プーチン年次教書「世界の中心で影響力」を発揮する

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2016年12月02日 19:01  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<原油安と西側からの経済制裁に苦しんでいるかと思いきや、全体には自信に満ち、中印米などとの関係改善をテコに世界を率いる気満々だ>


 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は1日、クレムリンの連邦議会に向けた年次教書演説を行った。プーチンに言わせると、ロシアにとって万事が上手くいっている。


 演説の冒頭で、ロシア国民は問題解決に向けて共に取り組めると強調し、問題が完全になくならなくても「力を合わせればきっと乗り越えられる」と力説。


 そのうえで、国際社会におけるロシアの公正さや尊厳、信頼性は形に表れてきており、それらをロシア国内でも、社会に広がる不正や不誠実に立ち向かうなどして実行に移さなければならないと訴えた。社会は強く、安全な場所でなければならないとも主張した。


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 プーチンの言う通りだ。例えば医療分野。ロシアの医療業界は技術が進歩し、今や至る所で医療施設がオープンしている。来年は、先進医療に対する持続可能な財政負担を実現するための新たな仕組みを導入する。


先端科学とエセ科学


 一方、ロシアで現在HIV(エイズウィルス)に感染している患者数は約150万人。感染率は1年で10〜15%も上昇した。ところがロシア政府は国内患者の治療につながる科学的根拠に基づくエイズ治療法を拒否している。クレムリンは、科学を否定する「ニセ科学」を表彰さえする始末だ。


 子どもの教育も大事だ。子どもは快適に暮らし、良い学校で教育を受けなければならない。プーチンは、ロシアの学校は改善を積み重ね、今までで最高水準になったと言った。


 だが英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの2015〜16年の大学ランキングによると、ロシアの最高順位は161位のロモノーソフ・モスクワ国立大学だ。


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 母なる大地は? ロシアは2017年を環境元年と位置づけ、プーチンは西部を流れるヴォルガ川や南東部のバイカル湖など、重要な自然遺産を保護するよう政府内で指示した。


 世界銀行によると、ヴォルガ川の支流の一部で「ひどい汚染」が確認され、その他の流域はそれ以上に「極端に汚染」されているという。今年は、水質汚染で繁殖したとみられる大量の藻がバイカル湖を侵略した。


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 ウクライナのクリミア半島を併合したとして国際社会がロシアに経済制裁を科してきたのは、「無論彼らがロシアを自分たちの思惑通りにしたい」からだとプーチンは言った。だが一連の問題はロシア自身で解決できる。それにロシアの銀行制度はあらゆるレベルで健全かつ安全でなければならない。


 公平のために言うと、IMF(国際通貨基金)はロシア経済について2016年は引き続きマイナス成長だが、構造改革が進むことを前提に2017年は回復してプラス成長になると予測している。


 プーチンは外国から突き付けられている難題に言及したが、それを凌ぐ成果を上げている。ロシアが築いた中国やインドとの協力関係を見ればわかる。日ロ関係も進展させた。アメリカとの関係すら「正常化」の兆しが見え、国際テロと戦うために健全な2国間関係を構築できるかもしれない。


 プーチンは今週、ロシアが世界の中心で最も影響力のある立場を保持すると明記した新しい外交政策の方針を承認した。


 プーチンは演説で与党「統一ロシア」がちょうど結党15周年を迎え、来年はロシア革命から100周年であることにも触れた。とかくプーチンの目に映るロシアでは、生活は改善の一途、幸福感も右肩上がりだ。


From Foreign Policy Magazine



エミリー・タムキン


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