヤ、そして未来のモビリティー・エコシステムにまさに役立つことになるでしょう。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=oSFYwDDVgac]

GOOD YEAR

――球体タイヤの磁気浮上の原理について教えてください

Goodyear Eagle-360はリニアモーターカーと同様に、磁気で車体を浮遊させます。導電性セル、または磁気が車両のフェンダー内およびGoodyear Eagle-360内に配置されています(Goodyear Eagle-360のビデオを参照ください)。

トレッド構造の下部に位置する反磁性層がタイヤと車体の間で浮上する磁場をつくります。 自動運転車で乗客は何か仕事をしたり、おしゃべりをしたり、あるいは寝たりする可能性が高いのでタイヤと車体の間に機械的な接触がないのは利点です。機械的な接触がないということは振動が少ないので車内が静かで、機械的摩擦で起こるエネルギーロスを減らすことが可能になります。

Goodyear Eagle-360のコンセプトである磁気浮上は、回転および球状の方向を完全にコントロールすることが可能なのです。 またリム、ステアリング・システム、駆動車軸、エンジン等の主要な車両パーツを他へ移動することが可能になるので、Eagle-360は重量配分や車両総重量の変更にも役立ちます。その結果、車両の重量配分を変更、ハンドリングなどの性能を向上させる可能性があります。 球体であるゆえのメリットとは?

――球体であることの従来のタイヤとの根本的な違い(メリット)は何でしょうか?

自動運転車では、車両の前進、後退にとどまらず、全方向へ走行する可能性が想定されます。その際に球形のタイヤを使用するのが最善の方法です。 Goodyear Eagle-360は、従来のクルマのように前進、後退するだけでなく、横向きや360度回転することが可能です。回転などの動きがこれまで以上に自由になり、クルマの運転が容易になります。Eagle-360は球形なので、乗客はスムーズな乗り心地を体感できます。ミシガン大学交通研究所の研究では、動きを予測またはコントロールできないため世界各国で6%〜12%の人が自動運転車で走行するとき、中程度から強度の乗り物酔いを経験したということです。

しかしEagle-360はクルマが流れるように横方向に移動し、走行している方向をそのまま維持して車体が障害物を回避することが可能です。 また、都市部の利用可能なスペース(例:駐車スペース)を最大限に活用できます。車両に球形のタイヤを装着することで、より狭い空間でも移動が可能になるからです。駐車場の収容能力が向上し、スペースを最大限に活用することができます。

タイヤの設計にバイオミミクリー(生物模倣性)を採用

――脳サンゴのパターンを利用してるとのことですが、その仕組みについてお教えください。

グッドイヤーの設計者は、自然界からヒントを得ることがよくあります。ですので、トレッドおよびタイヤの設計にバイオミミクリー(生物模倣性)を採用しました。海の中で、Eagle-360に使用されている特定の脳サンゴの構造は、周辺海域で独自に水流の方向を定め最適な水分を分配します。それによってサンゴに最適な栄養分がいきわたります。

すべての方向に回転し、変化する路面に対応する球形タイヤEagle-360にするため、グッドイヤーのチームはEagle-360にユニークなトレッドデザインを施し360度回転しながらどの方向に回転しても同一性能が発揮できるように設計しました。

また、パターンの滑走面の溝は、天然のスポンジ(バイオミミクリー)と類似しています。スポンジ状の素材は乾燥した状態のとき、路面に接するラバーブロックは硬くなります。その結果ドライな状況でのハンドリング性能が安定し、ドライ制動性能向上に寄与します。路面がウェットな状態では素材が柔らかくなり、ラバーブロックの硬さが変わり、ウェット路面でのタイヤ性能が向上し、ハイドロブレーニング現象発生のリスクを低減します。

――球体になることで従来のクルマの車体の構造はどう変わるのでしょうか? それとも従来通りで対応できるのでしょうか?

従来のタイヤと同様にGoodyear Eagle-360も路面に接する唯一のパーツですので、グリップ、方向転換、ブレーキおよびハンドリング性能などが大きく変わることはないでしょう。

クルマも磁気浮上システムに順応していかなくてはなりません。そして、ドライブアクセルやステアリングコラムなど従来のパーツは使われなくなり、車内のスペースがさらに広くなります。

未来の輸送コンセプトは用途、機能性や柔軟性を向上させるために現在のものとは見た目も機能も異なることが予想されます。しかし、このような変化はGoodyear Eagle-360のコンセプトや技術には無関係です。Eagle-360の利点は、安全に移動するということに関して社会基盤(交通インフラ)の変更が必要ないところです。

コンセプトタイヤは新たな構想や新製品の基盤となるもの

――球体タイヤのコンセプト開発で一番難しい点は?

物の輸送、人の移動およびそれらに関わる技術が将来どのように発展するか、またタイヤに何が必要になるかということを考慮することでした。

――Eagle-360のコンセプトで一番面白かった点は?  

さまざまなメディアからの好意的な反応をモニターすることでした。これはメディア、輸送、運送業界、自動車業界及び技術専門家が将来の“乗り物”について私たちと同じ様に考えているということを示すものです。

――実現するには今後どのくらいの時間がかかりますか?あるいはもう具体的な実現のスケジュールができていますか?

グッドイヤーが発表した革新的なコンセプトタイヤEagle-360は、実用的な技術革新が起きる兆しが見えてきたということを人々が想像、体験できる純粋な概念開発です。

コンセプトは、画期的な新製品を開発するグッドイヤーのような革新的企業のための基盤となるものです。生み出されたアイデアがそのコンセプトのまま製品化されることは難しいと考えられますが、このコンセプトタイヤは新たな構想や新製品の基盤となるものです。

コンセプトタイヤは展示用として製作したものですので、商品化の予定はありません。現在Goodyear Eagle-360は純粋に概念開発の段階であり、商品化の詳細をお話するのは時期尚早です。 ただし、Eagle-360で紹介した技術には開発中のものもありますので、近未来のコンセプトタイヤGoodyear IntelliGrip(インテリ・グリップ)が示した、さまざまな車両システム機能との通信接続性が間もなく実現することになります。

――球体タイヤのコンセプトはモータリゼーションをどう変えると考えますか?

グッドイヤーに寄せられたEagle-360に対する非常に好意的なフィードバックをもとに、将来の車両設計にこの球形のコンセプトを考慮することが期待されます。磁気浮上システムを機能させるために、自動車メーカーと連携して新しい推進システム(装置)が開発されることが必要になるでしょう。

Goodyear Eagle 360が今後、自動車業界に寄与すること

――球体タイヤは電気自動車や自動走行にも影響がありますか? あるいは電気自動車や自動走行想定していますか?

Goodyear Eagle 360は、自動運転車およびコネクテッドカー用に設計されたコンセプトです。しかし、Eagle-360の機動性は一部すでに開発中です。ジュネーブモーターショーではIntelliGrip(インテリ・グリップ)を紹介しました。先端センサー技術と特別に設計されたトレッドによりGoodyear IntelliGripコンセプトタイヤは、路面や気象状況などの多くの道路状況を感知することが可能です。

グッドイヤーは、空気圧やタイヤの温度などの環境変化を感知し、タイヤの状況をより正確に判断する独自のアルゴリズムを開発しました。その結果、車両の自動制御システムを最適化します。道路およびタイヤの状況を感知する以外に、IntelliGrip(インテリ・グリップ)のコンセプトは、車両のセントラル・コンピュータ・システムに情報を伝達するよう設計されています。それにより安全性や走行パフォーマンスが向上します。またタイヤが“雨で濡れている”、”滑りやすい“と感知すると、車載システムが状況に合わせてスピードを調整。その結果、制動距離の短縮、確かなコーナリング、操縦安定性の向上、さらには衝突防止機能のサポートも実現します。

――自動車交通にどんな変化をもたらすと考えますか?

ひきつづき道路輸送が進歩して、社会のニーズに対応していくことが期待されています。今日、数多くの新しい輸送コンセプトと技術を目にすることができますが、今後も増え続けることが予想されます。 未来を予測することは難しいことですが、Eagle-360とIntelliGrip(インテリ・グリップ)コンセプトで、グッドイヤーはインテリジェント・タイヤをお届けできると考えます。機動性を備え、さらなる安全化・効率化・持続可能化を実現したエコシステムを生み出すことができるタイヤです。車体・タイヤ間や車両・交通インフラ間の通信接続性により未来が変わります。さらに効率的な機動性エコシステムの方向に進みます。

――開発者にとって新たな商品開発を進めるとき、一番大切な心がけは何ですか?

開発作業を通じて、各種ニーズに対応することです。たとえば、お客さまから出される新車装着や補修用の性能要件、タイヤ・ラベル要件、自動車雑誌・テスト基準などです。 グッドイヤーでは「3−15−50」を考慮します。EUのラベル・テストの性能基準では3項目(騒音、転がり抵抗、ウェット・グリップ。)を考慮、タイヤや自動車雑誌のテストではタイヤ性能基準を15項目評価します。しかしグッドイヤーのタイヤとして市場展開するめには50項目の社内性能基準を満たさなければなりません。

どの基準も重要性に差はありません。どれも期日までに満たし、所定のコストにおさめなければいけません。しかしデザイン的には、タイヤのパターンから特定の性能が視覚的に伝わることも重要です。(了)

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