オバマ、記者団に別れ「まだ世界の終わりではない」

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2017年01月19日 17:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプと入れ替わりに退任するオバマが最後の記者会見。トランプ時代になってもひるまず報道せよと記者たちを激励した>


 退任を間近に控えたバラク・オバマ米大統領は18日、ホワイトハウスで最後の記者会見を開き、国内外の多岐にわたる問題を国民に伝えてきた報道陣の努力をねぎらい、感謝の言葉を述べた。ドナルド・トランプ次期大統領を直接的に批判することは避けたが、会見はトランプの勇み足を牽制する場ともなった。


 オバマがメディアの健闘を讃えたのは、トランプが先週の記者会見でトランプがロシアに弱みを握られている可能性を報じたCNNを「フェイクニュース(デマ)」、同じくバズフィードを「ガラクタの断片」と決めつけたことに対する、さりげない当てこすりだろう。トランプ・チームは一時、記者会見の場所をホワイトハウスから別の場所に移すかもしれないと言っていたがそれは撤回、代わりに一部の記者を「指名」して出入りを許可するかもしれないと仄めかしている。


アメリカのために報道継続を


 これに対しオバマはメディアの役割を強調するように、「あなた方がいたことで、ホワイトハウスはより良く機能した」と記者団を讃えた。「粘り強く真相を探る報道姿勢を今後も貫き、この国が最善の形をとるようプッシュし続けて欲しい」


【参考記事】オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった


 トランプはロシアが核軍縮に応じるなら経済制裁を解除する考えを示している。これについて聞かれると、オバマはそもそもなぜ制裁を科したか、よく考えるようトランプに促した。ロシアのウクライナ侵攻とクリミア併合は既存の国際秩序を脅かす行為であり、だからこそわれわれは経済制裁を科したのだ、と。


「アメリカの利益だけでなく、国際的な規範を守るためにも、制裁を科した理由とその他の多くの問題をごっちゃにしないよう、きちんとけじめを付けるべきだ」


【参考記事】荒れる米大統領選の意外な「本命」はオバマ


 オバマは退任を目前にして、ウィキリークスに機密文書を漏洩した陸軍の元情報分析官チェルシー・マニングを減刑した。これについては共和党陣営から批判の声が上がっているが、オバマによれば、今回の措置で国家機密を盗んでも処罰されないといった風潮が広がる心配はない。マニングは既に数年間服役しており、「十分に罪を償っている」からだ。


【参考記事】退任直前のオバマが、駆け込み「恩赦」を急ぐ理由


 対イスラエル政策についても質問が出た。焦点となったのはトランプが舌鋒鋭く批判している問題、つまりヨルダン川西岸と東エルサレムにおける入植地拡大を非難する国連安全保障理事会決議2334号の採決にあたって、アメリカが拒否権を行使せずに棄権し、事実上決議の成立を容認したたことだ。


 オバマはトランプの親イスラエル政策をやんわりと牽制。アメリカは長年にわたり中東和平の実現に向け仲介努力を行ってきたと語った。2つの国家の平和的な共存に合意するよう「当事者たちに強いることはできない」が、イスラエルとパレスチナが合意に至らなければ、「この問題は解決できない。イスラエルが民主的なユダヤ人国家であり続けようとするなら(パレスチナ人国家と共存するしかない)。もう1つの選択肢は何らかの形で入植地を拡大し、1つの国家を目指すことであり、そうなれば何百万もの人々を抑圧することになる」


 トランプとトランプが駐イスラエル大使に選んだデービッド・フリードマンは、パレスチナ自治政府も将来の首都に望んでいるエルサレムに在イスラエルのアメリカ大使館を移転すると主張するなど、極端にイスラエル寄りの姿勢を打ち出している。オバマは「われわれの行動は非常に大きな影響や予期せぬ結果をもたらす」と次期政権に訴えた。「われわれの新しい大統領がこれまでの政策を検証し、練り直すのは正しいし、適切なことだと思うが、熟慮の上で決断してほしい」


 移民、性的マイノリティーの権利、人種差別などについても、オバマは「われわれの核心的な価値」を守るよう次期政権と国民に訴えた。アメリカで育った不法移民の子供を強制送還することやマイノリティーに対する組織的な差別は、中心の価値観に反する行為だと、オバマは語り、人種差別や警察の強引な取締り、有権者登録の妨害といった問題と「取り組む必要がある」と力を込めた。


「幸運を祈る」


「(黒人差別の州法)ジム・クロウ法や奴隷制にまで時を逆行するような差別意識があり、参政権の制限を黙認するような風潮もある」と、オバマは訴えた。「これはアメリカが最善に機能する形ではない。誰もが投票できる制度を保証するため、この問題にもっと関心を寄せてほしい」


 トランプ就任を前にアメリカの価値観を改めて強調したオバマだが、アメリカの未来を悲観しているわけではないとも語った。


 会見の終り近くには、トランプが就任しても世界が終わるわけではないと言い、「世界の終わりと言えるのは、世界の終わりだけだ」と、記者たちの不安をなだめた。


 質疑応答を終えると、オバマは記者団に感謝し、「幸運を祈る」と言って演壇を下りた。それは記者たちだけでなく、アメリカ全体に向けられた言葉のようだった。


From Foreign Policy Magazine



ロビー・グラマー、エミリー・タムキン


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  • 再検討とか、変化への対応...なんてもんじゃなく、もうとにかく当てつけの様に(いや実際当てつけだろう。カラード大統領に対する)自身の8年間をことごとく否定されては、心中穏やかではなかろう
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