携帯電話「GPS機能」で従業員を監視…プライバシー侵害が認められたケースも

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2016年12月14日 10:22  弁護士ドットコム

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会社が支給しているiPhoneで従業員の居場所確認をするのは違法でしょうかーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにそんな相談が寄せられました。


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相談者の会社では、従業員の居場所を把握して、当日の突発的な案件などを割り振るためのコントロールとして使っているそうです。また、従業員が決まった時間に客先に行かないことがあるため、サボり行為を監視する意味などもあるそうです。


GPS監視をめぐっては、ほかにも相談が寄せられています。別の相談では、会社から、私物のスマホにGPS機能アプリをダウンロードするよう指示されているケースがありました。勤務時間外にオフにすることは認められていますが、スマホの電池の消耗を早めるため、相談者は疑問を抱いています。


勤務時間中の行動をGPS機能で監視することはプライパシー侵害などの問題にならないのでしょうか。私物のスマホを利用する場合も問題ないのでしょうか。櫻町直樹弁護士に聞きました。


 ●従業員の行動を管理・把握するために、一定の措置講じることは認められる


IT技術の進歩によって、従来では想像もつかなかったような変化が社会の様々なところで生じていますが、今回のような「従業員の行動を、スマートフォンに内蔵されたGPS機能を使って管理・把握する」というのも、まさにそのような変化の一例といえるでしょう。


とはいえ、問題の本質は「使用者(会社)が、従業員の行動等を管理することが許される限界はどこか」ということです。GPS機能という技術によって管理が容易にできるようになったというだけで、そのような技術がない時代においては、例えば「1時間毎に所在を上長に報告させることは許されるか」という形で問題になりえたでしょう。


さてどう考えるかですが、会社(使用者)は、雇用契約・就業規則に基づき、従業員に対して監督、業務命令、懲戒等を行うことができます。


そして、会社が従業員の行動を管理・把握すること、そのために必要な措置を講じることは、監督権限(それに加え、業務命令権限)の行使として認められるといえるでしょう。


 ●プライバシー侵害とされた裁判例も


しかし、会社が従業員の行動を管理・把握することは、事業活動を円滑・効率的に遂行するためという目的において認められるものです。


その目的から外れたものや、目的達成のために必要かつ相当といえる手段・方法を超えるようなものは、会社に認められた権限を超え、従業員の権利・利益を不当に侵害するものといえます。


GPS機能を利用した行動管理についてみた場合、その目的が「当日の突発的な案件などの業務を割り振るため」「サボり行為の監視」ということであれば、事業活動遂行という目的にそくしており、また、手段としても必要かつ相当といえ、法的な問題はないと思われます。


また、GPS機能アプリを従業員の私有スマートフォンにダウンロードするよう指示することも、従業員にとって過大な負担とまでは言い難く、許される範囲といえるでしょう。


もっとも、事業活動に必要なリソースは原則として会社が負担すべきことからすれば、GPS機能アプリをダウンロードしたスマートフォンを会社が支給するほうが望ましいでしょう。


しかし、GPS機能による行動管理が、終業時間以降や、休日などの業務時間外にまで及ぶときには、事業活動遂行のためという目的から外れており、従業員のプライバシーを侵害するものとして違法とされる可能性があると思います。


最後に、参考になる東京地裁の裁判例(平成24年5月31日判決)を紹介しておきます。


これは、GPS機能付き携帯電話で位置を常時確認することができるというシステムを用いて従業員の勤務状況確認をしていたケースで、裁判所は次のような理由でプライバシー侵害を認めました。


『労務提供が義務付けられる勤務時間帯及びその前後の時間帯において、被告が本件ナビシステムを使用して原告の勤務状況を確認することが違法であるということはできない。反面、早朝、深夜、休日、退職後のように、従業員に労務提供義務がない時間帯、期間において本件ナビシステムを利用して原告の居場所確認をすることは、特段の必要性のない限り、許されない』




【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:パロス法律事務所
事務所URL:http://www.pharos-law.com/


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