「ナポリタン」から「ちゃポリタン」まで? 広がり続ける「ジャパニーズフード」の世界

175

2016年12月08日 18:43  mixiニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

mixiニュース

海外の人がイメージする日本食といえば、寿司、天ぷら、刺身などが代表的。とはいえ、私たちが日常的に食べているかというと、ちょっと怪しいところもあります。むしろ普段、口にしているのは、カレーやラーメン、ハンバーグにオムライスといったカタカナ料理だったりするのではないでしょうか。

こうした料理は、先人たちがアレンジにアレンジを重ねまくった結果、輸入当時とは全く別物に姿を変えたもの。つまり、名前だけ見ると「外来モノ」ながら、その実「日本オリジナル料理」と言えるわけです。

本特集では、これらの食べ物を「ジャパニーズフード」と命名。フードアクティビストの松浦達也さん監修のもと、その誕生パターンを5つのカテゴリに分けてみました。


1・企画開発型

例:横濱シウセージドッグ、ちゃポリタン、ランチパック

自治体や企業などの企画から生まれたメニューです。地域の食材や食文化、メーカーの人気商品などをベースにしたケースが多く、「B-1グランプリ」が注目を集めたころには、自治体による新メニュー開発が加速しました。

近年では、長崎ちゃんぽんをナポリタン風にアレンジした「ちゃポリタン」や、「家系 豚骨醤油ラーメン風」の「ランチパック」など、「企業×地元団体」や「定番商品×人気メニュー」といったコラボも増えています。

企画先行ということもあって、共通するのはメニュー自体の面白さ。横浜スタジアムの新名物を作ろうと始まった崎陽軒の「横濱シウセージドッグ」も、シウマイ味のソーセージという組み合わせのユニークさに注目が集まりました。

「シウセージドッグは商品の面白さに加え、崎陽軒の伊勢佐木モール店でも買えるらしいとブログのネタになった展開など、話題になる条件が揃ったいいメニューですね」(松浦さん)

画像提供:株式会社 崎陽軒
球場で食べやすいホットドッグスタイルにこだわった「横濱シウセージドッグ」
画像提供:株式会社リンガーハット
ケチャップのカゴメや地元の生麺協同組合、特産品のかまぼこのPR団体などがコラボした「ちゃポリタン」。
長崎県内のリンガーハットと都内の大森店で販売されている


2・物資、情報不足型

例:ピザトースト、ハンバーグ、ナポリタン

日本の家庭料理の定番「肉じゃが」は明治期、海軍指揮官・東郷平八郎が艦上食としてビーフシチューを作らせた際、デミグラスソースを砂糖と醤油で代替したのが始まりとする有名な説があります。

このように、食糧難や情報不足によって外来料理をそのまま再現するのが難しい時代、西洋料理風のアレンジが広く行われるようになりました。多くは日本人の舌になじむよう味付けされ、現在では食卓のスタンダードになっているものばかりです。

ピザ生地の代わりにパンを使った「ピザトースト」はその代表格。発祥店とされる日比谷の「珈琲館 紅鹿舎」では、現在も元祖ピザトーストを食べることができます。

喫茶店でおなじみケチャップ味の「ナポリタン」も、不足物資を代替したアレンジ料理といわれています。

ミルクとトマトソースを使用した料理として戦前から存在していたようですが、戦後まもなく、高価で珍しいトマトピューレの代わりにケチャップを使用する調理法が生まれ、一気に家庭に広まったといいます。

さらに、あの国民的料理も、海外レシピの少ない情報をもとに独自の解釈やアレンジを加え、現在の形になったのだとか。

「ハンバーグもご飯に合うよう少しずつアレンジされて今の形になったんですよね。明治期のレシピを見ると、卵を使っていないし、“つなぎ”もそんなに入っていない。もう少しがっちりした、食感の強いハンバーグだったと思います」(松浦さん)

写真:mixiニュース編集部 (飲食店より撮影許可を得ています)
1964年頃に考案されたといわれる「紅鹿舎」の元祖ピザトースト。
厚切りのトーストにはとろけるチーズがたっぷり。クリーミーな味わいだ


3・アイデア型

例:たらこスパゲティ、うにく、ソースカツ丼

「ピラフ、スパゲティ、とんかつがセットになった長崎のトルコライスなど、高度成長期にはボリューム感のあるゴージャスなメニューがたくさん生まれました。量も多くて豪華で最高!みたいな(笑)。アイデアに時代の勢いを感じますよね」(松浦さん)

松浦さんがこう語るように、特定の飲食店の独創性高いメニューが評判を呼び、地域レベル、全国レベルに拡散していったケースもあります。

素材や味付けが奇抜なメニューもありますが、定番化するのはオーソドックスな食材の掛け合わせながら、組み合わせの妙が光るもの。「その手があったか!」という真似しやすいアイデアほど、広く拡散され、定着していくようです。

大正時代、本場のウスターソースをアレンジしたソースとカツを組み合わせたソースカツ丼は、ハイカラな西洋料理として人気を獲得。北陸地方で定番化していきました。

和風パスタの代表「たらこスパゲティ」は、渋谷のパスタ店「壁の穴」のアイデアメニューから始まり、今ではすっかり人気パスタの定番となっています。

現在もこのような工夫と拡散は繰り広げられており、最近ではウニを牛肉で巻いた「うにく」などが注目を集めています。

画像提供:株式会社壁の穴
客からキャビアのスパゲティをリクエストされたことをきっかけに生まれた、たらこスパゲティ。
より安価で日常的なメニューにするため、たらこの使用を思いついたという
画像提供:株式会社門崎
近年、寿司店や焼肉店を中心に広がる「うにく」。
熟成肉店「格之進R」の「肉巻きウニ軍艦」は、シャリに上等なウニを乗せ、霜降り肉で巻いた贅沢寿司


4・偶然発生型

例:台湾まぜそば、つけ麺、カツカレー

メニュー誕生の裏に意外性の高いストーリーが存在する「偶然発生型」。そのきっかけは客のリクエストや「まかない」など様々ですが、どれも料理マンガのような味わい深いエピソードばかりです。

“名古屋めし”のひとつ、激辛で人気の台湾ラーメンから派生した「台湾まぜそば」は、台湾ラーメンの開発中にスープと合わなかったミンチを麺に乗せてみたのが誕生のきっかけだとか。

今では定番となった「つけ麺」のルーツは、茹で残った麺を集め、湯のみに入れたスープと醤油に浸して食べたまかない。それが「東池袋大勝軒」の「特製もりそば」へと発展していったそうです。

気になる逸話は「カツカレー」にも。銀座の洋食屋「グリルスイス」で読売ジャイアンツの元選手・千葉茂さんが「別々に食べるのが面倒だから」と、カツとカレーをワンプレートで注文したのがきっかけという説があります。スターの豪快さが感じられるパンチの効いたエピソードですよね。

「偶然発生型には、間違いから生まれるケースも多いんです。間違って同じパンにバターとあんを塗ってしまったのがきっかけだという、盛岡『福田パン』のあんバターサンドなんかもそのひとつですね」(松浦さん)

出典:写真AC
東海圏のみならず関東や関西へも広がっている「台湾まぜそば」。
女性向けに辛味を抑えたメニューが登場するなど、味のバリエーションも豊富
写真:mixiニュース編集部 (飲食店より撮影許可を得ています)
喫茶店「デン」の名物メニュー「グラパン」。
バイトから“グラタンを食べたい”というリクエストが入るもグラタン皿がなく、
食パンを器代わりにしたことから生まれたメニューだとか


5・話題先行型

例:焼きおにぎりパン、納豆コーヒーゼリーサンド

凝った商品開発の結果、聞いた瞬間ぎょっとするような方向に発展したクセのあるメニューです。

話題づくりが先行したウケ狙いのものや、店主の強すぎる個性が反映されたものなど、出オチ感の強いメニューもありますが、一方で「食べてみるとおいしい!」と驚かされる、真面目に研究されたメニューも多く存在します。

長野市の「森田ベーカリー」には、「焼きおにぎりパン」という「主食×主食」なパン。焼きおにぎりと親和性の高いパンから開発するなど、ネタに終わらない本気さが感じられます。

また、鈴鹿の「鞍馬サンド」にあるサンドイッチ「醍醐」は、納豆コーヒーゼリーサンドというインパクトのある組み合わせ。まろやかさと粘りがクセになってリピーターになる人も多いそうです。

「ネットでの話題拡散を狙って考案されたメニューも目立ちましたが、最近は減ってきている気がします。ネタ投稿、炎上狙いにはひっかからないぞ、という感覚がユーザーに広まっているんでしょうね。今は基本的においしくないとウケないのかもしれません」(松浦さん)

写真提供:鞍馬サンド
絶妙にマッチングする納豆とコーヒーゼリーをホイップクリームがしっかりと包み込む。
想像以上の食べやすさが評判になり、お店の看板メニューに


おかん発の「ジャパニーズフード」はありますか?


全国各地で日々、生み出されているアレンジ料理。上では紹介しきれなかった中には、こんな変わり種もあります。

★グラタンフライ
春巻きの皮にグラタンを包んで揚げた八戸のソールフード。

★いせさきもんじゃ
群馬・伊勢崎の駄菓子屋などで提供されていたもんじゃ焼き。「アマ」と呼ばれるメニューはいちごシロップ入り。

★カツラーメン
ラーメンの汁を吸った衣が絶品の人気メニュー。全国各地に広がる。

★納豆ごはんクレープ
京都・河原町のクレープ屋「さんじや」が提供する人気メニュー。惣菜系クレープの進化版?

★かつおのたたきパフェ
高知・南国市の「れストランゆず庵」の名物メニュー。地元の特産品を使った変わり種。

★ドリップカレーメシ
日清食品のインスタントカレー「カレーメシ」。当初は水を入れて電子レンジで温める調理法だったが、水の代わりに、コーヒー、ジャスミン茶などをドリップするスタイルも登場。

こうしたアレンジは何も飲食店に限りません。きっと多くの家庭で行われてきたはずです。そこで本記事の続編として、「独自の進化を遂げた『ジャパニーズフード』家庭料理編」を後日、記事化したいと考えております。

皆さんの実家などで、行き過ぎた(?)アレンジを加えたり、独特すぎる工夫を重ねたりした結果、本来の姿とは一線を画した仕上がりを見せる“おかん料理”はありますか? もしあれば、ぜひコメント欄に投稿してください! 可能な限り編集部で再現しますので、材料やレシピなども記載していただけると幸いです。

そのほか、「定番料理をウチではこうアレンジしていた」などの料理の話、記事へのご意見なども大歓迎です。皆様からの熱い投稿、お待ちしております!

●識者プロフィール
松浦 達也氏 (まつうら・たつや)
フードアクティビスト、ライター、編集者。食専門誌から一般誌、新聞、書籍、Webなど多方面の媒体で、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド・ニュース解説のほか、地場産品のブランディングや飲食店のメニュー開発などのコンサルティングも。著書として『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える!』(マガジンハウス)が発売されたばかり。

●文・構成/後藤亮平(BLOCKBUSTER)

【関連記事】
現代の家庭事情に見る「WEBと料理と私」
アレンジの時代から洗練の時代へ ジャパニーズフードの今とこれから

このニュースに関するつぶやき

  • そういえば今日本で食べられてる中華料理もかなりの品目が日本向けにアレンジされてるんだよなぁ…←
    • イイネ!21
    • コメント 10件

つぶやき一覧へ(100件)

前日のランキングへ

ニュース設定