井川遥「暴力住職の親族」報道でネトウヨが在日ヘイト攻撃! カミングアウトできないのは本人のせいじゃないのに

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2016年12月10日 16:10  リテラ

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リテラ

井川遥Official Webより

 女優の井川遥が、ネット右翼からヘイト攻撃を受けている。数日前から、ツイッターなどで、こんな書き込みをされているのだ。



〈井川遥の本名は趙秀恵。これ、大スクープなのにテレビでは絶対報道しないwww 同胞が問題起こし過ぎで在日擁護もそろそろ限界じゃないですか?笑〉

〈私は井川遥が朝鮮人=趙秀恵だって知ってましたけどね(^^;; 大して可愛くもなく、格好良くもないのに、異常に推されてる連中は怪しい〉

〈井川みたいな下手くそ整形自称女優が使われるのはチョン枠 それだけで悪そのもの〉



 引用するのも躊躇われる下劣な民族・出自差別だが、このヘイト攻撃に火をつけたのは、どうも、先週発売の「週刊新潮」(新潮社)12月8月号に掲載された記事「ついに家宅捜索が行われた渦中の暴力住職は『井川遥』の叔父さまだった!」らしい。



 タイトルにある「暴力住職」とは、東京都檜原村の天光寺の高尾聖賢住職を指す。現在、高尾住職には、同寺で修行をしていた中学生らに日常的に暴行等を加えていた容疑がかかっており、先月26日には警視庁が天光寺に対し家宅捜索を行っていた。



「週刊新潮」の記事は、その高尾住職と井川が親戚であったと伝えるものだ。これによれば、井川は高尾住職の兄の娘、つまり叔父と姪の関係にあるという。だが、この記事にネトウヨたちが反応したのは、「新潮」がたんに井川とこの住職の関係を報じただけでなく、彼女らの"出自"までをも書き綴っていたからだ。記事では、高尾住職が以前入門していた別の寺の住職による、こんな証言が掲載されていた。



「当時、彼が提出した入門願いの書類を見ると、本名は趙となっており、本当かどうかはわからないけれど"韓国の旧王族の末裔"と説明していたな」



 そして、この記事が今月7日にウェブ版「デイリー新潮」にアップされると、ネット右翼がすぐさま反応。親族だとされる井川に対しても〈井川遥って朝鮮人だったの...? マジかよ、朝鮮人最低だな〉〈血族にこういうゴミクズが混ざってるというのが逃れられないチョンの血筋だよな〉などとヘイト攻撃を繰り出し、なかにはこんなことまで言いだすネトウヨもいた。



〈さすが新潮だな。この一族がいつ頃日本に密入国して日本人に成りすましたのか、背乗りしたのか、家系図まで暴いてくれたら完璧だね〉



 言うまでもなく、「在日」という属性をあげつらい、民族や出自に対する悪罵や差別扇動の言辞を投げつけるのは、ヘイトスピーチに他ならない。たとえ問題の住職が子どもたちに暴力や虐待行為を行っていたとしても、それと出自とは本来なんの関係もないものだ。連中が目を血走らせてがなり立てているのは、この住職の行為そのものに対する非難ではなく、「朝鮮人」とひとくくりにして、もっぱら"在日=犯罪者"という誤ったイメージを振りまき、差別を正当化させるためだけだ。



 しかも連中は「在日は本名を名乗れ!」「出自を明らかにしろ!」「家系を暴け!」と恫喝までしている。毎度、毎度のグロテスクな差別意識には辟易するしかないが、しかし、在日コリアンたちの多くは、好き好んで出自や戸籍上の名前を隠しているわけでもなければ、ましてや「日本人に成りすまし」ているわけでもない。それは、井川のような芸能人のケースでも同様だ。



 実際、日本の芸能界には出自を明かしていない在日コリアンや帰化した3世、4世が少なからずいるが、彼らが戸籍上の名前を公にしていないのは、ほとんどの場合、事務所から芸名を強制されているからだ。



 井川のケースはまさに典型的な例だろう。もともと井川は、無名のモデル時代には「趙秀恵」という名前で活動をしていた。しかし、本格デビューの際に「井川遥」という芸名を使うことを事務所側から命じられ、本人はその後に何度か自分の出自について語ろうとしているのだが、そのたびに周囲の圧力で封じ込められている。



 たとえば、彼女がすでに「癒し系」としてブレイクしていた2001年、「月刊現代」(講談社/休刊)のロングインタビューで、「井川遥」としてのデビュー時の"年齢詐称疑惑"について自ら語り、話題になったことがあった。年齢詐称疑惑については、ある企業のキャンペーンガールに応募した際、事務所の意向で年齢を1歳ほどサバ読んでいたという芸能界にはよくある話なのだが、実はこのインタビュー収録時、井川は、自らが在日コリアンであることも淡々と語っていたという。ところが、実際の誌面ではそのくだりはまるまるカットされた。その理由は裏で事務所サイドが強硬に反対したためだといわれている。



 とりわけ井川の場合、出自の"タブー化"は本人の意思ではなく、本人はむしろそれに抗おうとすらしてきた。たとえば2001年、「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)8月号の「本」にまつわるインタビューのなかで、井川は躊躇うことなく、在日コリアンたちの青春を描いた直木賞受賞作『GO』(金城一紀/講談社)をとりあげ、同作の意義について真摯に語っている。



 2000年代の芸能界では一時、韓流ブームもあって、最初から在日コリアンであることを公表し本名で活躍する芸能人も増える傾向が見られた。しかし、本人がこうして自分の出自と向き合い、公表しようとしても、今回の「新潮」記事に反応したネトウヨのように、"在日差別"が大声でがなり立てられる現在の日本社会では、むしろこれまでよりもカミングアウトは難しくなっている。



 それは、路上でコリアンの虐殺まで扇動するヘイト団体や、ネトウヨなどが「反日タレント」とレッテル貼りをし、広告に起用した企業に対する不買運動やクレームなどを展開したことの影響が大きいのは言をまたない。さらには、安倍政権の閣僚など、政治家がヘイト団体と親密で懇ろな様子を隠そうともせず、さらに自民党もまたネトウヨを組織化して党略に利用し始めた。こうした民族差別は、安倍首相による歴史修正主義の動きと連動することで、ここ数年で何倍にも増幅されたと言える。



 前述の「ダ・ヴィンチ」01年8月号で、井川は『GO』についてこう述べていた。



「(本が)出てすぐ、マネージャーに勧められて読みました。おそらくこれは金城さんの自伝的要素も強いんでしょうね。在日朝鮮人でも、在日韓国人でもなく、『コリアン・ジャパニーズ』と新しい言い方をしていて。正直言って、もっと卑屈になっていっているのかなと想像していたんです。ところが読み始めると、そういうことをまったく意識させない。国籍で先入観を持ってほしくないんだ、っていう気持ちがすごくよく伝わってきました」



 国籍で先入観を持ってほしくない──。それは、井川の本心でもあるのだろう。だが、現状、ネトウヨたちは「先入観」どころかむき出しの憎悪をさらけだしている。出自を明かすことに恐怖を覚えるヘイトの嵐、あるいは明かしたくても明かせない芸能界の歪んだ論理。わたしたちは、あらためて日本社会がそうした危険な状況にあるという現実を、しかと見つめ直すべきではないか。

(小杉みすず)


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  • 犯罪者の近親が責め立てられるのは在日に限りません。例の秋葉無差別殺人犯の弟は会社をクビになり彼女と別れ自殺しました。在日の時だけ擁護記事?
    • イイネ!11
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