話題のNスペ「ママたちが非常事態!?」が書籍化 ――最新科学で「育児の問題」を読み解く

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2017年01月13日 12:02  MAMApicks

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NHKスペシャル『ママたちが非常事態!? 〜最新科学で迫るニッポンの子育て〜』が書籍化された。2016年1月に放送され、当サイトでも放送前に取り上げて話題を呼んだ番組だ。
【プレビュー】NHKスペシャル『ママたちが非常事態!? 〜最新科学で迫るニッポンの子育て〜』 ――産後・育児の孤独とイライラに科学で切り込む
http://mamapicks.jp/archives/52193866.html
放送後、番組を見たママたちからの大きな反響を受けて、すぐさま第二弾が制作・放送されたのだが、書籍には2回にわたって放送された内容に加えて、紹介しきれなかった情報や、取材の裏話などが収録されている。


今回は出版元であるポプラ社にて、編集担当の斉藤尚美さんと営業企画部の土橋恵さんに、書籍化に至るまでの経緯や本書制作上の裏話などを伺った。

■番組を見て流した涙が、書籍化へのきっかけに
―― どんな経緯で番組を書籍化することになったのでしょうか?

斉藤さん(以下、敬称略):放送の翌日に営業の土橋から、「あの番組、ぜひうちで書籍化しましょう!」と熱く語られたんです。私も見ていたのですが、私自身は子育て経験がないので、もっと冷静に見ていたんですね。でも、子育て真っ最中の土橋にはダイレクトに刺さったようで。

土橋さん(以下、敬称略):「なんの地獄かと思った」という、番組に出てきたママの一言に涙が止まらなかったんです。そういう“マイナスの言葉”って、育児において聞くことがないというか、口にしてはいけない言葉だというイメージが私自身の中に強くあって……子育て中にそういう言葉がふっと頭に浮かんでしまったとき、瞬時に打ち消さなければいけない、こんな風に感じてしまう自分は母親失格だ、と勝手に思い込んでいたんです。でも、自分で無理やり打ち消していた叫びが番組で取り上げられているのを見て、「あ、そういう風に思ってもよかったんだ」と許してもらえたような気がして、なんだかとても楽になったんです。

―― 土橋さんご自身も子育ての中で、地獄のような経験をされたんですか?

土橋:私は小さなころから保育士になるのが夢で、子どもと遊ぶのが大好きでした。だから、子育てに対しても、「私なら上手にできるはず!」と勝手に自信を持っていたんです。幸い自分が欲しいと思ったタイミングで子どもを授かり、順調にママとしての一歩を踏み出したはずでした。でも、産後すぐに待っていたのは、“おっぱい地獄”と“寝られない地獄”で……。うまく授乳できないし、体重は思うように増えないし、なかなか寝てくれないしで、根拠のない自信はあっという間に崩れ去ってしまったのです。

今思うとすべて初めてのことなんだから当たり前なのですが、なぜか「すべて完璧にやらなくては」と思ってしまっていたんですよね。思い通りにいかないことばかりで、「私か子どもか、どちらかに問題があるんじゃないか?原因は何なのか?」と、毎日一人問い続ける日々でした。今思えば、そんな風に苦しんでいたのはごく短い期間のことだったのですが、そのときはいつまで続くかわからなくて、本当に不安でした……。

この本の帯にあるコピー「大丈夫。ママのせいではないのです」は、当時の自分が一番欲しかった言葉です。

―― 番組では、産後ママが感じる孤独や不安の理由や、夜泣き、人見知り、イヤイヤ期といった育児の問題を、科学的な切り口で読み解いていましたね。

土橋:初めての育児って、泣き止まないのも寝ないのも「自分のせいなんじゃないか?」と、つい自分を追い込んでしまいがちですが、科学的にその理由を説明されると、「なんだそうなのか、それなら大丈夫よね」って思えるんです。もちろん理由を知ったところで夜泣きがおさまるわけではないのですが、自分のせいでも赤ちゃんのせいでもないとわかるだけで、精神的なつらさは少し和らぎますよね。番組を観た時、「これを知っていたら自分はもう少し力を抜いて子育てできたかもしれない」と感じたので、「これは絶対に本にして今子育てに関わっている人、これから関わる人たちにも届けなければ!」と思いました。

―― 書籍化権の獲得にあたって、コンペがあったそうですね。

斉藤:NHKスペシャルからは多くのベストセラーが生まれているので、「これは!」という番組は複数の出版社で競合になることが少なくありません。「ママたちが非常事態!?」は反響が大きかったこともありとくに競合が多かったと聞いています。コンペには営業の土橋も同行して、ママ当事者としての熱い思いを前面に出したプレゼンをしてくれました。そのおかげもあってか、無事に書籍化権をいただくことができました。営業担当がここまで企画に前のめりなことは弊社でもあまりないのですが、その熱さが伝わったのかもしれません。

■子育て真っ最中の女性ディレクターによる執筆
―― 執筆はNHKのディレクターさんが担当されたんですよね。

斉藤:番組の企画提案をした女性ディレクターの小林欧子さんと、科学番組を数多く手がけられているベテランのチーフディレクター・兼子将敏さんのお二人が執筆されています。おもに現場取材やママの気持ちに寄り添った部分を小林ディレクターが、それを最新科学で読み解くという部分を兼子チーフディレクターが担当されて、リレー方式で構成しました。

そもそも「ママたちが非常事態!?」は、小林ディレクターがご自身の子育ての中で直面した苦難や憤慨から生まれた企画なんだそうです。「人間の子育てはなぜこんなに大変なのだろう、しかも世の男性は何もわかってない!」と。

あとがきでチーフプロデューサーの浅井健博さんが書かれていますが、そんな憤りが激しくぶつけられた企画書を見て、「あまりの熱量の大きさにたじろいだ」とのことでした。

―― 子育て当事者から上がった企画だったからこそ、これほどまでにママたちの共感を得られたのでしょうね。

斉藤:小林ディレクターは、「こんなに大変なのに、私はなぜ子どもを育てるのだろうか」というご自身の問いかけに対して、最後は「子どもを育てることが、幸せなことだから」と答えていらっしゃいます。この本は、小林さんがその答えにたどり着くまでの壮大な旅の記録という側面もあると思います。

もう一人の執筆者である兼子チーフディレクターは、当事者とは一歩離れた視座から、「子育てを科学」することへの純粋な好奇心をモチベーションに番組の制作に取り組まれたそうですが、取材を重ねる中で、この視点が今の日本の育児が抱える問題を読み解く重要な鍵になると気づかれたそうです。

―― 企画そのものへの目線や思いが異なるお二人によって、この番組が生まれたというわけですね。

斉藤:その絶妙な組み合わせを本でも感じていただければと、小林さんの文章を明朝体、兼子さんの文章をゴシック体で記載しています。




■今の自分もきっとこんな顔をしているかも…… リアルさ漂う表紙のビジュアル
―― 表紙のビジュアルはどのようにしてこの形になったのでしょうか?

斉藤:デザイナーさんから上がってきた案が5、6パターンあって、そのうちのひとつがこれのもとになっています。もっとビジネス寄りなイメージの、文字だけで見せるシンプルなパターンもありましたし、家の窓についた水滴とか、散らかった誰もいないキッチンといった、ママの不安を暗示的に表現したものもあったんですが、不安を抱えたママにストレートに訴えかけられたら、と。


土橋:初めてラフを見たとき、「あ、私きっとこんな顔していたんだろうな」と思ったんです。暗い表情なので反対意見もあったのですが、社内のママたちの意見も聞きながら、このビジュアルに決定しました。

―― 赤ちゃんを抱っこしているママって、もっと幸せな顔をしてなきゃいけない、みたいな呪縛がありますよね。だからこそ、表紙でこんな表情を見せられるとハッとします。

斉藤:表紙は今井麗さんという油絵画家さんに描いていただきました。今井さんもちょうど3人目のお子さんを妊娠中で、「この番組、周囲でものすごく話題になってました」とおっしゃっていて。ママ当事者の不安な気持ちを知っている方だからこそ、リアルな表情が描けたのではないかと思っています。

■これから母となる人、そしてその周りの人たちに、この本を届けたい
―― 土橋さんのお子さんは今おいくつですか?

土橋:息子は今3歳です。やんちゃ盛りで大変ですが、出産直後の何もかもを抱え込んでいた時期に比べたら、いろいろと手を抜きながら(笑)楽しんで子育てしています。

―― 番組を見たのは、一番つらい時期を乗り越えてからだったわけですね。できればその時期に読みたかったと思われますか?

土橋:難しい質問です。一番苦しんでいた時期は本を読むどころか、本屋さんに行く余裕すらなかったので……。でも出産前にこの本に出会えたらよかったなあとは思います。

斉藤:じっくり読めないママたちのために、赤字の部分だけ読んでもある程度ポイントがわかるようになっています。飛ばし読みでも構わないので、お守りがわりにおすすめです。


土橋:渦中にいるママたちはなかなか本屋さんに行く機会も持てないかもしれませんが、今はネットを通して注文することもできます。妊娠中のママやその旦那さん、「最近の子育てはわからない」というおじいちゃんやおばあちゃんにも、ぜひおすすめしたいです。

私自身、以前は“おせっかい”ってイヤだなあと思っていたのですが、子育てをしていると、「おせっかいもいいものだな」と思える瞬間が多くなったんです。電車の中で息子が泣いてしまったとき、近くにいたおばちゃんが「あらあら大変ね」なんて声をかけてくれただけで気持ちがふっと楽になる。みなさん自分も大変だったからこそ、あれこれおせっかいしたくなるんですよね。

私にとっては、この本をこうして世に出せることが、今できる最大のおせっかい。この本が、苦しんでいるママたちの心を少しでもほぐしてくれたらと願っています。

斉藤:経験則に基づいたアドバイスは時にバラバラで、何が正しいのか、どの情報を信じたらいいのか、迷ってしまうことも多いと思います。でもこの本に書かれていることは科学的根拠に基づいています。「はじめに」に書かれているように、「科学とは、そもそも人を幸せにするための真理を見つける学問」です。

これさえ読めば育児の問題が解決する、という本ではありませんが、読んで知ることで、気持ちが少し楽になる。子育て真っ盛りの方も、これからママになる方も、その周りにいる方も、ぜひこの本で「科学の目線」を取り入れていただけたらと思います。

ママたちが非常事態!? 最新科学で読み解くニッポンの子育て

加治佐 志津
ミキハウスで販売職、大手新聞社系編集部で新聞その他紙媒体の企画・編集、サイバーエージェントでコンテンツディレクター等を経て、2009年よりフリーランスに。絵本と子育てをテーマに取材・執筆を続ける。これまでにインタビューした絵本作家は100人超。家族は漫画家の夫と2013年生まれの息子。趣味の書道は初等科師範。

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  • 感情論のキレイな妄想しかせず、自らの幼少の記憶すら想起できないからでしょ。真に共感できる能力があれば、乳児と楽しく過ごせるよ。
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