【写真特集】世界が抱える環境移民という時限爆弾

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2017年01月18日 18:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<環境の悪化で都市へ移住する人々の現状を世界各地で追った>


 環境の悪化や気候変動による自然災害などのため住む場所を離れなければならない「環境移民」。彼らは不発弾のような存在であり、遠くない将来、世界はその経済的・社会的な負担に直面するだろう。


 現在5000万人いる環境移民は50年までに45人に1人、つまり2億人に上るとされている。その90%は途上国の人々。彼らは豊かな国ではなく、自国の都市部へ移り住んで新たな収入の道を探ろうとする。08年には史上初めて世界の都市人口が農村人口を超えたが、今後は気候変動と環境移民で都市部はさらに肥大化していくだろう。


【参考記事】排気ガスを多く浴びると認知症になりやすい? カナダ研究機関の調査結果で


 写真家アレッサンドロ・グラッサーニは、迫りくる環境移民の問題について長期取材を行った。目的は、地球と都市の環境がどのように悪化しているかを人々に知ってもらうこと。そして都市へと移る環境移民たちの物語を記録し、社会に与える深刻な影響を明らかにすることだ。


 モンゴル、バングラデシュ、ケニア、ハイチは環境移民によって最も打撃を受ける国々だという。グラッサーニもこれらを取り上げ、厳しい環境と闘う地方の人々と、首都のスラムで暮らす貧しい環境移民の姿を対置している。近い将来、状況はさらに危機的になるはずだ。


KENYA/ETHIOPIA


ケニアの農村人口は気候変動により、アフリカの中でも特に深刻な打撃を受けている。干ばつに加え、牧畜の餌や水をめぐる部族間の抗争に苦しむ人々は、首都ナイロビでのよりよい暮らしを夢見る。09年の国連人間居住計画の発表によれば、ナイロビにいる環境移民の74%が91〜08年に移住してきた人々だ


セイス村(エチオピア)


エチオピアのマリル族が住む地域では日照りのせいで食べ物も飲み物もなく、日々、何十頭という動物が死んでいく


ナイロビ(ケニア)


首都ナイロビでは面積の5%を占めるスラムに人口の約60%が密集。アフリカ最大級とされるキベラスラムでは、約100万人が非人道的な環境下で暮らす。気候変動や環境移民の影響を受け、ナイロビの人口は急速に増加している


ナイロビ(ケニア)


ナイロビ第2のスラムであるマサレの人口は約50万人。この辺りではトタン小屋に交じって、1つの部屋に多くの人がひしめいて暮らす建物が並ぶ


BANGLADESH


バングラデシュは世界の中でも特に、深刻な気候変動の影響を受けている国だ。首都ダッカには毎年30万人が新たに流入し、その多くは環境移民。現在の人口は1400万人だが、2050年までに5000万人に膨れ上がると見込まれている


ガンジス・デルタ


ガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川で構成するデルタのボンゴール中州には600家族が住む。中州は過去8年で4度、メグナ川の浸水に見舞われ、過去3年で広さは3分の2になった。このままでは1年半で消失し、人々は移住を余儀なくされる


ダッカ


市場カウランバザールのそばのスラムの光景。線路脇で何百人もの人々が暮らしている


MONGOLIA


モンゴルでは2010年の冬は特別に厳しく、全土で800万頭以上の羊や牛、馬などの家畜が死んでしまった。約2万人の遊牧民はやむを得ず首都ウランバートルへ移住。ウランバートルの人口は過去20年間で倍増している


アルハンガイ県


モンゴル特有の寒雪害「ゾド」で死んだ羊を引っ張るツァンバ・エルデネ・トゥヤ(29)。2000頭いた羊は3度の冬のゾドで半減してしまい、一家はぎりぎりの生活を送る


アルハンガイ県


エルデネ・トゥヤと3歳の息子トゥブチンジ。寝起きの息子が抱き締めているのは一緒に寝ている子羊。一家は最近、より温暖な気候を求めて北方のボルガン県からアルハンガイ県に移住してきた


ウランバートル


ウランバートルへの一極集中が進み、人口の半分に当たる120万人以上が居住する。そのうち半分が郊外のスラムであるゲル地区に暮らしている。同地区は無計画に広がり、水道や電気などのインフラも未整備だ。環境移民である元遊牧民たちの失業率も高い


HAITI


国連によれば、干ばつやハリケーン、洪水の頻度が高くなればなるほど、ハイチが受ける影響も増幅されていく。ハイチでは森林伐採が進み過ぎ、国土がほぼ丸裸だ。そのため自然災害の影響を受けやすく、農村部から都市部への人口流入も止まらない。首都ポルトープランスへは毎年、数千人の環境移民が流入。今ではこの街の外で生まれた住民が半分を占める


アズエイ湖


首都ポルトープランスから東へ60キロほどにあるアズエイ湖には、枯れたヤシの木々が残る。周


囲の家や農場をのみ込みながら広がり続け、面積は過去10年で倍になった。気候変動で降雨量が増えたことが主要因と科学者らは指摘している


アンス・ア・ピトル


ドミニカ国境のアンス・ア・ピトルの難民キャンプ。2015年に不法滞在者対策を強化したドミニカから追放された数百人のハイチ人が暮らす。このため干ばつなどを逃れた地方の人々は、大都市を目指すようになっている


撮影:アレッサンドロ・グラッサーニ


1977年、イタリア生まれ。広告業界で仕事を始め、国際イベントや社会的テーマを扱ってきた。個人的なドキュメンタリー・プロジェクトとして、主に気候変動や戦争が人々に与える影響について、長期にわたって取材をしている


Photographs by Alessandro Grassani-Institute


<本誌2016年8月16&23日号掲載>


≪「Picture Power」の記事一覧はこちら≫



Photographs by ALESSANDRO GRASSANI


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