変わりゆく「老後は安泰」 来る人生100年時代の全貌とは

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2016年12月09日 18:03  新刊JP

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『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社刊)
「2007年に生まれた日本人の子どもの半数は107歳に到達する」

『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋翻訳、東洋経済新報社刊)では、まずそんなデータを私たちに提示している。(*1)

織田信長が『敦盛』で「人間五十年」と舞ったのは今から500年近くも前のことだが、近年日本人の寿命はどんどん伸びており、今では「人生80年時代」とも言われる。しかし、近い将来、「人生80年時代なんて言葉もあった」と語られるようになるかもしれない。

そして、何もこれは日本に限った話ではないようだ。同じデータにおいて、アメリカは104歳、イギリスは103歳、ドイツは102歳など、主要先進国も軒並み100歳を超えている。(*1)

■人生100歳以上が当たり前の生き方に備える

『LIFE SHIFT』の日本語の副題は「100年時代の人生戦略」。100年生きる時代の人間の生き方を予測した一冊である。

労働、お金、時間、家庭――本書のテーマは多岐にわたる。

本書と向き合うために、読み手はこれまで言われてきたモデルを白紙に戻すことからはじめないといけない。「就職」と「リタイア」は今のままなのか? もしそうでないなら、おのずと人生設計も変わる。また後に触れるが、老後はどうなる? より高年齢まで収入を得続けるモデルが必要なのか?

重要なのは、「ライフシフト」がまず起こる国は、この日本だということだ。
著者は日本語版序文において次のように述べている。

世界でいち早く長寿化が進んでいる日本は、ほかの国々のお手本になれる。多くの人が100年以上生きる社会をうまく機能させるにはどうすべきかを、世界に教えられる立場にあるのだ。
『LIFE SHIFT』10ページより引用

日本への期待も受け取れるこの指摘は、反面私たちにとってプレッシャーにもなるだろう。しかし、手さぐりのまま「人生100年時代」に突っ込んでいくわけにはいかない。何が起こるのかくらいは予想できたほうが良いに決まっている。

■変わる「老後は安泰」。一体何歳まで働けばいいのか?

100歳生きることが当たり前になったときに、誰しも心配することがある。
「お金」の問題だ。
これを基点に人生を考えると、今までの価値観を根本から覆す必要があることに気付くだろう。

今までの価値観というのは「人生を3つのステージに分ける」という考え方だ。

まずは「教育のステージ」、次に「仕事のステージ」、最後に「引退のステージ」。だいたい私たちの価値観としては、大まかに教育は20歳前後まで、仕事が65歳まで、そして引退がその後となるが、長寿化はその前提を壊す。

本書では、1945年生まれ、1971年生まれ、1998年生まれの3人の架空のイギリス人を設定し、それぞれの人生のシナリオを考えていく試みをしている。

詳しいシナリオは本書を読んでほしいのだが、それぞれの年代の(だいたいの)寿命、勤労期間、引退期間、老後資金の積み方などを比較すると驚くべきことが分かる。

「老後の生活資金(年間所得の50%)」
「長期の投資利益率(年平均3%)」
「所得の上昇ペース(年平均4%)」
「何歳で引退したいか(65歳)」

これらの要素は、比較しやすいように3人とも同じ数字に設定されている。

その上で試算してみると、1945年生まれは勤労期間42年、引退期間は8年なのに対して、1998年生まれの人は勤労期間44年、引退期間が35年となる。1971年生まれでは、勤労期間44年に対して、引退期間は20年だ。

そして、イギリスの場合ではあるが、1971年生まれの人が引退期間20年を「安泰」に生きるには、毎年の所得の17.2%を老後の生活資金として貯蓄し、そこに公的年金を重ねてようやく可能になる。

しかし、毎年17.2%を貯蓄にまわすのはかなりの負担だ。

これが100歳まで生きる1998年生まれの場合、老後の生活資金の貯蓄は25%になるという計算になる。だが、住宅ローンや介護などさまざまな出費に追われる勤労期間に、これだけの数字を維持するのはそうたやすいことではない。さらに、もし公的年金がないならば毎年の貯蓄は31%。とんでもない数字である。

 ◇

こうなれば、引退する年齢をもう少し先延ばしする必要がありそうだし、著者たちはパートナー(夫や妻など)との関係がこれから重要になるとも指摘する。

この「3ステージ型の人生」の崩壊からスタートする『LIFE SHIFT』は、私たちの生き方がどのように変わっていくのか予測している。

私たちは、社会や労働の変化から逃れることができない。そして、人生100年時代に突入したときには、人生戦略の新たな枠組みが必要となるだろう。誰の元にも訪れる変化「ライフシフト」を、ただぼんやりと眺めているだけでは乗り越えられそうにない。そんなことを思わせる一冊である。

(新刊JP編集部)

(*1)『LIFE SHIFT』41P図1−1を参照

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