「金スマ」出演で話題の発達障害のピアニスト・野田あすかが生み出す音色の秘密

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2016年12月22日 19:02  新刊JP

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『脳科学者が選んだ やさしい気持ちになりたい時に聞く 心がホッとするCDブック』(アスコム刊)
先日、放送されたテレビ番組「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(TBS系)で、一人の女性ピアニストが取り上げられ、リサイタルのチケットが完売するなど、大きな話題となっている。

野田あすか、34歳。
数々のピアノコンクールに入賞してきた彼女のピアノの音色は、たくさんの観客の心を打ち、涙を誘う。10月19日には東京・王子ホールで、自身初となる東京でのソロコンサートを開催し、見事会場を人で埋め尽くした。

野田あすかの演奏を初めて聞く人ばかりだったが、拍手が鳴り止まず、しばらく会場は興奮に包まれた。聴衆からは「心地よくて、ずっと聴いていたい」「心が元気になりました」「自然と涙がこぼれた」などという声があり、そのなかでも多かったのが「心がホッとしました」「心が穏やかになりました」という声だった。

なぜ、野田あすかのピアノの音色は、「心がホッとする」のだろうか。

彼女は自身で作曲をするのだが、その曲のモチーフとなるのは、すべてそのときの彼女の感覚であったり感情であったりする。物に触れたときの感覚、そのとき抱いている感情や気分。それらをそのままピアノで表現するのだ。

たとえば、「金スマ」でも放送され注目されている「なつかしさ」という曲は、野田あすかが小さいころに住んでいた大好きな街を思って作った曲だ。のどかで自然にあふれた街。そして、両親とお兄さんが一緒に生活をして、いつもみんなに守られていた野田あすか。いま当時を振り返ると、変わらなかった日常が、とてもいとおしく、なつかしい気持ちをメロディにした。

「金スマ」では、「眠い」という気持ちを表現したやさしいメロディから、「でも、がんばりたい」という意志を込めた明るいメロディに転調する即興曲をピアノで披露。自分の気持ちを言葉で表現することが苦手な彼女だが、ピアノだったら表現できる。即興曲は野田あすかの心の声がそのまま表れ、その時の彼女にしか作れない曲なのである。

こうしたことができるようになったのは、野田あすかが「広汎性発達障害」(自閉症スペクトラム障害)という先天的な発達障害を抱えて、壮絶な子ども、青春時代を送ってきたからとも言える。

集団になじむのが苦手で、コミュニケーションがうまくできない。好きなもの、興味のあるものにはずっと没頭する。そんな振る舞いから、いじめにあったり、自傷を繰り返したりと壮絶な少女時代を送ってきた。

猛勉強をして現役で入学した宮崎大学も、ストレスやパニックで中退せざるを得なくなった。その後、発達障害の二次障害である解離性障害が起きたときは、精神病院に入院し、その原因はピアノではないかと医師から大好きなピアノを遠ざけられたこともあった。

22歳になるまで、本人も両親も発達障害だと分からなかったため、どうしてまわりの人と同じことができないのだろう、と悩み苦しむ日々が続いた。

憧れて入った大学も、ピアノも、音楽も、そして自分という人間さえも、完全に否定されてしまった野田あすか。そんなときに出会ったピアノの恩師に言われた一言が彼女を変えた。

それは、「あなたのピアノの音は、いい音ね。あなたは、あなたの音のままでとても素敵よ。あなたは、あなたのままでいいの!」という言葉だ。

自分を否定し、あきらめることしか考えられなかった野田あすかを、恩師が初めて否定をせず、「ありのままでいい」と言ってくれたのだ。この言葉で自分を認めることができるようになった野田あすかは、ピアニストとして大きく開花する。

だから、彼女のピアノの音色には「ありのまま」の野田あすかが投影されていて、聞き手も「自分も、ありのままでいいんだ」ということに気づく。人よりもたくさん苦しい思いや悲しい思いをしたからこそ、人に寄り添うやさしい音が出せるようになったのでは、と恩師は言う。

脳科学者・中野信子は、野田あすかとの共著『脳科学者が選んだ やさしい気持ちになりたい時に聞く 心がホッとするCDブック』(アスコム刊)の中で、野田あすかのピアノの音色を通して、自分のさまざまな気持ちに気づき、見つめなおしてほしいと述べる。

自分のありのままの心や気持ちに気づき、その気づきで自分をいっぱいに満たす「マインドフルネス」。そのことで自分の心がどのようであるかを知り、よりよく生きることにつながると言う。このCDブックには、野田あすかの自作曲10曲が収録されている。

現代社会は、自分の感情を抑えて振る舞うことが「当たり前」とされ、ストレスはたまっていく一方だ。だからこそ、心をありのままに表現したピアノの音色は、私たちの心にダイレクトに響くのかもしれない。

また、両親との共著である『CDブック 発達障害のピアニストからの手紙 どうして、まわりとうまくいかないの?』(アスコム刊)にも、彼女の自作曲が収められたCDが収録されている。
現在、野田あすかはピアニストとしての単独のリサイタルとは別に、母親が「発達障害の娘との30年」というテーマで講演をして、野田あすかが演奏をするという依頼が増えているという。

来年3月16日には、浜離宮朝日ホールでのコンサートが決まった野田あすか。3月18日に同じ浜離宮朝日ホール公演のチケットは即日完売となり、16日に追加公演が行われることになった。

何かとストレスの多い毎日の中で、彼女のピアノの音色はそっと心に寄りそってくれる支えになるはずだ。

(新刊JP編集部)

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