露ハッキング喜ぶ中国――トランプ・プーチン蜜月を嫌い

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2017年01月17日 19:01  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 アメリカ大統領選中にロシアがハッキングをしていたであろうことを認めたトランプ次期大統領の初の記者会見を、北京は大喜びしている。トランプ・プーチン蜜月を阻止し、習近平・プーチン蜜月に引き戻したいからだ。


記者会見で、ロシアの関与を認めたトランプ次期大統領


 1月11日、トランプ次期大統領が、当選後初めて記者会見を行なった。大統領選中に行われたサイバー攻撃に関して、トランプ氏自身が「ハッキングに関してはロシアだと思う」と、ロシアの関与を初めて認めた。


 ただし、「アメリカは他の国からもハッキングを受けている」としており、また「自分自身はロシアとはまったく無関係だ」といく度も強調している。


 アメリカ大統領選におけるロシアによるサイバー攻撃に関しては、昨年12月29日(日本時間30日)に、オバマ大統領が、ロシアの情報機関とその幹部を制裁対象とし、国内に駐在するロシアの当局者35人に国外退去を命じる報復措置を発表し実施していた。


 大統領選期間中、民主党候補のヒラリー・クリントン氏の陣営などがハッキングの被害に遭い、大量のメールが流出した件で、ロシアが関与していたという報告書がアメリカのCIAやFBIなどにより出されていたからだ。


 それ以外に実はBuzzFeed(バズ・フィード)というウェブサイトが、元イギリス情報局者と名乗る人物が作成したトランプ次期大統領とロシアをめぐる調査文書を全文公開していた。この情報は裏付けがなく証拠不十分であるとされているのに、アメリカの大手メディアの一つであるCNNは、記者会見前夜の1月10日に、「ロシアはトランプに関して不利な情報も握っている」という調査文書の概要を、オバマ大統領とトランプ次期大統領に渡したと報じた。


 これに関してトランプ次期大統領は、「そんなものは受け取っていない」「これはまるで政治的魔女狩りだ」と激怒し、記者会見でもフェイク・ニュース(偽のニュース)を流したとしてCNNの記者には質問をさせなかった。


 これら一連のことに関して中国大陸のメディアは大きく取り上げ、「記者会見ではロシアのハッキング問題が焦点となった」と、さまざまな角度から報道している。


中央テレビ局CCTVが特集番組


 中国共産党がコントロールする中央テレビ局CCTVは1月12日から盛んにトランプ次期大統領の記者会見に関して報道し続けていたが、中でも1月14日のお昼のニュースで特集した特別番組は「習近平の心」をのぞかせているという意味で興味深かった。


 中国ではロシアのサイバー攻撃問題とトランプ次期大統領の関係に関するニュースを、「美俄"黒客門"」と名付けている。「美」は「美国(アメリカ)」、「俄」は「俄国(ロシア)」、「黒客」は「ハッカー」を意味する。「門」は「ウォーターゲート事件」以来、「ゲート」を「門」に置き換えて、「大きなスキャンダル」であるような事件を指す。


 CCTVの「美俄"黒客門"」特集では、中国国内外のさまざまなメディアの報道を「習近平国家主席が持って行きたい方向」に切り刻んで報道しているように筆者の目には映った。


 その主な骨格は以下のようなものである(中国語には一般に敬称がないので、報道にあった通り敬称は略す)。


1. どんなにトランプがプーチンを高く評価して仲良くしようとしても、米露間にある戦略的矛盾が消えることはない。


2. ロシア側のシンクタンクは、「トランプがどんなに望んでも、新しい関係改善はあり得ない」と分析している。


3. トランプがどんなにプーチンと仲良くしようとしても、アメリカにおける世論は「反ロシア」が根強いので、有権者が米露接近を許さない。


4. アメリカ民主党のヒラリー・クリントンはロシアの妨害で大統領選に失敗したと思っている。民主党の報告書では、アメリカの民主と安全がロシアにより脅かされたとしており、トランプとプーチンが同盟を結んで結託したとみなしている。トランプは就任したとしても、議会で弾劾される可能性さえある。


5. したがって、「トランプ・プーチン」による米露接近(蜜月)はあり得ない。


結局は習近平国家主席のやっかみと願望?


 各種の報道を切り刻んで編集したこの特集からは、習近平国家主席の「トランプ・プーチン」蜜月へのやっかみと警戒が伝わってきて、「習近平・プーチン」蜜月に戻るに決まっているだろうという願望が、じんわりとにじみでている。


 それはそうだろう。


 プーチン大統領がウクライナ問題でクリミアを併合したことに伴い、オバマ大統領はロシアへの経済制裁だけでなく、G8(主要8カ国首脳会議)からも外し、G7(先進国首脳会議)にしてしまった。孤立したプーチン大統領は、当然の帰結として習近平国家主席に接近し「習近平・プーチン」蜜月が形成されていたのだ。


 だというのに「恋人」をトランプに取られそうになっており、おまけに「恋敵」のトランプは「台湾は中国の領土の一部分」とする「一つの中国」大原則を侵そうとしている。


「一つの中国」は、中華人民共和国という国家にとっては、何よりも優先される核心的利益だ。今となっては「にっくきトランプ」が、「黒客門」で追い込まれている方が、せいせいする。


 アメリカにサイバー攻撃をかけている国の一つとして、「中国」が挙げられていることなど今は忘れて、「トランプ・プーチン」蜜月の到来を阻止しようと、習近平さんは必死なのである。


 つぎに來るパワーバランスを考察するのが楽しみだ。


[執筆者]遠藤 誉


1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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