トルコはテロの連鎖を断ち切れるのか

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2016年12月15日 17:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<12月10日、イスタンブルの中心部にあるサッカースタジアムで爆破テロがあり46名が死亡した。トルコでのテロは、なぜ急増し、いかに食い止めるのか>


イスタンブル中心地でのテロ


 2016年12月10日、イスタンブルの中心部にあるプロサッカーチーム、ベシクタシュ・フットボールクラブのスタジアム周辺で2度の爆破テロがあり、12月14日時点で死者は少なくとも46名に上っている。その内38名は警察関係者と報道されている。爆破は、ベシクタシュとブルサ・スポルの試合後、観客の多くがスタジアムを後にしつつあるタイミングで起こった。


 ベシクタシュはポルトガル代表のリカルド・クアレスマなどを擁する、トルコスーパーリーグでガラタサライ、フェネルバフチェと並ぶ人気チームである。スタジアムのボーダフォン・アリーナは2013年に完成したかなり新しいスタジアムである。その前はトルコ共和国第二代大統領のイスメト・イノニュ(彼自身、ベシクタシュのファンでスタジアムの建設に着手した)の名をとったイスメト・イノニュ・スタジアムを使用していた。


 スタジアムの場所は一貫して同じベシクタシュ地区で、ここはイスタンブルの目抜き通りであるイスティクラル通りと金閣湾の間に位置する絶好のロケーションである。近くには、ドルマバフチェ宮殿や高級ホテルのコンラッドやチュラン・パレスなどがある。トルコ国内の人気ではガラタサライ、フェネルバフチェの後塵を押しているが、スタジアムの場所は最もイスタンブルの中心に位置している。


【参考記事】不安定化するトルコで、拡大する内務省の役割


TAKとはどのような組織か


 事件から1日経った11日、非合法武装組織である「クルディスタン労働者党(PKK)」との関連が噂される「クルディスタン自由の鷹(TAK)」が犯行声明を出した。


 TAKは都市部でのテロ活動を特徴とし、2005年に観光地であるクシャダシュ、2006年にマラトゥヤ、2010年にイスタンブル、そして2015年12月でイスタンブルのサビハギョクチェン空港でテロを実行している。さらに2016年2月と3月にアンカラの中心部で立て続けにテロを実行し、それぞれ28名、37名が死亡した(表1参照)。


 TAKのテロは基本的にトルコの治安組織である軍や警察を狙ったものが多い。ただし、今年3月のアンカラでのテロや今回のイスタンブルのテロのように、人混みの多い場所でテロを実行するため、一般市民が巻き込まれるケースが多い。今回のイスタンブルのテロでも8名の一般市民が命を落としている。


 TAKはPKKの関連組織とされるが、TAKがPKKの傘下にあるのか、PKKと目的は一致しながらも単独で行動を行っているのかなど、はっきりしない部分が多い。


テロをいかに食い止めるか


 トルコにおけるテロは、表1にあるように2015年6月からの1年半で急増している。この背景には、2015年7月にPKKが2013年3月からトルコ政府と進めていた停戦交渉を破棄したこと、また、トルコ政府が「イスラーム国(IS)」に対して空爆を開始したことがあげられる。ISに関しては、基本的にトルコ人のISメンバーがトルコ人とクルド人の分断を狙ってクルド人を狙ったテロ、もしくは外国人観光客を狙ったテロが多い。


【参考記事】トルコ政府とPKKとの抗争における「村の守護者」の役割


 しかし、今年6月末に起きたイスタンブルのアタテュルク国際空港でのテロのように、トルコのISメンバーではなく、外国人メンバーによる無差別テロにも警戒が必要である。このように、トルコ政府は対テロという観点では、現在、TAK、IS、トルコのISという3つの組織に対して最大限の警戒態勢を敷いている。


 ボーダフォン・スタジアムでのテロを受け、与党の公正発展党、第2政党の共和人民党、第3政党の民族主義者行動党の間で対テロ対策に関する党首会談が12月14日に実施され、3党は対テロに関しては一致団結していくことを確認した。また、同日、エルドアン大統領が「全てのテロ組織に対する国民の動員」を宣言した。


 これは、PKK/TAK、IS、7月15日のクーデタ未遂に深く関与していたと言われているギュレン運動、そして極左組織のDHKP-Cなどのテロは治安組織だけでは防ぎきれないので、情報提供など、国民1人1人が積極的に対テロ戦争に協力するという内容であった。このように、軍、警察、国家情報局(MİT)、そして国民が連帯してテロを防いでいくことが確認された。


【参考記事】トルコという難民の「ダム」は決壊するのか


 テロの頻発は観光業や為替などにも大きな影響を与える。トルコとPKKの抗争は最近激しさを増しており、ISとシリアのクルド勢力の駆逐を目的としたトルコ軍のシリア越境作戦(ユーフラテスの盾作戦)も継続している。そのため、ISとTAKは今後もトルコでテロを実施するだろう。そうしたテロを国家一丸となっていかに未然に防ぐことができるのか、トルコのテロ対策は正念場を迎えている。



今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)


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