マニュアル通りでは不十分 “一流の接客”の正解がある場所とは?

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2016年12月14日 19:02  新刊JP

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『接客の一流、二流、三流』の著者、七條千恵美さん
接客に関する本はたくさん出版されている。マナー講座もたくさんある。

ただ必ずしも、そうしたところから接客の方法を学んだだけで、一流の接客ができるようになるわけではない。

『接客の一流、二流、三流』(明日香出版社刊)の著者である七條千恵美さんは、日本航空(以下、JAL)で客室乗務員として活躍、さらにサービス教官として1000人以上を指導した実績を持つ。

そんな七條さんは、書籍の中で「論外」の三流の接客、「熱意はあるけれどまだまだ」な二流の接客、そして一流の接客者の振る舞い方について述べているのだが、読んでいけばいくほど、「接客」という仕事の奥深さ、難しさについて気付くだろう。

では、その「一流の接客」とは一体どのようなものなのか? 七條さんにお話をうかがった。

■「接客の正解というのはお客様が持っています」

――まずは七條さんのご経歴についてお聞きします。現在は会社を立ち上げられて、人材育成や企業研修のフィールドでご活躍されていますが、もともとはJALの客室乗務員(以下、CA)でいらっしゃったんですよね。

七條:そうです。大学を卒業して、JALに入社しました。JALのCAは、まず国内線でデビューをして、それから半年から1年、人によっては2年かかることもありますが、国際線のエコノミークラスを担当します。そこで慣れていくうちに、ビジネスクラス、ファーストクラスと段階が上がっていきます。

――JALのCA教育プログラムは非常にしっかりしていそうですが、昔と今とで教育内容に差は感じましたか?

七條:根幹を成す部分は今も昔も変わっていないと思いますね。ツールが便利になっているとしても、結果的に人間が満足する瞬間というのは人と人の関わりの中で生まれるものですから、その部分については時代が変わっても変わらず大切に伝え続けていくものだと感じました。

――確かに、CAの仕事は人と人とのコミュニケーションが基盤ですよね。

七條:そうなんですよね。そして、企業ブランドである伝統や気品、上質さ、スピード、正確性ももちろん大切なのですが、親しみやすさや適切な距離感を求められることもありました。どちらに振り過ぎても良くないですし、そのバランスはお客さまと接する中で感じ取っていくものだと思います。

――七條さんは教官として客室業務員の訓練生の教育にもあたっていたそうですが、どのような教官だったと思いますか?

七條:私は鬼教官だったかもしれません(笑)。もともと体育系ということもあって、鬼になるときは鬼になっていました。

この本を読んでもらえると分かると思うのですが、接客の正解というのはお客様が持っています。もし、お客様が不愉快だとお感じになったならば、それは、いたらない接客だったということです。(訓練生たちが)がんばっていることも理解していましたし、努力は認めるけれど、頑張っているからいいというわけではないんです。

お客様の前に出たときに誤解を与えることなくどう振る舞うことが望ましいのか。そこは嫌われても教えないといけないと思っていました。訓練生たちの花が開く助けになれば、と。

――訓練生たちのどういうところをチェックするのですか?

七條:まずは外見力です。人間は中身が大事といいますけど、CAの場合、最初の印象がとても大きいんです。「あの子、つまらそうに仕事しているな」「声が暗いな」とか、第一印象を損ねてしまうと、挽回が難しい。

これは、美人じゃないとダメとか、イケメンでなければならないとかそういうことではありません。清潔感であったり、一つ一つの仕草であったりという部分が大事で、いくらでも磨くことができます。

――挽回が難しいのは何故でしょうか。

七條:特に国内線ですが、お客様と接する時間が短いんです。そのような状況で最初にマイナスの印象を与えてしまうと、その後、挽回するタイミングがこないままフライトが終わってしまうことが多いのです。

ほとんどの方は清潔感のあるさわやかな人に好印象を持ちますし、第一印象だけでお客さまへの感謝や仕事に対する真摯な取り組み方、そのようなことを感じていただくことが大切なのです。

■「平均以下の接客をするならばロボットでもいい」

――本書では接客を「一流、二流、三流」に分けて説明されています。三流、二流までは想像つくものが多かったのですが、一流は意外な回答が多く、予測つかないものもありました。この一流と二流を隔てるものは何でしょうか。

七條:私は接客マナー講師として活動していますけど、実は必ずしも接客を人間がやらなければいけないとは思っていません。セルフレジやロボットでもいいと思っています。

機械はいつでも平均点を取ります。文句も言わず正確に動きます。お客さまを怒らせることも少ないです。反面、機械に「ありがとうございます」と言われても心に響かない。それは平均点以上でも以下でもないからです。

だから、機械よりも良い接客ができなければ、人件費をかけてまで人間が接客する必要はないと思うんです。やるのであれば、平均点以上を取らないといけない。だから、この本で言っている二流までは「平均点」です。一流になって初めて平均点以上になると私は思っているんです。「接客に機械ではなく人が携わる価値」とはそういうものではないでしょうか。

――確かに二流まではいわゆるマニュアルの範疇に収まりますが、一流はマニュアル以上を求めるものになっています。

七條:そうです。人と人のつながりを意識することが一流の接客への入り口です。お客様の「自分はその他大勢ではなく、個として大切にされたい」という気持ちに寄り添った接客が一流の接客だと思います。その積み重ねが「この子が頑張っているから応援したいな」「このようなCAがいるならばまた乗ってもいいかな」という感情に繋がっていくのです。

サービス要員の数が多ければ、物理的に手厚くきめの細かい対応は可能です。しかし、そのような環境がない場合でも、お客さまに「個」を感じていただけることはないか?工夫できることはないか?と常に考えていたような気がします。

特に、「接客の品質」を企業ブランドにしている組織では、「基本的に良くて当たり前」なんです。だからこそ、いつでも目の前のお客さまの望みはなにかと考える一流の接客が求められているわけです。

――一流の接客はやはり積み重ねが大事なのですか?

七條:長くやっているからといって良い接客ができるかというと、実は必ずしもそうではないと思います。逆に新人CAでも一流の感性をもっている人もいました。

一流の接客は常日頃からの意識によるものが大きいのです。人間の行動には必ず理由があって、なぜ今、ああいう行動をとったのかを想像する習慣。そのようにして感性を研ぎ澄ませていくことができていれば、勤務歴の長さはあまり関係ないように思います。

――なるほど。

七條:お客様の気持ちを見過ごしたくないのです。だから常にアンテナを張っていますし、エコノミークラスの通路を歩いているときも、反対側の通路の奥の席までちゃんと顔を見ています。

ご用のない人は下を向いて寝ていたり、本を読んだり、テレビ画面を見ている人がほとんどですが、用事がある人は顔を上げていることが多く、目が合うんですね。そのとき、CAは「なんか呼んでいるな。でも反対側の通路だし…」と思ってやりすごすのではなく、「今そちらに行きますね、お待ちください」とアイコンタクトでお客様にお伝えします。

もちろん、反対側の通路に行くまでに他のお客様に声をかけられ、「すぐにうかがえずに申し訳ございません!」というときもありました。でも、気付いたときは、「今行きますので待っていてくださいね」というサインを送ることでご安心いただく。そのようにすることが基本姿勢ですね。

(後編に続く)

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