【親子断絶防止法案】打越弁護士「親のためではなく、子どものための法案を」

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2016年12月06日 11:22  弁護士ドットコム

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現在、超党派議連が法案提出を目指す「親子断絶防止法案」は、別居や離婚後に、親が離れて暮らす子と会う「面会交流」に関する書面での取り決めや定期的な実施などを定める。しかし、この法案に対しては、弁護士や研究者らからの反発の声も聞かれる。


【関連記事:【親子断絶防止法案】「別居する様々な実情を考慮していない」と打越弁護士が懸念】



その1人で、家事事件に詳しい打越さく良弁護士が指摘するのが、次にあげる6つの問題だ。



(1)子どもを連れて別居することには様々な事情があることを踏まえていない(話し合うことが難しい場合もある)


(2)養育費について関心が乏しい


(3)面会交流が子の利益に反する場合でも、例外と認められるか不明


(4)子どもの意思への配慮がない


(5)当事者に義務付けるのみで、公的な支援のあり方が不明


(6)国が様々な事情にある子どもがいることを想定せずに、「人格形成のために重要なもの」を打ち出す



前編「「別居する様々な実情を考慮していない」と打越弁護士が懸念」(https://www.bengo4.com/c_3/n_5430/)に続き、後編でも、何がこの法案の問題なのか。打越弁護士に詳しく聞いた。



(「親子断絶防止議員連盟」のインタビュー記事は後日お送りします)



●子どもの意思はどう考えられる?


ーー子どもが会いたくないという場合、法案ではどのように扱うのか



まず、子どもが会いたくないという場合も様々な事情があり、額面通り受け取っていいのかどうか、慎重に考える必要があります。



子どもが会いたくないと言っているとき、会えない側の親はたまりませんよね。監護親(子どもと暮らす側の親)が「洗脳した」などと疑ってしまうのも無理はないとも思います。



しかし、私の経験では、監護親が子どもを会わないように促そうとしていることはなく、むしろ自分は他方の親とやり直しはできないけれども、親子は親子として面会は応じたいと思い、子どもに促している場合が多いのです。



それでも、子ども自身が会いたくないという場合もある。子どもの意思を額面通り受け止めるのではなく、その背景を検討し解きほぐす働きかけなどあったらいいと思います。しかし、子どもの意思を無視して実施しても、楽しい面会交流はできませんよね。



家事事件手続法に、家裁が子どもの陳述の聴取、調査官調査等により子の意思を把握するように努め、審判にあたり、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮しなければならないという規定(65条)があります。法案でも、せめてその程度の手当はほしいです。とはいえ、家庭裁判所がどのように関与するかも見えていない法案なので、子どもの意思をどのように把握し尊重するか、課題となるでしょう。



●なぜ「離婚後に会えない」のか


ーー第三者機関が関わることで、フォローできないのだろうか



法案では、「国、地方公共団体、民間の団体その他の関係者」は、「相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない」(4条)と盛り込んでいますが、それどまりです。



信頼できる第三者機関もあり、面会交流を安全に進めていくためには有効だと思います。問題は、第三者機関は全国津々浦々にあるわけでもなければ、無料でもないこと。本来であれば、第三者機関だけではなく、費用面、安全のためにも国の公的機関でもやるべきではないのでしょうか。



厚労省、一部の自治体で、面会交流支援事業が始まっていますが、まだ実績は乏しく、全国的にどのように展開していくのか、わかりません。全国各地で、無料ないし低廉な費用で、第三者機関を利用して、安全安心な面会交流を実施できるようになるのかどうか。民間の第三者機関がない地域ではどうするのか、たとえば、市役所などが担当してくれるのか。



地方公共団体に「情報提供」程度が努力義務として課されている程度(法案6条3項)では、期待できません。



ーー今現在、どのような理由で「離婚後に会えない」ことがあるのか



弁護士の元に持ち込まれるケースなので、DVや虐待、モラハラなどの被害体験など、ただちには会えない事情のあるケースが多いものです。しかし、それだけでなく、離れて暮らす側の親のほうが「会いたくない」と言ったり、子が「会いたくない」言ったりする場合もあります。



先ほどお話したとおり、監護親が「会わせなくてはいけない」と思っても、子どもが頑として「イヤだ」ということもあります。



法案は監護親にのみ「面会及びその他の交流の定期的実施」を課しますが(7条1項2項)、非監護親(離れて暮らす側の親)にも、振り返り(反省)が必要なときもあるのです。


ーー子どもが「会いたくない」となる理由には、どのような理由があるのか



DVや虐待があった場合に限りません。面会交流を続けていたけれども、その都度、非監護親から恨み節を浴びたりして、どんよりして会いたくなくなるケースもあります。



たとえば、離婚を早期に成立させたかったため、相手の言うがまま、監護親が面会交流の都度、非監護親に「お車代」としてかなりの金額を渡すことを条件にしたケースがあったそうです。そんなことを思春期の子どもが知ったら、お金目当てかとショックを受けて当然ですよね。


また、会うたびに「お前の記憶は捏造されている」と身に覚えのない「お説教」をされたり、「俺は、お前の母親より偏差値の高い学校を出た」など、監護親の悪口を浴び続けたりして、子どもがげんなりしていくケースもあります。


面会交流をただ「行いたい」と言うだけでなく、子どもにとって楽しく充実した時間になるような工夫も必要でしょう。



代理人としてついたケースで、面会交流実施時に、子どもがどんな言動をストレスと感じたか伝え、改善を求めたことがありました。よかれと思って伝えているのに、むしろ非常に激しい反発を招き、調整の難しさに直面しました。



代理人がついてもそうですから、個人間で調整するのはとても無理な場合もあることを実感します。会いたくないということを責め立てるのではなく、当事者双方に振り返りを促す、そのようなことでも、公的なサポートを充実してくれたらいいと思います。



●「様々な子どもたちを念頭に」


1条で、この法案の目的(1条)の中に、「子が父母と継続的な関係を持ち、その愛情を受けることが、子の健全な成長及び人格形成のために重要であることに鑑み」について書かれていることが、心配です。



私は児童相談所の仕事もしており、様々な事情でどちらの親からも愛情を受けられない子どももいることを知っています。また、ひとり親のもとでの子どもに、他方の親が会おうともしない場合もあります。その子どもたちが、あらかじめ、「健全な成長及び人格形成のために重要である」何かが欠けたものかのように、国が打ち出してしまうのは、やめてほしいと思います。



悪気はないのかもしれませんが、国には、様々なライフスタイル、家族のかたちがあることを念頭にしてほしいと思います。


ーー最後に。どのような面会交流支援が望まれるのだろうか


私も、子どもにある日突然会えなくなったらと思うとたまらない。会えない親が辛いという切実な気持ちはわかります。実際に会えずに悲しい思いをしている親子を放置していていいとは思いません。面会交流の支援態勢を充実する契機は望ましいものだと考えますので、国としてどう支援をするのか、具体的に提示して欲しいと考えています。


子どものいる夫婦が別居や離婚に至る理由は、様々です。今の制度を一歩進めて、子の利益のための支援を充実させるには、当事者に努力義務を課すだけでは不十分でしょう。たとえば、未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合には、当事者任せの協議離婚ではなく、様々な事情を考慮した上で、子の利益のため、面会交流や養育費の取り決めを促す。そのために、家庭裁判所を通すことなど、抜本的な制度改革が必要なのではないでしょうか。



養育費、手当や奨学金による貧困からの救済、住居の確保、親の就労など、総合的な施策が必要です。もちろん、ありとあらゆる手当のレパートリーが全て揃ってからではないと一歩も進めてはだめ、というと、非現実的でかえって硬直的かなとも思い、一部ずつ前進も止むを得ないと思います。



しかし、法案からは具体的な方策は見えず、単に当事者に義務づけるだけのように思えます。さらに、やむを得ず子どもを連れて出て行かざるを得ない場合への配慮も、子どもの意思への配慮も欠けています。そのため、現時点の法案には賛成できないのです。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
打越 さく良(うちこし・さくら)弁護士
離婚、DV、親子など家族の問題、セクハラ、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野を専門とする。第二東京弁護士会所属、日弁連両性の平等委員会・家事法制委員会委員。夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。
事務所名:さかきばら法律事務所
事務所URL:http://sakakibara-law.com/


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