超有名レストラン「ノーマ」初の姉妹店はカジュアルに進化

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2016年12月21日 11:21  ニューズウィーク日本版

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<世界一と評される超有名レストラン「ノーマ」のカジュアル版姉妹店「108」が、コペンハーゲンに今年オープン。北欧料理の技法を取り入れた独創的な料理をカジュアルに楽しめる店には客が途切れない>(写真:サバの塩漬けはマツ科のオイルソースで森の香り)


 9月のある深夜、クリスチャン・バウマンの友人たちが彼の誕生日パーティーを催していた。音楽がガンガン響き、スパークリングワインは回し飲みだ。


 バウマンは、デンマークの首都コペンハーゲンに開店したばかりの話題のレストランのシェフ。彼はパーティーの間ずっと笑顔を絶やさないが、その重たげな肩は違う表情を見せていた。30歳になったばかりの彼がいま一番望んでいることは......ベッドで眠ることだった。


 7月末にレストラン「108」を開店して以来、バウマンは1日16時間、週7日間働きづめ。野心的な新レストランのシェフならそう珍しいことではないが、バウマンの場合、ほかにはないプレッシャーにさらされている。108は、世界一とも評される超有名レストラン「ノーマ」のカジュアル版姉妹店。バウマンの師は、ノーマの天才シェフであるレネ・レゼピだ。


 108のシェフとして、バウマンはノーマのイメージを壊さずに自身のスタイルを作り上げるという綱渡りをしなければならない。しかも108はノーマからわずか100メートルの場所にあるから、そのすべてを師匠のお膝元でこなす必要がある。


「途方もないことだよ」と、開店から6週間のバウマンは言う。「営業時間に報道対応に予約対応。時間感覚も空間感覚も全部吹っ飛んだみたいだ」


スパイスを利かせた子羊のロースト Mikkel Herbia for 108


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予約なしの客も受け入れ


 旬真っ盛りで地元に即した素材を最大限に生かす――そんなノーマのやり方を、バウマンも踏襲している。一方で、自らの味覚を信じて、そこにレモン汁やしょうゆを加えることもためらわない。


 レゼピがノーマ初となる姉妹店の担い手に彼を指名したのは、新路線を切り開くための静かな強さをバウマンが持ち合わせていたからだ。「彼は人の意見をよく聞き、批判もしっかり受け止める。戦う男でもある」と、レゼピは言う。


 108は今年1月、期間限定店として登場。好意的な評価が大半だったが、バウマンは開店の瞬間から計り知れない注目の高さに圧倒された。「うちのソムリエが言っていた。『私たちはモンスターを生み出してしまった。今度はこいつのコントロール方法を学ばないと』ってね」と、バウマンは言う。


 それに加えて彼は、料理の独創性においてレゼピから距離を置く方法も学ばなければならない。レゼピの下で働く間は、レゼピの求める味を理解し、追求することが重要だった。レゼピの味覚を知ることに多くのエネルギーを費やし、自らの味覚を表現することはなかなかできずにいた。「違う方向に行きたいのは分かっていたが、それをどう表現すればいいか分からず、迷った」と、バウマンは言う。


 皮肉なことに、彼は最もノーマらしいやり方で自分の道を取り戻した。森を探索しての「狩猟採集」だ。メニュー作りでは子羊の肩肉料理に合う素材を探し歩いた。リンシードと味噌を合わせたたれを200キロ分も使って試行錯誤した末に、もっと身近な発酵プラムを使ったソースを編み出した。


 7月に常設店舗を開店する頃までには、手堅いメニューの数々が完成した。新鮮でモダンながら、くつろげる品々だ。


 価格と手軽さでは、108はノーマよりはるかに上を行く。カフェコーナーでは朝にはコーヒーとペストリーが、夜にはワインが楽しめるし、最近ではランチプレートも始めた。100クローナ(約15ドル)という衝撃の庶民価格だ。何カ月も前から予約が取れないノーマと違い、予約なしの客のための席も空けてある。


見た目も意外なブルーベリーアイスのデザート Mikkel Herbia for 108


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森の香りも楽しむ魚料理


 108は北欧の技法をたっぷりと取り入れている。狩猟採集、発酵、酢漬け、燻製......これらを駆使して、独創的であると同時に心地よい料理を生み出す。


 アラカルトメニューでは宝石のような小皿料理と、肉や魚のメイン料理が組み合わされている。小皿料理では、サバの塩漬けが圧倒的な人気だ。見た目はとてもシンプル。新鮮に光った三角形の切り身が、マツ科トウヒで作られたエメラルド色のオイルの上に並んでいる。


 サバはパインソルトに短時間漬けてあり、塩漬けグーズベリーのトッピングが加わる。おかげで海の味わいとともに森の香りを楽しめる一品に。甘く、しょっぱく、新鮮で刺激的な味だ。


 3つのメインのうち、子羊肩肉のローストは、よりバランスが取れている。ピリッとしたエルダーベリーのケッパーが、燻製バターでコクを出した柔らかな肉にアクセントを添える。


 味噌パン粉がけのアンコウのグリルは、ニスを塗られたようにつやつやになって運ばれてくる。魚の甘い味わいは広葉樹の燻製で引き立てられている。


 最後は、サワードーのコーンに色鮮やかなブルーベリーアイスがたっぷりのったデザート。本格的な料理は、変化球で締めくくられる。


 ノーマの殻をも破る独創的な料理にカジュアルな雰囲気とあれば、客が途切れないのも無理はない。バウマンの多忙な日々は、当分終わりが見えなそうだ。



[2016.12.20号掲載]


リサ・エイベンド


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