いつまで“男の食べ物”なのか? ラーメンと女性の埋まらぬ距離

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2016年12月28日 15:52  mixiニュース

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写真:Rawpixel / PIXTA(ピクスタ)
「ラーメン」と「女性」。皆さんはこのキーワードで検索したことがありますか? 検索結果には「女性1人でも怖くない(ラーメン屋)」「女性でも入りやすい」「お一人様歓迎」といった文言が並びます。国民食と言われながら、なぜラーメンと女性との間には一定の距離があるのでしょうか。その真相を探ります。

「女性向けラーメン」に潜む罠

突然ですが、女性の皆さんに質問です。次の5つのラーメンについて、食べたいと思う順位を教えてください。男性の皆さんは女性の順位を予想してください。
A・半熟卵、チャーシューなどが盛られた「王道の和風ラーメン」
B・野菜をオシャレに盛りつけた「ヘルシー志向のラーメン」
C・奇抜なスープが目を引く「変わり種つけ麺」
D・チーズの香りが食欲をそそる「濃厚ラーメン」
E・イタリアンテイストの「和洋折衷ラーメン」
答えは決まりましたか。実はこの質問、2011年に「新横浜ラーメン博物館」が大学生に実施した“ラーメン観”調査の1つです。

気になる結果ですが、男性の予想はバラついた一方、女性の回答は「A」が断然のトップ。続く「E」「B」に4〜5倍の票差を付ける圧勝でした。

かくして浮き彫りになった男女の意識差。その要因について、新横浜ラーメン博物館の広報・中野正博さんは次のように説明します。

「比較的オーソドックスな『A』が支持されたのは、そもそもラーメンを食べる頻度が少ないだけに『どうせなら“これぞラーメン”というものを食べたい』と多くの女性が考えた結果です。女性はいざラーメン店に行けば、ハイカロリーだろうとこってりだろうと、さほど気にしません。けれども、男性はそこになかなかピンと来ない。どうしても『野菜』『ヘルシー』『カフェっぽさ』などのキーワードを女性と結びつけがちで、それが『B』〜『E』を1位と予想した票の多さに現れています」

こういった発想に陥りがちなのはプロも例外ではないとか。「ラーメン女子博」プロデューサー・森本聡子さんは、男性目線で作られた女性向けラーメンに懐疑的な見方を示します。

「よくありがちなのが、マーケティングから導き出した急ごしらえの女性向けメニューで失敗するパターンです。女性は普段食べないからこそ、『その店の渾身の一杯を味わいたい』との心構えでラーメン店に来ています。それだけに、一朝一夕にこしらえたパスタ風ラーメンなどを提案されると、『それならパスタ屋に行くよ!』と不満を感じてしまうわけです」

女性が“本当に求める”ラーメン店の形

画像提供:新横浜ラーメン博物館
イタリア・ミラノから上陸したラーメン店「CASA LUCA」。「優しい色使いのフロアデザイン」「荷物入れを常備」「女性スタッフが複数」「ベビーカーの入店可」といった条件が整い、女性客の人気も高い

メニューの女性向けアレンジがマストでないのなら、他にどういった点を工夫すべきなのでしょうか。「ラーメン女子博」プロデューサー・森本聡子さんに女性の集客に繋がるポイントを挙げてもらいました。
1. 駅から近い
2. 荷物の置き場がある
3. 隣同士で窮屈さを感じない余裕のある席
4. 店内に清潔感がある
5. スタッフが親しみやすい(女性もいると尚良い)
6. スイーツやかき氷などのサブメニュー
「男性の場合、ラーメンの味が店選びの決め手になるかもしれません。ただ、女性の多くは味より重視したいことがあります。そのニーズを捉え、店作りの優先順位を柔軟に変えていけるどうか。それが女性客を伸ばすためのポイントになるのではないでしょうか」(森本さん)

森本さんの実感では近年、東京を中心に女性の求める実用性を満たしたラーメン店が少しずつ広がりを見せているとか。とはいえ、ラーメン店が女性に向き合い始めたのは、そんなに最近のことなのでしょうか…?

ライターの速水健朗氏は著書「ラーメンと愛国」で、90年代後半に業界の新潮流を作った和テイストの店を引き合いに出し、ラーメン店が女性に向き合い始めたきっかけに言及しています。
“ラーメンのコンセプトに和が持ち込まれたのは、女性客がターゲットとして意識されたからである。バブル崩壊後の個人消費の落ち込みもあり、この時代は、新規客層獲得を目指し、女性の取り込みに力を入れる流れが多くの業界で生まれていた”
(速水健朗「ラーメンと愛国」P212より)
カウンターメインだった店内にテーブル席が増え始めたのも、ちょうどこの頃。「ご当地ラーメン」ブームを契機に徐々に広がり、家族層の取り込みにも繋がっていきました。つまり、“ラーメン=男の食べ物”から脱する動きは、約20年前から始まっていたのです。

ラーメン店は女性集客に注力していない?

ラーメンと女性。両者を近づける動きは、少なくとも20年前から存在していたにもかかわらず、今なお一定の距離があります。

その理由について、「女性ニーズの見誤り」との見方がある一方、女性の食習慣との相性の悪さを指摘する声もあります。

「そもそもラーメン店は、食後にドリンクを飲んでくつろぎ、会話を弾ませるような場所ではありません。そのため食事にコミュニケーションを求める女性の食習慣が、ラーメン店の利用頻度の低さに繋がっているように思えます。根本的に男女で食事の目的は異なりますし、それに合わせたサービス提供も当然のこと。たとえば女性比率9割を超えるカフェが男性客の取り込みに注力しているかというと、そうではないと思います」(新横浜ラーメン博物館の広報・中野さん)

フードライター・佐々木正孝氏も同様の指摘をした上で、「ラーメン店の女性客率の低さ=女性客の取り込み失敗」とする見方に異論を唱えます。

「ラーメンは雑誌で言えば男性誌です。顧客の一部に女性もいるでしょうが、基本的には主要ターゲットである男性のみでビジネスが成立している。したがって、女性客の比率が高くないことは当たり前で、それを“女性客の取り込み失敗”と捉えることには違和感があります」

さまざまな見方が交錯するラーメンと女性を取り巻く現状。一つだけ確かなのは、双方の間に今なお一定の距離感があるということでしょう。

これは工夫次第で埋められるものか、それともあって当然のものか。検索しても答えの出ない国民食を巡る疑問、皆さんはどうお考えですか?

●構成・文/編集部


【取材先情報】
●新横浜ラーメン博物館
世界初のフードアミューズメントパークとして1994年にオープン。国内屈指の人気店から世界各国の注目店も集結。「昭和33年の下町」を再現したレトロな空間に計9店のラーメン店が並ぶ。

営業時間:11:00〜22:00 日曜・祝日10:30〜(日によって変動)
所在地:神奈川県横浜市港北区新横浜2-14-21
HP:http://www.raumen.co.jp/

●森本聡子さん(もりもと・さとこ)
タレント、「ラーメン女子博」プロデューサー。年間600杯以上のラーメンを嗜み、豊富なラーメン知識をもとにテレビや雑誌、WEBメディア等で活動。また、女性向けのラーメン店が集結する「ラーメン女子博」を開催。女性が一人でラーメンを食べるカルチャーの普及に尽力する。

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